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24 パンケーキが焼けるまで
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弱弱しく殿下は手を握り返してくれた……いや、握り返そうとしてくれていたようだ。ひび割れて変色した指先が微かに動いた。
「ああ、いいよ……一緒に謝りにいこ……ふふ……ふふふ……シャト……私のシャト……ごめんね、ごめん……」
「謝るのはヒッコリー夫人に会ってからにして、ホラン」
「そうか……そうだね、シャト……シャト、顔見たい」
そっとホルランド様のの顔を覗き込む。綺麗な青い目は濁っていて、俺の顔を映していない。カサカサの手を取って俺のほっぺたにくっつけてみる。何か伝わったのか少しだけ笑みを浮かべているようだ。
「今日はね、ここに来る途中で何にも食べてこなかったからお腹が減ってるんだ。ホランはどう?」
「私は、何も……食べたく、ないよ?」
「ボクね、ホランと同じものを食べたいんだ。ね?何食べる?」
「……じゃあ……料理長のパンケーキを」
「3段重ねのはちみついっぱいのやつ?」
「上にアイスクリームも乗せてる、あれにしよう」
ああ、小さい頃ご褒美で何回も食べたな。あんなに甘いものを食べたの初めてで俺の大好物になったっけ。あれが食べたくて色んな勉強頑張ったなあ。俺があんまり美味しそうに食べるから、ホルランド様が苺をくれたりクリームをくれたりしたっけ、懐かしいな。
「そうしよう。料理長に頼むね」
「ああ……あの時より、大きくなったから……私達、もしかしたら」
「6段重ねでも食べられるかもしれないね?」
「……ああ」
ホルランド殿下の言葉に懺悔が滲み始めたから、俺は話を途中で止めた。ったくしゃあねえ王子様だよ、この野郎は。
「ホラン知ってる? 私は男の子だったんだ」
「……知っている。小さい頃は一緒に風呂も入っただろう?」
「そうだね」
そういえばそうだ。お互いについてることを確認したこともあったっけ。それでも良いってニコニコ笑っていたよね。
「パンケーキが焼けるまで休んでなよ」
「シャト……どこにもいかないで」
「パンケーキが焼けるまでいるよ」
小さくなって壊れそうな手を握ると安心したように目を閉じた。うっすらと寝息が聞こえるからまだ生きている……このまま死んじゃったらどうしようと少し怖い想像をしてしまった。
少し青ざめた俺とは違って、周りの医師達は静かにホルランド様の眠りを妨げないよう、安堵の息を漏らした。後から聞いた話によると、ホルランド様は虚な目を開けたまま、ずっと眠っていなかったらしい。動けもしないのに、眠りもしない。幻覚と苦痛に呻き声をあげ、俺の名前を呼び続けていたそうだ。
「しゃあない、やるかあ。宰相、頼むね」
「しょうがないですよね、何せ7年分ですし」
「うん」
俺は殿下のベッドの横に倒れ込んだ。シャトルリアの体からするりと抜け出してホルランド様の体の中に入り込んだんだ。
きたねえ荒野みたいな中身だった。体の中は何となくピンクっていうかそう言う感じで認識している。でもホルランド様の中は赤茶けたゴツゴツした岩が無造作に積み上がった草一本も死に絶えた死の土地ってかんじだった。
血管もボロボロでちょっと突くと血が漏れそう。きっとちょっとの衝撃で内出血しちゃう奴だ。現に何もしていないのにドロドロと濁った赤黒い何かが漏れ出しているのが見えた。魔力回路もぼろぼろ。あちこちにヒビが入って魔力が垂れ流されてる。赤ん坊でもゆっくり回っているはずの魔力が殆ど動いていない……動かせば漏れて無くなるからその方がいいのか……?慎重に慎重に頭の方に移動してみた。俺の糸クズ本体が当たっただけでもボロボロ崩れていくような外壁、黒ずんで死にながらも何とか形だけは残しているような管を壊さないようにゆっくりゆっくり移動した。
こっちも本当にボロボロだった。生きてるのが不思議ってやつだ。柔らかい脳のほとんどが硬くなったり赤黒くなったり……変な匂いしたりしてる。これ、薬のせいみたいだな。
そして俺は上を見上げて呆然とした……でけぇ……どぶ沼色の瘤を見つけちゃった。これ、多分……腫瘍だ。ホルランド様の頭痛はコレのせいだったんだ、この人、ずっと前からこの巨大な脳腫瘍のせいでずっと頭が痛くて、その痛みを止める為に変な薬を飲んじゃった。俺が気が付いていれば、俺が……ホルランド様がホルランド様らしくなくなった時に、俺がホルランド様の頭の中を見ていればこんなことにはならなかったのに。こいつが脳の血管を押して詰まらせ、神経を圧迫して壊死させたのが原因で間違いない。
きっとこれが出来たせいで性格が変わったんだ。だって殿下は穏やかで優しくて……俺をみて舌打ちなんかする人じゃなかった。何も考えずに令嬢を侍らす人じゃなかった。とても……真面目で俺のこと優しくしてくれて可愛がってくれて俺を大好きだって言ってくれて……俺、俺だってホルランド様のこと大好きだった。
任せとけ、俺が治してやる。
「ああ、いいよ……一緒に謝りにいこ……ふふ……ふふふ……シャト……私のシャト……ごめんね、ごめん……」
「謝るのはヒッコリー夫人に会ってからにして、ホラン」
「そうか……そうだね、シャト……シャト、顔見たい」
そっとホルランド様のの顔を覗き込む。綺麗な青い目は濁っていて、俺の顔を映していない。カサカサの手を取って俺のほっぺたにくっつけてみる。何か伝わったのか少しだけ笑みを浮かべているようだ。
「今日はね、ここに来る途中で何にも食べてこなかったからお腹が減ってるんだ。ホランはどう?」
「私は、何も……食べたく、ないよ?」
「ボクね、ホランと同じものを食べたいんだ。ね?何食べる?」
「……じゃあ……料理長のパンケーキを」
「3段重ねのはちみついっぱいのやつ?」
「上にアイスクリームも乗せてる、あれにしよう」
ああ、小さい頃ご褒美で何回も食べたな。あんなに甘いものを食べたの初めてで俺の大好物になったっけ。あれが食べたくて色んな勉強頑張ったなあ。俺があんまり美味しそうに食べるから、ホルランド様が苺をくれたりクリームをくれたりしたっけ、懐かしいな。
「そうしよう。料理長に頼むね」
「ああ……あの時より、大きくなったから……私達、もしかしたら」
「6段重ねでも食べられるかもしれないね?」
「……ああ」
ホルランド殿下の言葉に懺悔が滲み始めたから、俺は話を途中で止めた。ったくしゃあねえ王子様だよ、この野郎は。
「ホラン知ってる? 私は男の子だったんだ」
「……知っている。小さい頃は一緒に風呂も入っただろう?」
「そうだね」
そういえばそうだ。お互いについてることを確認したこともあったっけ。それでも良いってニコニコ笑っていたよね。
「パンケーキが焼けるまで休んでなよ」
「シャト……どこにもいかないで」
「パンケーキが焼けるまでいるよ」
小さくなって壊れそうな手を握ると安心したように目を閉じた。うっすらと寝息が聞こえるからまだ生きている……このまま死んじゃったらどうしようと少し怖い想像をしてしまった。
少し青ざめた俺とは違って、周りの医師達は静かにホルランド様の眠りを妨げないよう、安堵の息を漏らした。後から聞いた話によると、ホルランド様は虚な目を開けたまま、ずっと眠っていなかったらしい。動けもしないのに、眠りもしない。幻覚と苦痛に呻き声をあげ、俺の名前を呼び続けていたそうだ。
「しゃあない、やるかあ。宰相、頼むね」
「しょうがないですよね、何せ7年分ですし」
「うん」
俺は殿下のベッドの横に倒れ込んだ。シャトルリアの体からするりと抜け出してホルランド様の体の中に入り込んだんだ。
きたねえ荒野みたいな中身だった。体の中は何となくピンクっていうかそう言う感じで認識している。でもホルランド様の中は赤茶けたゴツゴツした岩が無造作に積み上がった草一本も死に絶えた死の土地ってかんじだった。
血管もボロボロでちょっと突くと血が漏れそう。きっとちょっとの衝撃で内出血しちゃう奴だ。現に何もしていないのにドロドロと濁った赤黒い何かが漏れ出しているのが見えた。魔力回路もぼろぼろ。あちこちにヒビが入って魔力が垂れ流されてる。赤ん坊でもゆっくり回っているはずの魔力が殆ど動いていない……動かせば漏れて無くなるからその方がいいのか……?慎重に慎重に頭の方に移動してみた。俺の糸クズ本体が当たっただけでもボロボロ崩れていくような外壁、黒ずんで死にながらも何とか形だけは残しているような管を壊さないようにゆっくりゆっくり移動した。
こっちも本当にボロボロだった。生きてるのが不思議ってやつだ。柔らかい脳のほとんどが硬くなったり赤黒くなったり……変な匂いしたりしてる。これ、薬のせいみたいだな。
そして俺は上を見上げて呆然とした……でけぇ……どぶ沼色の瘤を見つけちゃった。これ、多分……腫瘍だ。ホルランド様の頭痛はコレのせいだったんだ、この人、ずっと前からこの巨大な脳腫瘍のせいでずっと頭が痛くて、その痛みを止める為に変な薬を飲んじゃった。俺が気が付いていれば、俺が……ホルランド様がホルランド様らしくなくなった時に、俺がホルランド様の頭の中を見ていればこんなことにはならなかったのに。こいつが脳の血管を押して詰まらせ、神経を圧迫して壊死させたのが原因で間違いない。
きっとこれが出来たせいで性格が変わったんだ。だって殿下は穏やかで優しくて……俺をみて舌打ちなんかする人じゃなかった。何も考えずに令嬢を侍らす人じゃなかった。とても……真面目で俺のこと優しくしてくれて可愛がってくれて俺を大好きだって言ってくれて……俺、俺だってホルランド様のこと大好きだった。
任せとけ、俺が治してやる。
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―――
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