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29 それ故のリリアス

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「シュー。この娘を誰だか知っていて?」

「私の嫌いな女です。良くもまあ私が嫌う事ばかり集めた物だなと感心致しますよ」

「おやおや……シュー殿下、それは天敵ですかねぇ。しかしその娘、第一王子に用があるとか無いとか。王家に余計な混乱でも招き入れようとする痴れ者ですかね?」

 フィル兄様の言葉を聞いて、影に控えていた衛兵が20人ばかり走り込んできます。

「ひぃ!」「いやぁっ」「うっ!」

 元家族は衛兵の槍に取り囲まれてしまいました。

「で、こやつらは何者なのだ?」

「男はユーティアの血縁上の父親です。残りの女どもはその男の妻子となっていますが疑わしいですね」

「ふむ、調書のアレか。まさかとは思ったが本当にこのような貴族の何たるかを理解できていない人物が存在するとはな。お主がラング侯爵と言うのは誠か?」

 陛下が元お父様に声をかけます、一瞬口を開きかけたミーアに衛兵の槍が突きつけられて開こうとした口を閉じさせました。本当に、ミーアは何を考えているのでしょうか?元お父様に発言の許可が頂けたのに、何故自分で訴えようとするのか。

「わ、私がユーティアの父親のチャールズ・ラングでございます!」

「元、ですけどね」

 ご挨拶もなしでとりあえずそれだけを口にする元お父様。それは誰でも分かっている事なのですよ、陛下は調書を読んだと言っているでしょうに……。つまらん、と言う顔としっかり訂正するフィル兄様。そうです、私はもうラング家の娘ではありません。今更父親ぶられてもフィル兄様に失礼と言う物です。

「して、我が息子の婚約者にして「グラフの末の娘」たるユーティアを長年苦しめたらしいが、それについてはどう思っておるのだ?しかも先代のユリアデットも随分とぞんざいに扱っておるようだが、お前はグラフをなんだと思っておるのだ?」

「ぞ、ぞんざいになど扱っておりませぬ……グ、グラフは……持つ者に富と幸福を……」

 しどろもどろに答えていますが、皇帝と皇妃様、そしてこの帝国の人間の目が冷たい事に気が付いて、言葉はどんどん小さくなり消えていきます。元々権力にはとても弱いお方。陛下の前できちんと喋る事などできそうもないのです。

「リリアス公よ。帝国以外でのグラフはそのような扱いなのか?いくら「グラフの末の娘」が自らの意思で他国へ行きたいと言っても辞めさせるべきだったのではないのか?」

「偉大なるグラフ様をそのように扱う国などありませぬよ、陛下。この男は調書にあった通りの男だっただけなのです。それに「グラフの末の娘」自らが望んだことであればリリアスはそれを止めることは出来ない。そういう約束なのですから」

「リリアスに出来ぬ事ならばこの帝国で誰も出来ぬではないか……」

「そういう事でございます」

 ため息をつく陛下と、にこりと笑うフィル兄様。だからリリアス家は筆頭であり、私は次期皇妃に相応しいということなのだそうだ。



 

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