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「ぎゃあああー!!」

 朝早くにメイドの悲鳴で屋敷は慌ただしくなった。

「なんだ?!セラス様の部屋の方から?!」

 アランはさっと着替えて、走り出した。

「セラス様っ!」

 扉を乱暴に開けると、風に切り裂かれたように傷だらけのメイドと、ベッドの上で小さくなって震えているセラス様が見えた。

「アラン……?アラン、どこ?見えない、見えないの……怖い、怖いし、痛いよ……アラン、アラン……」

 目の焦点が合っていない。それに右腕から血を流している。

「ここです!私はここです、セラス様!」

 走り寄って、ふわふわと空を漂っていた両手を掴んて抱き寄せた。

「アラン?アラン、見えない、また見えない……嫌だ、また何も分からなくなるのは嫌だ。助けて、助けてアラン!」

 血に濡れた手で私にぎゅっとしがみついてくる。ああ!なんてお可哀想な!そう思う反面、喜びも湧き上がってくる。こんなにも求めてくださる事が!
 この可愛い方は私がいないと何も出来ないということが!

「大丈夫です、アランです。目はすぐに見えるようにします。そらよりこのお怪我はどうなさったのです?」

「寝てたら、突然。誰か入ってきたみたいだった。一人でいたくない、アランやっぱり一緒にいて。ここのやつら、夜に僕を虐めるんだ」

 ガタガタと震える体を包み込むと、少し安心したのか、力が抜けた。

「何があった?!」

 管理官が遅れて飛び込んで来る。

「どうやら、セラス様がそのメイドに襲われたようです。メイドは全員捕らえたのではなかったのですか?!」

 血塗れで床に横たわるメイドは手に短剣を持っている。それでセラス様を刺したのだろう。怪我の具合からすればメイドの方が重傷だが、我々はセラス様の方が大切だ。

「全員のはずだ。名簿も照らし合わせた。辞めさせられた者達の照合はまだまだが、このメイドは一体?!」

「ミリィ!いやぁ!!」

 メイド長が叫び出す。

「ミリィ!ミリィ!一体何が!!」

「メイド長、お前の知り合いか?」

「娘です!ミリィ!」

 静止を振り切り、メイド長は傷だらけの娘に駆け寄る。

「ミリィ!ああ!生きてる!良かった、神様、ありがとうございます!」

 ひとしきり神に祈った所で、セラス様の方を向いて鬼の形相を見せた。

「この人形のくせに!人間のなりそこないのくせに!私の可愛い娘に怪我なんかさせて、タダで済むと思ってるのかい!汚らしいゴミクズ!今日こそはくびり殺してやるっ!」

「助けて!アラン!あいついつも僕を殺そうと首を絞めるんだ!怖いっ」

 なんて事を!可愛いセラス様に暴言を吐くだけでも許されないのに、首を絞める?!この細くて可憐な首にあんな狂女の指が触れていいわけないだろう!
 セラス様を背中に隠して、迎え撃とうとしたが、メイド長は管理官の連れてきた兵士に蹴飛ばされ

「ぎゃっ!」

 と、言いながら床に転がった。

「本当になんて事をしてくれる親子なんだ!あり得ない!」

 管理官は絶望に打ちひしがれるが、明らかにしなければならない事が多すぎた。

 
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