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28 ダンスはまだまだ

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 学園の授業の中で一目でどうやっても優劣が付く物、それはダンスの授業だと思います。

「背の高さ順にペアになって貰います」

 ダンスの教授は中々公平な方で「気の合う同士」とは言わないで下さったので少し安心です。このままでは私の相手はいない所でしたから……いない方が良かったのかもしれません。

「お前、いい気になるなよ」

「はあ?」

 ペアを組んだ男子生徒……名前はウィズリー・ストンプ伯爵令息でしたか。どうでもコリアンナ様の指令を受けてきているようです。

「派手に転ばせてやる!」

 ウィズリーさんは私を振り回そうとしますが、そんなやわ腕で私は吹っ飛びませんよ……。

「あの、ステップを覚えて来ていらっしゃいます?」

 左右にステップを踏む場面でぐるりと回転したがるのはちょっと困ります。私の制服のブラウスをぎゅっと握り締め、振り回そうと必死です……やめてくださいブラウスがやぶれま……。

「ウィズリー・ストンプ!君は何をしているんだ!」

 ビリィイイイイ!という派手な音と共に私のまだらブラウスの袖が破れてしまいました。そりゃそうですよ、布ですもの。

「こ、この!この女が、う、動かないんだ!!」

「曲はまだ序盤でゆっくりとリズムを取る場面です、そんなに激しい動きをするわけがないでしょう!」

 顔を真っ赤にして何ならはぁはぁと肩で息をしそうなウィズリーさん。私ですか?破れた袖をどう直そうか、まだらブラウスですから流石にお雑巾に仕立てましょうかと、悩んでいる所です。

「マリー・ロンド。着替えてくるがいい。ストンプ君はダンスをする資格を有しておらぬようだ。出て行きなさい」

「クソッ」

 ウィズリーさんは悪態をついてダンスの練習フロアから出て行ってしまいましたが、その立ち去る態度も採点されていますよ?私も新しいブラウスに着替える為に練習フロアから出ようとして、全体をふと見回してみました。
 流石に幼少時より習っている高位貴族の皆様は踊れています……。

「なんと、優雅さに欠ける者ばかりだ」

 ダンス学科の教授はため息をついて採点表に何か書きこんでいます。優雅さ……。確かにコリアンナ様を筆頭に踊れてはいます。しかし、教授の仰る優雅さという点では……動くたびにぶれる上半身。目立つように大きく振り上げる腕。一度でぴたりと決まらない足元など、成程これが積み重なって乱雑な印象を受けるのですね。

 とりあえず着替えようとフロアを出ると王太子殿下の影の方がすっとブラウスを一枚差し出してくださいました。

「申し訳ありませんが、今まで着ていた破れた物を頂いても?」

「変な事に使わないで下さいよ?」

「虐めの物的証拠にするだけです」

 ……まあブラウスであれば……新しい物はサイズも丁度良いですし、素材も良い物を使っているようで手触りも素敵な高級品でした。これは私がいつも着ているものとは違いますね。

「……では、こちらを」

「助かります、マリー嬢」

 きちんと折りたたんで影の方に手渡すと、すっと頭を下げた後溶けるように消えてゆきます。流石王家の影の方は手練れですね。

「私でもたまにどこにいるか分からなくてびっくりしてしまいますものね」

 気配を読むのは得意な方なのですが、私もまだまだなのでしょう。レベルアップしたいものです。

 
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