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社畜と入れ替わった闇暗殺者の私と同期の話

4 私のことはリンと呼んでほしい

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 それに気づくとマジマの行動はすべて腑に落ちた。

「行くぞ、谷口」
「あ……」

 そう言いながらマジマは私の手を取って歩き出す。ナルミはあまり背が高くないから、手もそう大きい方ではなかった。だから繋いだマジマの手が大きく感じて、久しぶりに誰かに守られている気持ちになれた。
 元の世界では私より強い人間は数える程しかいなかったから、私は守られる側になる事は殆どなかった……なんて心地良いんだろう、思わず頼れる手のひらをキュッと握り返す

「谷口?」
「大丈夫です、マジマ。行きましょう」

 大きくて暖かい手。私が長年求めていたのはこの手だったのかもしれない。


 マジマは私の家に泊まり込んで、この世界のことを色々教えてくれた。元々うっすら残っている記憶もあり、何とか馴染み始めて来た。
 マジマが知らせてくれたのかナルミの両親もやって来たが、近くのファミレスで顔を合わせた……二人に会っても私の中にナルミの記憶は戻っては来なかった。

「しばらく様子をみましょうという医師からの診断です」
「鳴海、家に戻ってはどうだ?」

 ナルミの父親の提案に、マジマは首を横に振った。

「記憶の混乱が治るまであまり環境は変えない方が良いそうです」

 そんな事医者は言ってない気がするが、私もここにいたい。

「あ、あの……ごめんなさい、ここにいたいです」
「そうか……焦らず、だな。もし、お前の記憶が戻らなくてもお前は私達の息子だ」
「ありがとうございます」

 ナルミには上に姉、下に弟がいる。最悪ナルミが私のままでもナルミの両親は一人ぼっちになることはない……しかし、親とは不思議なものだ。気が付いたら孤児だった私とは違って優しいまなざしでナルミを見てくる。その慈愛に満ちた目が自分に注がれているような気がして心が少し暖かくなった……なんていい両親なんだ。
 違う土地に暮らしているとかでナルミの両親は帰って行った。そしてマジマとナルミの借りているアパートへ戻る。

「コンビニ寄るか」
「分かりました、マジマ」
「……なあ、谷口……いや、リンだっけ?君は」
「はい、そうです。マジマ」

 舗装された道をマジマと並んで歩く。

「……良かったら徹と呼んでくれないか?」
「はあ?構いませんが……トール……トウル……トオル……?徹、こうですか?」
「っ……あ、ありがとう谷口。谷口に名前を呼ばれるのってなんか新鮮だな」

 はあ、マジマはナルミに名前を呼んでほしかったのか……でもそう来るなら私もこう言わざるを得ない。

「では、私のことはリンと呼んでいただけますか?」
「……そう、だな。今は谷口じゃなくてリンだったな」
「はい、リンです」

 マジマ……徹には悪いが私はタニグチではないのだ……君が好きなタニグチナルミでは、ないのだから。




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