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80 明日(フロウライト
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だから、明日は出かけようと思う。
マーク、いや凛莉は昼間、私に意地の悪いことをいう。
「私はお前を虐めてやる」
「何故」
「うるさいっ」
お人好しのマークの顔でもなく、闇暗殺者の凛莉の顔でもない、知らないけれど知っているような別人の顔で怒っているのか照れているのか……とにかく素の感情が乗った顔で言うのだ。
最初はまったくわからなかったがマークである時と凛莉である時、その二つを糊のように貼り合わせているのはこの顔……なんでも違う世界からやって来たナルミという顔らしい。
違和感などない。私の中の凛莉は最初から「こういう存在」だった。暖かい陽の光のようで、どこか落とした影は驚くほど冷たかったり、鋭く尖った刃物のようで意外と丸みがあったり。その中に隠されている可愛らしさに胸の奥をギュッと掴まれている気がするするのだ。
「ひっ……昼に仕返ししないとやり返せないじゃないか……っ」
「……存分に意地悪をして欲しい」
「うーっ!」
これには思い当たる節があり過ぎたので、マークでもなく凛莉でもなく、ナルミの顔をした恋人を抱き寄せる。こういうときは大人しく引き寄せられるところも可愛いのではないだろうか?
「ぐっぐるじぃ……!」
「あっ」
常人なら骨が砕けるぞ、とまた意地の悪いことをいうがこれは仕方がないのだ。
毎夜、凛莉に無理をさせていることは重々承知だからだ。受け入れる側の負担が大きいのは知っている。それを知っても迎え入れてくれるそれだけでも嬉しいのだが、音を上げてからの凛莉が凄まじすぎるのだ。
「も、むりぃ……っ」
若干舌ったらずのような、かすれた声で嫌がるその顔も声も仕草もすべて堪らないのだ。本気で嫌ならどちらかが大怪我を負ったとしても逃げ出す事の出来る男だ。それなのに弱い力で押し返すだけ……だから、と調子の乗ってしまっているのもある。
「凛莉っりんりぃっ……!」
「やめて……も……イきたく、ない……ああんっ! うごかないで……っ」
切れ切れに啼く声。嫌だと首を振って薄く涙ぐむ真っ赤な顔。そして嬌声に哀願が混じる頃、更に深みに導かれる。
「やぁっ……んっ、あぁ……」
蕩けた顔でほとんど焦点のあっていない目でしがみついてくる。その様子も愛おしいのだが、自分よりあるいは強い男を組み敷いている優越感と支配感がないとはいえない。そしてそれを許してくれている懐の深さと中のうねり具合と……とにかく止められないのだ。
そして完全に意識を飛ばす寸前、いつからか凛莉は聞いてくるようになった。
「……私のことは好きか……?」
多分、これは凛莉。
「ねえ……私のことは……」
そしてマーク。
「俺のこと……」
そしてナルミだろう。三回同じような問いを切れ切れに口にして、私はすべてにそうだ、愛していると答える。それを聞いて気を失ってしまうのだが、今日はすべての力がすっと抜けてしまう前に答えたのだ。
「うん、おれも……すき……」
だから、明日は出かけよう、凛莉と一緒にこの国で一番大きな神殿に結婚の誓いを立てに行こう。ずっと一緒にいると神に約束をするのだ。
明日になるのが楽しみだ。
マーク、いや凛莉は昼間、私に意地の悪いことをいう。
「私はお前を虐めてやる」
「何故」
「うるさいっ」
お人好しのマークの顔でもなく、闇暗殺者の凛莉の顔でもない、知らないけれど知っているような別人の顔で怒っているのか照れているのか……とにかく素の感情が乗った顔で言うのだ。
最初はまったくわからなかったがマークである時と凛莉である時、その二つを糊のように貼り合わせているのはこの顔……なんでも違う世界からやって来たナルミという顔らしい。
違和感などない。私の中の凛莉は最初から「こういう存在」だった。暖かい陽の光のようで、どこか落とした影は驚くほど冷たかったり、鋭く尖った刃物のようで意外と丸みがあったり。その中に隠されている可愛らしさに胸の奥をギュッと掴まれている気がするするのだ。
「ひっ……昼に仕返ししないとやり返せないじゃないか……っ」
「……存分に意地悪をして欲しい」
「うーっ!」
これには思い当たる節があり過ぎたので、マークでもなく凛莉でもなく、ナルミの顔をした恋人を抱き寄せる。こういうときは大人しく引き寄せられるところも可愛いのではないだろうか?
「ぐっぐるじぃ……!」
「あっ」
常人なら骨が砕けるぞ、とまた意地の悪いことをいうがこれは仕方がないのだ。
毎夜、凛莉に無理をさせていることは重々承知だからだ。受け入れる側の負担が大きいのは知っている。それを知っても迎え入れてくれるそれだけでも嬉しいのだが、音を上げてからの凛莉が凄まじすぎるのだ。
「も、むりぃ……っ」
若干舌ったらずのような、かすれた声で嫌がるその顔も声も仕草もすべて堪らないのだ。本気で嫌ならどちらかが大怪我を負ったとしても逃げ出す事の出来る男だ。それなのに弱い力で押し返すだけ……だから、と調子の乗ってしまっているのもある。
「凛莉っりんりぃっ……!」
「やめて……も……イきたく、ない……ああんっ! うごかないで……っ」
切れ切れに啼く声。嫌だと首を振って薄く涙ぐむ真っ赤な顔。そして嬌声に哀願が混じる頃、更に深みに導かれる。
「やぁっ……んっ、あぁ……」
蕩けた顔でほとんど焦点のあっていない目でしがみついてくる。その様子も愛おしいのだが、自分よりあるいは強い男を組み敷いている優越感と支配感がないとはいえない。そしてそれを許してくれている懐の深さと中のうねり具合と……とにかく止められないのだ。
そして完全に意識を飛ばす寸前、いつからか凛莉は聞いてくるようになった。
「……私のことは好きか……?」
多分、これは凛莉。
「ねえ……私のことは……」
そしてマーク。
「俺のこと……」
そしてナルミだろう。三回同じような問いを切れ切れに口にして、私はすべてにそうだ、愛していると答える。それを聞いて気を失ってしまうのだが、今日はすべての力がすっと抜けてしまう前に答えたのだ。
「うん、おれも……すき……」
だから、明日は出かけよう、凛莉と一緒にこの国で一番大きな神殿に結婚の誓いを立てに行こう。ずっと一緒にいると神に約束をするのだ。
明日になるのが楽しみだ。
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―――
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