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81 口、ついてんだろ?!
しおりを挟む「ついて来て欲しい所がある」
「良いけど……」
いつも通り気怠い朝を迎えて、おはようの挨拶を交わす前にフロウライトにいわれた言葉。謎だ。予定していたこともないし、日々のルーティンをこなすだけだから構わないのだけれど、一体なんなの……。
ゲームの世界故の文明の力が端々に宿っている異世界、ふかふかで柔らかく枕にしたくなるほどの食パンを分厚く四枚切り出しバターとハチミツをたっぷり乗せて焼く。一人二枚であり、トースターもあるから便利な物だ。
一人でいた時はそんなことすら面倒でやっぱり存在しているコーヒー一杯で済ませて出かけていたが、それに比べたらまあ食うようになった。なんだかんだ体力資本派な俺達だから食わなきゃやってられない、腹が減るんだ……夜の運動のせいじゃないぞ。
「行こう」
「良いけど、どこへ?」
朝食の食器を片付けて、外に出る。どうしてか行き先は教えてくれないが、フロウライトは俺の手を握って大股で歩き出す。何か考え事に囚われているのか、周りに対する注意が散漫だ。一体何をそんなに考え込んで一生懸命なんだか……分からん。
昼飯をどこで食べようか悩んでるんじゃないだろうな??こいつそういう所あるからなー……信用できない。
しばらく、いやかなり街を歩き、街の中心地に近い場所にある白亜の建物の前に着く。
「これは」
この国で一番大きな神殿……大聖堂だ。真っ白な外観に窓には巨大なステンドグラスが嵌め込まれ非常に美しい。ゲームでヴィジュアルイラストにもよく使われる清廉で荘厳な場所。
闇暗殺者と対極のような絶対に近づかない場所……ナマで初めて見たわ、すげー!
「行こう」
「なんで?!」
俺、まったく用事ないし!つい素が出たけれど、フロウライトは俺の手を掴みぐいぐいと中に入っていく。ちょ、ちょっとー!
ふわっふわな赤い絨毯、装飾の美しい飾り窓。物凄く高い天井には色彩豊かに描かれた神々の姿絵。たなびく白い布。どこをどう切り取っても素晴らしい大聖堂の中央を早足で歩くこれまた似つかわしい聖騎士とそいつに引き摺られる勢いで連行される俺。この空間に似合わないのは俺一人だけ……いや、マークは一応治癒術師なんだから、まぁギリギリセーフか?
いや、違うな。マークはせいぜい地方の鄙びた教会が精一杯。こんなでかい豪華な建物にゃ無理無理。場違い感が半端ない、帰りたい帰らせて!
「フ、フロウライト、さんっ」
なんで俺がここに連行されるんですかね?!そろそろ理由とか教えて貰えないですかね?!それでも無言で前ばかり見ているフロウライト。このまま行くと赤い絨毯の途切れる最奥まで行っちゃうんじゃないですかね??
「一体」
何しに来たのかそろそろいえよ、石頭っ! 口、ついてんだろっ!!ついそんな言葉がでそうになる直前にフロウライトの足がやっと止まった。
「来たな、待っていた」
「げ」
不味い、今日は素がはみ出やすい日だ。真っ赤な絨毯の途切れる先頭には高くなった祭壇があり、その前に天使らしい天使。今、この世界で一番神に近しい存在と言われている聖職者極のパールホワイトが巨大な真っ白い羽根を背に神々しく立っていた。
俺はあんまりパールホワイトが好きではない。あの万人に好かれる天使の微笑みが胡散臭く見えて嫌いなんだ。それならまだ虚無顔の天魔族の魔術師極のオニキスの方が好感が持てるつーの。
「げ、とはなんだ。マラカイト・凛莉」
げげっ! と口から出そうになってなんとか押し留める。まぁそりゃ俺の正体に気がついて当然か……だから本当に何しにこんな所に来たんだよ!フロウライト!
少し離れた場所に人の気配はあれどパールホワイトの声が届く範囲には誰もいない。俺はちょっと安心して不機嫌に顔を顰める。なんなの?パールホワイトもフロウライトも。用事がないなら帰るけど?天井から窓とか壁とか装飾がめちゃくちゃ多いから掴まるところ多そうで、すぐ隠れられそうだし。俺に一番不似合いな場所で盛大に顔を顰めた。
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