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84 一言言っておきたい
しおりを挟む「アロウ様、少しだけ」
「アウリー、私は可愛い婚約者の君を人の言葉も理解できぬ者に近づいて欲しくないと思っているんだよ?」
アロウ様が本気でそう思っているのは重々承知の上だが、大好きな貴方をコケにされて黙っているなんて、元悪役令息の沽券に関わるというものです!
「大丈夫ですよ、ヨキシャとレンスンにも来てもらいますし」
というかすぐそこにいるんですよね。アロウ様なら2.3歩で駆け寄れる距離ですよ? 心配し過ぎです。
「それに……樽と桃には負けませんから」
「た、樽と……桃……」
「はい!」
後ろでヨキシャとレンスンが吹き出した。二人も全然負ける気がしていないん
だろうな、結構リラックスしているみたいだ。
よし、と顔を上げてほんの少しだけ口元にだけ笑みを乗せた顔を作る。但し視線は冷たいまま。踏み出す一歩も力強くもあり、繊細でそして美しく。全てを平伏させるように、そして大地の力を吸い取って自らの力にするように。力ある肉食獣が、震える小鼠を足で踏み付け、いたぶって丸呑みするかの如く。
歩き易い靴でも、この綺麗に並べられた石畳の上で威嚇するような靴音を鳴らす。カツ、カツ、カツ。
弾劾の槌の音に聞こえるといいさ!
「はわぁ……お人形さんみたい……可愛い……きれぇ……」
「ほへぇ……」
こっちを惚けてみている親子。それに向かって口の端を少し上げる。笑みに見える? そう感じたなら、浅はかだ。
「ふえぇ……わ、笑ったぁ」
「おっ……おっ……」
つられたのか二人の口元もだらしなく弛んだ。なんと醜い……。
「お初にお目にかかります、私がアウラリス・ディーズです。この度は誠に」
一旦言葉を切って、息を吸い込む。
「非常に得難く、素晴らしい婚約者様を我が元に解き放っていただき誠にありがとう存じます。おかげさまで大変充実した喜びに満ちた毎日を過ごしておりますれば、手放すという選択肢は我が一生の内にはあり得ぬことですので、今後一切の関わりはせぬよう願い申し上げます」
ギリッと睨みつければ、フォッフ親子の顔色が真っ青に変わっていった。
「下衆が、二度とアロウ様の前に現れるんじゃない……っ!」
小さな声で呟くと、細い悲鳴めいた物が上がったから脅しは効いたようだ。縮み上がる親子に完璧な礼を一つして、くるりと背を向ける。もうこんな不快な連中を視界に入れたくない。
「まさか私をアウラリス様と間違えるなんて、笑える所の話じゃないですよぉ~」
「だなぁ~。一体どんなガセネタを掴まされて信じ込んだんだか、意味わかんないなぁ~」
ブルブル震えるフォッフ親子にヨキシャとレンスンが追い打ちをかけてくれる。
「もしかして、そっちの丸い人間じゃなくて桃みたいな令嬢はアウラリス様に勝てると思ったのかなぁ?」
「うーん、それは天地がひっくり返っても無理じゃない? ああ見えてアルバルスト様は細い子が好みだから桃みたいにでっぷりしてるのは駄目だと思うよぉ~」
「アルバルスト様が好きなのは細い子じゃなくてアウラリス様だぞ。もし、アウラリス様がぷくぷくになったら、それはそれで良いに決まってるさ」
「あっ! そっかぁ~! でも桃はでっぷりとは言わないよ、ヨキシャ」
「そうだなぁ~本物の桃なら良い匂いするだろうけど、なんか臭いなぁ……? 古い脂の臭いがしねぇ?」
「あー! 美味しくないコロッケの臭い?」
「そうそう! それそれ!」
ちょっと、二人とも! 何言ってるの、良い加減にしなさいっ! かっこよく去ろうと思っているのに、笑いそうになるじゃないか!
もはや周りの騎士達の耳に届いているらしく、抑えた笑い声が聞こえて来てる!
「ぷ、ぷぷ……あ、あいつら……」
「言い得て妙な、ことを……ぷぷっ」
二人ともやめてー! 恥ずかしいっ!思わずアロウ様の隣に足早に戻ってしまった。
「アウリー……ありがとう」
「ほ、本当のことを言っただけです。もっともっと色々言いたいことはあるけれど、国王陛下をお待たせ出来ませんし」
「うん……うん、そうだね。私の可愛い人」
そう言って抱き寄せてくれるから、なんだかすべてどうでもよくなってしまった。
「はい……っ!」
ぴったり寄り添って、アロウ様と一緒に王宮へ向かう。
「おっと、レンスン。急がなきゃ置いて行かれるぞ」
「本当だぁ~早く追いかけよ、ヨキシャ。騎士様達、あとはお願いしまーす」
「任せて下さい!」
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