【完結】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

文字の大きさ
136 / 138
番外編

3 春の日の大騒ぎ

しおりを挟む
 どれくらいその場で倒れていたのか分からないが、ぽかぽかと春の暖かい日差しが窓から降り注いでいる。死を目の前に控えた私にすら春というものは安らかなぬくもりを与えてくれる……。

「ああ……暖かい……まるでアウリーのようだ……」

 私の愛しい伴侶はその見た目とは裏腹にとても情に厚く温かい。性格だけでなく体も温かいのだが、それを知るのはこの世界で私だけでいい……。

「それなのに君は私を捨てて……うう……」

 日差しは暖かいのに心は真冬の曇天より暗く冷たかった。ああ、なんという皮肉だろう、こんな良い日に私は死出の旅立ちを決めてしまうのだ。

「……さま~…‥アロウ、さま~」

 それでも愛しい伴侶の声が聞こえる。哀れな私が生み出した優しい幻聴なのか……どう頑張ってもアウリーのことを嫌いにはなれない……。

「アロウ、さま~~!」

 いや、幻聴ではないぞ、これはちょっと頑張って遠くから私を呼ぶときのアウリーの声だ、断じて幻聴ではない。一体どこから聞こえてくるのかと顔を上げる。中庭に面したバルコニーの方からだ。このバルコニーはダレンが夜に忍び込もうとして失敗し、ものの無残に地面に落下、そしてモンティ姉上に踏まれて観念したあのバルコニーだ。
 そんな縁起の悪いバルコニーだが、そちらからアウリーの声が聞こえてくるならば確かめてみなければいけないだろう……もしかしたらやっぱり都合のいい幻聴かもしれない。
 よろよろと窓に近づき、ゆっくり窓を開く。ふわりと薄いカーテンがなびき、春の陽気を含んだ風が頬を撫でた。暖かい、外遊びにぴったりな春の日だった。

「アロウ、さ~ま~! あ、アロウ様、アロウさま~!」
「……アウリー……」

 水色の長い髪を私が贈った紫水晶が付いた髪留めで留めたアウリーが笑顔で手を振っている。ああ、なんて可愛らしくて美しい私のアウリー……私は君をこの手で……。

「見てください~、アルは乗馬も上手なんですよ~」
「きゃーい!」
「え?」

 アルドフェルドはまだ馬に乗れる年頃ではない……しかしアウリーの近くをよく見るとアルドフェルドが馬に乗っている……。

「わぁ~アル様お上手ですよ~」
「すごいすごい~~!」

 ヨキシャが押しているモノは馬だ……木製の玩具だ。馬の形をしていて、鞍にあたる場所に籐で編んだ籠のような椅子がしっかり備え付けられている。両足を下に出せるようになっていて小さな子が乗っていても落ちることはないだろう。そして馬の足は4つの車輪がついていて、馬の尻の辺りから突き出たハンドルのような物をヨキシャが押して……馬の乗り物はゆっくり中庭の芝生の上を移動していた。それに乗って私達の可愛い愛する息子のアルドフェルドはご機嫌で、可愛い手を振っている。

「う……馬、だ」
「ええ! 昨日フィーラから届きました~。キリアス義兄上が贈って下さったんですよ、アルが興味津々で早く乗りたかったみたいです」
「ア、アルが……乗る、馬だ……はは、ははは……」
「アロウ様?」

 なんだ、馬は玩具の馬だったのか……。

「自分の乗馬姿をお父様に見せてびっくりさせたかったんですよね、アル?」
「きゃーい!!」
「ふふ、上手でしょう? 内緒にしていてすみません」
「あ、ああ! すごく……驚いたよ!」

 内緒ってコレのことだったのか……良かった! ぽかぽかした明るい陽気の中で、最愛の伴侶が息子と一緒に手を振っている……二人とも春に負けないぽかぽかの笑顔で、私の杞憂を一撃で粉砕してくれる……なんてことだ。一瞬でもアウリーを疑った自分が信じられない。アウリーが私を裏切るなんてことは世界が粉微塵になってもあるはずがなかったのに。

「アルさま、よだれが」
「やっぱりお着替えはいっぱい必要だねえ~」
「もう、ヨキシャもレンスンもどうして庭にしか出ないのに着替えを持ってくるの?」
「や、なんか心配で」
「そうですよ~なんだか心配で」

 見ればレンスンは大きなカバンの中いっぱいにアルドフェルドの着替えの服を持っている……ああ、服もそれだったか。私が勘違いしたとはいえ、あの二人にしてやられてしまったな。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【本編完結】攻略対象その3の騎士団団長令息はヒロインが思うほど脳筋じゃない!

哀川ナオ
BL
第二王子のご学友として学園での護衛を任されてしまった騎士団団長令息侯爵家次男アルバート・ミケルセンは苦労が多い。 突撃してくるピンク頭の女子生徒。 来るもの拒まずで全ての女性を博愛する軽薄王子。 二人の世界に入り込んで授業をサボりまくる双子。 何を考えているのか分からないけれど暗躍してるっぽい王弟。 俺を癒してくれるのはロベルタだけだ! ……えっと、癒してくれるんだよな?

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...