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猫になった
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悠里を手にレイリーは走った。一人で駆け抜けるより、確かに速度は落ちたが、重いとは思わない。
狭い王宮はすぐさま遠ざかる。とん、たた、とん、とん。今は屋根の上を走っている。地上には人が多くて、スピードが出せないからだ。
「っふっ!」
グランベルの王都を一瞬で駆け抜け、城壁を駆け上る。外敵の侵入を防ぐための高い城壁も、速度の乗ったレイリーにはちょっと垂直な坂にしか感じない。
丁寧にレンガを積んで作られた高い高い城壁を駆け、一番上の見張り兵の目の前に着地すると、あんぐりと口を開けられた。普通、この壁は登れるものではない。
「わりーね」
そして、レイリーは街の外へ飛び降りる。
「うわ!危ない!誰か!人が落ちたぞ!!」
兵士は叫び、慌てて下を覗き込む。地上までの距離は遠く、落ちれば即死確定の高さなのだから。
しかし、地面に激突し、死にゆく定めの人影はくるり、空中で一回転し、城壁を蹴って前方に放たれた矢のように飛んで行った。
「え?」
兵士は目を擦ったが、落ちた人はもうミリスへ向かう街道のはるか先を走って……彼の視界から消えた。
「あれ?見間違いかな?」
何度か目を擦ったが、もう何も見えないし、落ちて怪我をしたり死んだりした人はいなかったので、日頃の疲れのせいだと結論付けた。
「わーい!」
楽しかった。恋人にもあっさり勝った。そして腕には可愛い猫が一匹
「うにゃぁん……?」
とろんとした目で身を任せている。最速のチーターであり、戦車の自分に追いつけるものなど、この地上で誰もいないのだから!
そして、ふと考える。さて、どこに行こうか?土地勘のあるミリス方面に走って来た。どうしよう?
そうだ!教会に行って結婚しよう!きっと今なら何を言っても
「うにゃん」
と、頷いてくれる。ウェディングドレスは似合いそうだけれど、くにゃくにゃと力の抜けた体では上手に着てくれないだろう。
でもヴェールとブーケを手に、神様の前で永遠の愛を誓う口づけはしてくれるだろう。
……後でたっぷり叱られるだろうけど、いっぱい謝れば許してくれる気がする。何せユウリは甘いから。
「れいりぃ……なんだかうにゃうにゃするぅ……」
舌っ足らずに言われて、何もかも考えずに何処かへ連れ去りたい!そう、心の底から思った。そしたら、土地勘のないユウリの事だ、自分を頼ってくれる。そして好きになってくれる。
「うにゃ……」
「……」
ミリスの王都から少し離れた場所にあるミリス湖の湖畔に座って、湖を眺めていた。
「みずうみ、だねぇ、レイリー」
「そうだよ。美味しい魚がいっぱい取れるんだ」
膝の上に黒猫になった悠里を乗せて、ぼんやり凪いだ湖面を見ていた。
「きれいだねぇ」
「うん、俺もここ好き」
さわさわと涼しい風が湖から吹いてくる。もうすぐ恋人の言っていた時間が終わる。
多分発情期が終わった悠里は、夜の相手をあんなに求めたりしない。恋人の術中の今ならまだあの気持ちの良い体を味わう事が出来る。
しかも近くに皇帝も力も居ない。邪魔する者もいないから、ゆっくりじっくり口説き落とせる。イき過ぎて飛んでいる所に言質を取っても良い。
「……良いの?れいりー」
まだぽやんとしている悠里はレイリーに聞いてくる。いいのか、このままで良いのかと。甘いと言うか優しいと言うのか。
レイリーは小さく笑う。
「二人で湖までデートなんて、恋人みたいだろう?恋人のかけた魔法なら、ちゃんと恋人っぽくしないとね」
黒猫の喉を撫でてやる。ゴロゴロと猫の喉が鳴った。
「うぅん、レイリー、上手ぅ」
「だろう!」
近くの屋台で焼き魚を買い、ホクホクと味わってから、レイリーは悠里を手に走って帰った。
「「ごめんなさい!」」
城に戻ると双子が謝りに来ていたので、悠里は頭を撫でながら許してやり、普通の夕食を取った。
「おやすみなさい」
と、割り振られた部屋の前で分かれて、ベッドに入るとすぐに眠気がやってくる。
「あれ?何か忘れているような?」
しかし睡魔に勝てず、瞼を下ろして眠りについた。
夕飯の席に国王兄弟がいなかった事は思い出せなかった。
狭い王宮はすぐさま遠ざかる。とん、たた、とん、とん。今は屋根の上を走っている。地上には人が多くて、スピードが出せないからだ。
「っふっ!」
グランベルの王都を一瞬で駆け抜け、城壁を駆け上る。外敵の侵入を防ぐための高い城壁も、速度の乗ったレイリーにはちょっと垂直な坂にしか感じない。
丁寧にレンガを積んで作られた高い高い城壁を駆け、一番上の見張り兵の目の前に着地すると、あんぐりと口を開けられた。普通、この壁は登れるものではない。
「わりーね」
そして、レイリーは街の外へ飛び降りる。
「うわ!危ない!誰か!人が落ちたぞ!!」
兵士は叫び、慌てて下を覗き込む。地上までの距離は遠く、落ちれば即死確定の高さなのだから。
しかし、地面に激突し、死にゆく定めの人影はくるり、空中で一回転し、城壁を蹴って前方に放たれた矢のように飛んで行った。
「え?」
兵士は目を擦ったが、落ちた人はもうミリスへ向かう街道のはるか先を走って……彼の視界から消えた。
「あれ?見間違いかな?」
何度か目を擦ったが、もう何も見えないし、落ちて怪我をしたり死んだりした人はいなかったので、日頃の疲れのせいだと結論付けた。
「わーい!」
楽しかった。恋人にもあっさり勝った。そして腕には可愛い猫が一匹
「うにゃぁん……?」
とろんとした目で身を任せている。最速のチーターであり、戦車の自分に追いつけるものなど、この地上で誰もいないのだから!
そして、ふと考える。さて、どこに行こうか?土地勘のあるミリス方面に走って来た。どうしよう?
そうだ!教会に行って結婚しよう!きっと今なら何を言っても
「うにゃん」
と、頷いてくれる。ウェディングドレスは似合いそうだけれど、くにゃくにゃと力の抜けた体では上手に着てくれないだろう。
でもヴェールとブーケを手に、神様の前で永遠の愛を誓う口づけはしてくれるだろう。
……後でたっぷり叱られるだろうけど、いっぱい謝れば許してくれる気がする。何せユウリは甘いから。
「れいりぃ……なんだかうにゃうにゃするぅ……」
舌っ足らずに言われて、何もかも考えずに何処かへ連れ去りたい!そう、心の底から思った。そしたら、土地勘のないユウリの事だ、自分を頼ってくれる。そして好きになってくれる。
「うにゃ……」
「……」
ミリスの王都から少し離れた場所にあるミリス湖の湖畔に座って、湖を眺めていた。
「みずうみ、だねぇ、レイリー」
「そうだよ。美味しい魚がいっぱい取れるんだ」
膝の上に黒猫になった悠里を乗せて、ぼんやり凪いだ湖面を見ていた。
「きれいだねぇ」
「うん、俺もここ好き」
さわさわと涼しい風が湖から吹いてくる。もうすぐ恋人の言っていた時間が終わる。
多分発情期が終わった悠里は、夜の相手をあんなに求めたりしない。恋人の術中の今ならまだあの気持ちの良い体を味わう事が出来る。
しかも近くに皇帝も力も居ない。邪魔する者もいないから、ゆっくりじっくり口説き落とせる。イき過ぎて飛んでいる所に言質を取っても良い。
「……良いの?れいりー」
まだぽやんとしている悠里はレイリーに聞いてくる。いいのか、このままで良いのかと。甘いと言うか優しいと言うのか。
レイリーは小さく笑う。
「二人で湖までデートなんて、恋人みたいだろう?恋人のかけた魔法なら、ちゃんと恋人っぽくしないとね」
黒猫の喉を撫でてやる。ゴロゴロと猫の喉が鳴った。
「うぅん、レイリー、上手ぅ」
「だろう!」
近くの屋台で焼き魚を買い、ホクホクと味わってから、レイリーは悠里を手に走って帰った。
「「ごめんなさい!」」
城に戻ると双子が謝りに来ていたので、悠里は頭を撫でながら許してやり、普通の夕食を取った。
「おやすみなさい」
と、割り振られた部屋の前で分かれて、ベッドに入るとすぐに眠気がやってくる。
「あれ?何か忘れているような?」
しかし睡魔に勝てず、瞼を下ろして眠りについた。
夕飯の席に国王兄弟がいなかった事は思い出せなかった。
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