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60 下町の聖女
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ルーチェの産みの母、デイジーは普通の町民であった。朝に夫を見送って、日中は子供達の世話と家事に追われる。裕福ではなかったが、底辺でもない。日々の生活に追われる普通の女性であったが、この世に生み出した子供が邪神であるルーチェであった。
『うわあああああ!普通のお母さんから生まれたああああ!』
『うわあああああ!しまったあああああ!』
邪神をこの世に送り出すために、至高神はその力に耐えうる高位神官の女性を募るつもりだった。そうでなければ邪神らしく木の股か!?などと考えあぐねていたのに……間違えたのだ。
木の股でもいいよ、だって普通の女性から生まれたらその瞬間死んじゃうかもしれないから……そんな話もして地上に生れ出たのに、どっちもびっくりしたという話なのであった。気合で泣かずに乗り切りなんとか死人は出さずに神殿に保護されたルーチェだったが、謝罪も込めて神はルーチェの産みの母に聖女の力を与えた。
邪神を身ごもった事による悪影響もそれで全て相殺された。
それでもデイジーは普通の庶民であった。近くに中央神殿もあったことで、癒しや回復を求める人々はそちらに向かったからだ。デイジーは「下町の聖女」として転んで出来た子供の怪我や、簡単な風邪、おじいちゃんおばあちゃんの腰痛など、近くの人の細々とした怪我や病気だけを家事と育児の間に見ていたのだ。
しかし、中央神殿からすべてが消え去り、生活が一変した。
「ここに聖女がいるらしい」
誰が聞きつけたのか、こぞって人々がデイジーの小さな家に押しかけたのだ。
「頼む!大怪我をしたんだ!」
「ええい!平民が下がれ!子爵様が足を折られた、早く来い!」
「うるさい!伯爵様のお嬢様が風邪を召された!こちらが先だ」
「黙れ!侯爵様のご子息様の方が先だ!!」
狭い路地は人や馬車で溢れかえり、デイジーは家事も育児も……生活もできなくなったのだ。そして一家は夜の闇に紛れて街を出た。行く当てもなく途方に暮れていた所を魔物に襲われる。そこを運よく通りかかった騎士に助けらえたのだった。
「聖女様……下町の……ああ!ルーチェ様のお母上様!」
現王と王太子のやり方にあきれ果て、不信感を募らせていた所に哀れな一家との邂逅。騎士の心は決まる。
「……ルーチェ様のいる場所、遠いですがルベルトと言う国です。そこへ逃げましょう、私もその国へ行く途中です。少しは力になれると自負しております」
そうして一行は人数を増やし、時には減らしながらなんとかルベルトにたどり着いたのだった。
「デイジー様には旅の途中幾度となく助けられました。彼女がいなければここにたどり着けた人数は半分以下になっていたでしょう。デイジー様の存在が王家に知られていなかったのも幸いでした」
ほっと一息つきながら、ずずっと騎士はおしるこを啜った。「なにこれうまい」
「マクミラン!君なのか!?」
「レイシャル様!お久しゅうございます!私まで国を裏切ってしまいました!えへ!」
「えへじゃないぞ!マクミラン。だがルーチェ様のお母上を送って来たのだからしょうがないな。ついでにお前は怪我でもしてもう故国に帰る事が出来なくなってしまったのだからしょうがない、そうだろう?」
マクミラン君は元気だし、怪我もしていないけれど
「あっ!そうでした、そうでした。私は怪我が酷くて故国へは帰る事が出来ません~いやあ参ったなあ」
そういう方便が必要なんだろうね、政治は大変だ。
「で。どうなんだ?マクミラン。だいぶ人の流出は始まっているのか?」
「はい、近隣の町へ逃げ出す者が増えています。この冬は超える事が出来るでしょうが、次の秋まで持つかどうか」
そんなにか……レイシャル様の顔は暗いが俺にはどうしてやる事も出来ないな。
「ルベルトの周りを少し整備しておいた方が良さそうだな。これから流入が増えるかもしれんし、わが国の傍で行き倒れもあまり気持ちのいいものではないしね」
「そうですね、私達がルベルトへ向かったのを何人も見ておりますから、来る人が増える可能性は高いかと」
なんの観光名所もない所だけれど、変な生き物ならいっぱいいるよ。俺の足元でマンドラゴラが前転してポーズを決めた。はいはい、上手上手……。
『うわあああああ!普通のお母さんから生まれたああああ!』
『うわあああああ!しまったあああああ!』
邪神をこの世に送り出すために、至高神はその力に耐えうる高位神官の女性を募るつもりだった。そうでなければ邪神らしく木の股か!?などと考えあぐねていたのに……間違えたのだ。
木の股でもいいよ、だって普通の女性から生まれたらその瞬間死んじゃうかもしれないから……そんな話もして地上に生れ出たのに、どっちもびっくりしたという話なのであった。気合で泣かずに乗り切りなんとか死人は出さずに神殿に保護されたルーチェだったが、謝罪も込めて神はルーチェの産みの母に聖女の力を与えた。
邪神を身ごもった事による悪影響もそれで全て相殺された。
それでもデイジーは普通の庶民であった。近くに中央神殿もあったことで、癒しや回復を求める人々はそちらに向かったからだ。デイジーは「下町の聖女」として転んで出来た子供の怪我や、簡単な風邪、おじいちゃんおばあちゃんの腰痛など、近くの人の細々とした怪我や病気だけを家事と育児の間に見ていたのだ。
しかし、中央神殿からすべてが消え去り、生活が一変した。
「ここに聖女がいるらしい」
誰が聞きつけたのか、こぞって人々がデイジーの小さな家に押しかけたのだ。
「頼む!大怪我をしたんだ!」
「ええい!平民が下がれ!子爵様が足を折られた、早く来い!」
「うるさい!伯爵様のお嬢様が風邪を召された!こちらが先だ」
「黙れ!侯爵様のご子息様の方が先だ!!」
狭い路地は人や馬車で溢れかえり、デイジーは家事も育児も……生活もできなくなったのだ。そして一家は夜の闇に紛れて街を出た。行く当てもなく途方に暮れていた所を魔物に襲われる。そこを運よく通りかかった騎士に助けらえたのだった。
「聖女様……下町の……ああ!ルーチェ様のお母上様!」
現王と王太子のやり方にあきれ果て、不信感を募らせていた所に哀れな一家との邂逅。騎士の心は決まる。
「……ルーチェ様のいる場所、遠いですがルベルトと言う国です。そこへ逃げましょう、私もその国へ行く途中です。少しは力になれると自負しております」
そうして一行は人数を増やし、時には減らしながらなんとかルベルトにたどり着いたのだった。
「デイジー様には旅の途中幾度となく助けられました。彼女がいなければここにたどり着けた人数は半分以下になっていたでしょう。デイジー様の存在が王家に知られていなかったのも幸いでした」
ほっと一息つきながら、ずずっと騎士はおしるこを啜った。「なにこれうまい」
「マクミラン!君なのか!?」
「レイシャル様!お久しゅうございます!私まで国を裏切ってしまいました!えへ!」
「えへじゃないぞ!マクミラン。だがルーチェ様のお母上を送って来たのだからしょうがないな。ついでにお前は怪我でもしてもう故国に帰る事が出来なくなってしまったのだからしょうがない、そうだろう?」
マクミラン君は元気だし、怪我もしていないけれど
「あっ!そうでした、そうでした。私は怪我が酷くて故国へは帰る事が出来ません~いやあ参ったなあ」
そういう方便が必要なんだろうね、政治は大変だ。
「で。どうなんだ?マクミラン。だいぶ人の流出は始まっているのか?」
「はい、近隣の町へ逃げ出す者が増えています。この冬は超える事が出来るでしょうが、次の秋まで持つかどうか」
そんなにか……レイシャル様の顔は暗いが俺にはどうしてやる事も出来ないな。
「ルベルトの周りを少し整備しておいた方が良さそうだな。これから流入が増えるかもしれんし、わが国の傍で行き倒れもあまり気持ちのいいものではないしね」
「そうですね、私達がルベルトへ向かったのを何人も見ておりますから、来る人が増える可能性は高いかと」
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