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62 恩寵無き地
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俺達がのほほんと暮らしていた頃……。元の国では風邪が蔓延していた。
「ここ暫く風邪なんてひかなかったのになぁ……」
住民達はコホコホと咳をしながら噂する。
「冬なんだ、風邪の一つくらい引くだろうよ。それより最近の魔獣の増え方がすごいって噂、どうなんだ?」
「分からんが騎士様や警備隊が対応してるんだろ」
「そうだな、俺達は良い国に住んでて良かったなぁ」
しかし、現場は大混乱だった。
「今晩も奴らは来るのか……」
「今までこんな事なかったのに」
夜になると大量の魔狼共が現れて、町や村に侵入して来ようとする。連日の襲撃に、警備兵は疲労困憊だし、風邪を引く者も多い。
「しばらく姿さえ見なかった奴らなのに!」
それはこの国のほぼ中心に、恐怖の塊のルーチェがいたからだ。魔物達はそれを敏感に感じ取って、皆恐れ、近づかないように距離を取った。
その恐怖が忽然と消えたのだ。ぽっかりと何の障害もなくなった広大な地は、魔狼達にとっては絶好の狩場以外の何者でもない。
「あおおおーーん!」
足の早い魔狼が最初に狩を始める。今は魔狼だけだが、どんどん大きく強力な魔物が現れ始めるだろうことを予想できる者はいなかった。
「野菜が高いねぇ」
「仕方ねぇんすよ、商人は魔物のせいで中々来ないんでさぁ」
物資が不足し値上がりを始める。
「どけっ!」
「きゃっ!」
魔物退治に雇われた荒くれ者達が街を闊歩し、治安が悪くなり始める。
「でも、魔物を倒してくれるし……」
力の弱い女性達はビクビクと暮らしている。きゃあきゃあと声を上げて外を走り回る子供などいなくなってしまった。
「……神殿を閉じます」
「は?何を……?」
東西南北に残った神殿の神官にそう告げられた係り官は意味が分からず聞き返す。
「この国は元々神の恩寵が豊かな国でありました。しかし、中央神殿が閉ざされてから古来より与えられておりました恩寵がなくなったのです。どなたかが、神の思いを踏み躙ったとしか思えません。恩寵無き地では神殿は立ち行きません」
「いや、しかし!神官が祈れば神に届くのでしょう?」
代表でやって来た神官は辛そうに首を横に振った。
「この地よりの祈りは届きません。余程お怒りなのでしょう。古来より目をかけて来た地が裏切ったのですから」
「う、裏切った?それは、どう言う……」
「中央神殿に封印されていた邪神は神の御意向によりこの地ならばと降ろされた方。それを排除されたのです。神も怒りましょうぞ」
では失礼します、と神官は国を出る準備の為に背を向け、係官はその恐ろしい事実を急いで上官に伝えるべく走り出した。
「た、大変です!あの邪神を追い出したが為に神の恩寵が無くなったそうなのです!」
「声が大きい!」
上官は叱責してから、事細かに話を聞く。
「不味いな、この情報は非常に不味いな。そうでなくとも王太子の間違った判断だったのではと囁きが大きくなって来たのに、そんな決定的な事を……」
彼は有能で心優しい男であった。
「皆、急いで家に帰りこの国から逃げよ!この話を聞いてしまった者には追っ手がかかるやもしれぬ。私も報告し次第国を出る。どこかで生きて会える事を願って!」
きな臭さを感じていた部署の職員達はガタガタと立ち上がり荷物を纏める。上官は少しだけ間を置き、報告し終わると急いで逃げ出す。
「だめだ、この国は終わった!」
彼の判断は最善だった。
「ここ暫く風邪なんてひかなかったのになぁ……」
住民達はコホコホと咳をしながら噂する。
「冬なんだ、風邪の一つくらい引くだろうよ。それより最近の魔獣の増え方がすごいって噂、どうなんだ?」
「分からんが騎士様や警備隊が対応してるんだろ」
「そうだな、俺達は良い国に住んでて良かったなぁ」
しかし、現場は大混乱だった。
「今晩も奴らは来るのか……」
「今までこんな事なかったのに」
夜になると大量の魔狼共が現れて、町や村に侵入して来ようとする。連日の襲撃に、警備兵は疲労困憊だし、風邪を引く者も多い。
「しばらく姿さえ見なかった奴らなのに!」
それはこの国のほぼ中心に、恐怖の塊のルーチェがいたからだ。魔物達はそれを敏感に感じ取って、皆恐れ、近づかないように距離を取った。
その恐怖が忽然と消えたのだ。ぽっかりと何の障害もなくなった広大な地は、魔狼達にとっては絶好の狩場以外の何者でもない。
「あおおおーーん!」
足の早い魔狼が最初に狩を始める。今は魔狼だけだが、どんどん大きく強力な魔物が現れ始めるだろうことを予想できる者はいなかった。
「野菜が高いねぇ」
「仕方ねぇんすよ、商人は魔物のせいで中々来ないんでさぁ」
物資が不足し値上がりを始める。
「どけっ!」
「きゃっ!」
魔物退治に雇われた荒くれ者達が街を闊歩し、治安が悪くなり始める。
「でも、魔物を倒してくれるし……」
力の弱い女性達はビクビクと暮らしている。きゃあきゃあと声を上げて外を走り回る子供などいなくなってしまった。
「……神殿を閉じます」
「は?何を……?」
東西南北に残った神殿の神官にそう告げられた係り官は意味が分からず聞き返す。
「この国は元々神の恩寵が豊かな国でありました。しかし、中央神殿が閉ざされてから古来より与えられておりました恩寵がなくなったのです。どなたかが、神の思いを踏み躙ったとしか思えません。恩寵無き地では神殿は立ち行きません」
「いや、しかし!神官が祈れば神に届くのでしょう?」
代表でやって来た神官は辛そうに首を横に振った。
「この地よりの祈りは届きません。余程お怒りなのでしょう。古来より目をかけて来た地が裏切ったのですから」
「う、裏切った?それは、どう言う……」
「中央神殿に封印されていた邪神は神の御意向によりこの地ならばと降ろされた方。それを排除されたのです。神も怒りましょうぞ」
では失礼します、と神官は国を出る準備の為に背を向け、係官はその恐ろしい事実を急いで上官に伝えるべく走り出した。
「た、大変です!あの邪神を追い出したが為に神の恩寵が無くなったそうなのです!」
「声が大きい!」
上官は叱責してから、事細かに話を聞く。
「不味いな、この情報は非常に不味いな。そうでなくとも王太子の間違った判断だったのではと囁きが大きくなって来たのに、そんな決定的な事を……」
彼は有能で心優しい男であった。
「皆、急いで家に帰りこの国から逃げよ!この話を聞いてしまった者には追っ手がかかるやもしれぬ。私も報告し次第国を出る。どこかで生きて会える事を願って!」
きな臭さを感じていた部署の職員達はガタガタと立ち上がり荷物を纏める。上官は少しだけ間を置き、報告し終わると急いで逃げ出す。
「だめだ、この国は終わった!」
彼の判断は最善だった。
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