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初めての夜会
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扉の向こうからジークハルト様の声が聞こえてきた。
「レティ用意はできた?」
私は「はい」と返事をし、リンダが扉を開けると、そこには固まったジークハルト様がいた。
「可愛い……パーティーはやめよう。ふたりでここに一緒にいよう」
何を言ってるんだか。私は小さくため息をつく。
留学生達の歓迎パーティーは思っていたより大規模なものだった。
スバリーナ国の国王陛下の挨拶、ランソプラズム国からは今回の留学の責任者として引率してきた宰相の挨拶。そして留学生代表の王太子殿下の挨拶のあと、華やかなパーティーが始まった。
スバリーナ国のほとんどの貴族が参加し、人だらけでまだ社交界にデビューもしてないし、内輪の小規模なパーティーやお茶会くらいしか参加したことのない私は気後れしていた。
前の人生でもあまり社交には積極的に参加していなかったので身の置き所がわからない。とりあえず美味しそうなご馳走やスイーツに目をやり心を立て直した。
パーティーで知っている顔を見つけると安心する。あれは一緒に留学してきたエリーゼ様だ。エリーゼさまは私に気づくと近づいてきた。
「レティシア様、ご機嫌よう、可愛いですわね。ドレスも素敵ですわ。愛されていますわね」
エリーゼ様は宰相様のお嬢様で王家の次に高い爵位の公爵家の令嬢。そして王太子殿下の婚約者だ。
13歳にして優雅な美人で大人っぽい。顔合わせの時から、私の事を気にかけてくれている優しい人だ。
「エリーゼ様、ありがとうございます」
私がそう言うと、エリーゼ様の隣にいた王太子殿下は苦笑しながら私の隣にいるジークハルト様を見ている。
「ジーク、やりすぎではないか? そこまで露骨にアピールしなくてもいいと思うぞ」
さすが王太子殿下。もっと言ってやって下さいと心の中で思った。
しかし、王太子殿下の言葉にもジークハルト様は怯まない。
「やりすぎどころかまだやり足りません。本当は真っ黒なドレスを着せたいがさすがにそれは難しいかと思い、これでも譲歩してるのです」
真っ黒なドレスって……。
その言葉に王太子殿下はあっけにとられている。
エリーゼ様がジークハルト様を見て何かに気がついたようだ。
「ジークハルト様、そのタイとチーフのお色はレティシア様の瞳のお色かしら」
「そうですよ。私はレティの物ですからね」
もう、勘弁して。みんなドン引きしてるわ。私は恥ずかしくて目を伏せた。
「ジークハルト様がそんなに情熱的な方だったとは今まで気がつきませんでしたわ」
エリーゼ様はふふふと笑う。
「レティシア嬢も大変だな。私もジークがこんな狭量で独占欲の強い男だとは知らなかった。レティシア嬢もとんだ男と婚約したもんだ。何かの因果だと諦めるしかないな」
王太子殿下はそんな無責任な事を言って笑っている。私は苦笑いするしかなかった。
生まれて初めてのパーティーでのダンスのお相手はもちろんジークハルト様だった。
練習で何度も踊っているので……というか、ジークハルト様としか踊った事がない。他の人とは練習であっても踊らせてくれない。
みんなが言うようにジークハルトは本当に狭量なのだ。
「ジーク様、他の方と踊られないのですか?」
レティシアは踊りながら聞いてみた。
「踊らないよ。レティが踊り疲れたならあちらで何か食べようか?」
いや、そんなこと言ってないし。
「私は大丈夫ですわ。他のご令嬢方が踊りたがっておられるようですので、踊られてはいかがですか?」
遠まわしに他の令嬢と踊ってこいよと言ってみた。
私はそろそろひとりで美味しいもの食べたいかった。
「そんなこと言われて、はいそうですかと他の令嬢と踊ると思っているの? レティは私を試してるのかな。それともレティが私以外に踊りたい相手がいるの? いても踊らせないけど」
ジークハルト様は冷ややかに微笑みながらそんなことを言う。
怖すぎます。冷気漂っているし。私はぶるぶると震えた。
「いえ。そんなことはありませんわ」
身の安全のために笑って誤魔化す。
今日は笑って誤魔化してばかりいる気がする。
慣れない高いヒールのついた靴で踊ったせいか足が痛くなってきた。
「ジーク様、足が痛くなってきたので少し休みたいです。あっ、歩けますから抱っこはやめて下さいませ」
「気がつかなくてすまない。本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。お腹もすいてきたし何か食べましょう」
とりあえず食べて、眠くなったからと言って早く部屋に戻ろう。
疲れた。
美味しいご馳走やスイーツをお腹いっぱい食べているうちにほんとに眠くなってきた。
そして気がついたら部屋のベッドで眠っていた。
私は居眠りしてしまい、ジークハルトに抱っこされて部屋に戻ったのだ。
大人達は幼いカップルを微笑ましく見ていたらしいが、王太子殿下やエリーゼ様はきっと引いていただろう。
明日、朝食でみんなに顔を合わすのが恥ずかしいな。
「レティ用意はできた?」
私は「はい」と返事をし、リンダが扉を開けると、そこには固まったジークハルト様がいた。
「可愛い……パーティーはやめよう。ふたりでここに一緒にいよう」
何を言ってるんだか。私は小さくため息をつく。
留学生達の歓迎パーティーは思っていたより大規模なものだった。
スバリーナ国の国王陛下の挨拶、ランソプラズム国からは今回の留学の責任者として引率してきた宰相の挨拶。そして留学生代表の王太子殿下の挨拶のあと、華やかなパーティーが始まった。
スバリーナ国のほとんどの貴族が参加し、人だらけでまだ社交界にデビューもしてないし、内輪の小規模なパーティーやお茶会くらいしか参加したことのない私は気後れしていた。
前の人生でもあまり社交には積極的に参加していなかったので身の置き所がわからない。とりあえず美味しそうなご馳走やスイーツに目をやり心を立て直した。
パーティーで知っている顔を見つけると安心する。あれは一緒に留学してきたエリーゼ様だ。エリーゼさまは私に気づくと近づいてきた。
「レティシア様、ご機嫌よう、可愛いですわね。ドレスも素敵ですわ。愛されていますわね」
エリーゼ様は宰相様のお嬢様で王家の次に高い爵位の公爵家の令嬢。そして王太子殿下の婚約者だ。
13歳にして優雅な美人で大人っぽい。顔合わせの時から、私の事を気にかけてくれている優しい人だ。
「エリーゼ様、ありがとうございます」
私がそう言うと、エリーゼ様の隣にいた王太子殿下は苦笑しながら私の隣にいるジークハルト様を見ている。
「ジーク、やりすぎではないか? そこまで露骨にアピールしなくてもいいと思うぞ」
さすが王太子殿下。もっと言ってやって下さいと心の中で思った。
しかし、王太子殿下の言葉にもジークハルト様は怯まない。
「やりすぎどころかまだやり足りません。本当は真っ黒なドレスを着せたいがさすがにそれは難しいかと思い、これでも譲歩してるのです」
真っ黒なドレスって……。
その言葉に王太子殿下はあっけにとられている。
エリーゼ様がジークハルト様を見て何かに気がついたようだ。
「ジークハルト様、そのタイとチーフのお色はレティシア様の瞳のお色かしら」
「そうですよ。私はレティの物ですからね」
もう、勘弁して。みんなドン引きしてるわ。私は恥ずかしくて目を伏せた。
「ジークハルト様がそんなに情熱的な方だったとは今まで気がつきませんでしたわ」
エリーゼ様はふふふと笑う。
「レティシア嬢も大変だな。私もジークがこんな狭量で独占欲の強い男だとは知らなかった。レティシア嬢もとんだ男と婚約したもんだ。何かの因果だと諦めるしかないな」
王太子殿下はそんな無責任な事を言って笑っている。私は苦笑いするしかなかった。
生まれて初めてのパーティーでのダンスのお相手はもちろんジークハルト様だった。
練習で何度も踊っているので……というか、ジークハルト様としか踊った事がない。他の人とは練習であっても踊らせてくれない。
みんなが言うようにジークハルトは本当に狭量なのだ。
「ジーク様、他の方と踊られないのですか?」
レティシアは踊りながら聞いてみた。
「踊らないよ。レティが踊り疲れたならあちらで何か食べようか?」
いや、そんなこと言ってないし。
「私は大丈夫ですわ。他のご令嬢方が踊りたがっておられるようですので、踊られてはいかがですか?」
遠まわしに他の令嬢と踊ってこいよと言ってみた。
私はそろそろひとりで美味しいもの食べたいかった。
「そんなこと言われて、はいそうですかと他の令嬢と踊ると思っているの? レティは私を試してるのかな。それともレティが私以外に踊りたい相手がいるの? いても踊らせないけど」
ジークハルト様は冷ややかに微笑みながらそんなことを言う。
怖すぎます。冷気漂っているし。私はぶるぶると震えた。
「いえ。そんなことはありませんわ」
身の安全のために笑って誤魔化す。
今日は笑って誤魔化してばかりいる気がする。
慣れない高いヒールのついた靴で踊ったせいか足が痛くなってきた。
「ジーク様、足が痛くなってきたので少し休みたいです。あっ、歩けますから抱っこはやめて下さいませ」
「気がつかなくてすまない。本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですわ。お腹もすいてきたし何か食べましょう」
とりあえず食べて、眠くなったからと言って早く部屋に戻ろう。
疲れた。
美味しいご馳走やスイーツをお腹いっぱい食べているうちにほんとに眠くなってきた。
そして気がついたら部屋のベッドで眠っていた。
私は居眠りしてしまい、ジークハルトに抱っこされて部屋に戻ったのだ。
大人達は幼いカップルを微笑ましく見ていたらしいが、王太子殿下やエリーゼ様はきっと引いていただろう。
明日、朝食でみんなに顔を合わすのが恥ずかしいな。
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