【完結】妻に逃げられた辺境伯に嫁ぐことになりました

金峯蓮華

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11話 浄化

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 私は魔獣をなぎ倒し、怪我人に回復魔法を掛けながら、なんとか泉の近くまできた。

 泉は真っ黒で湯気のように瘴気を出している。

 アルトゥール様は周りを騎士達に囲まれ、泉に両手を浸していた。

 そこから泉の色は透明になってきている。

 そうか、浄化魔法で泉を浄化しているのか。

 兄が私の傍に来た。

「ディー、増強魔法だ。アルトゥール殿の魔法を増強させろ」

 なるほど。その手があったな。

 私は何でも増強することができる魔法が使える。ただ王都では、使うこともなかったのですっかり忘れていた。

 アルトゥール様の傍に行き、泉に浸している片方の手を握った。指を絡ませ恋人繋ぎをする。

 アルトゥール様は驚いた様子で私の顔を見た。

「ディー、何を?」

「増強魔法を流してアル様の浄化魔法を増強します」

「そ、そんなことができるのか?」

「私を誰だと思っているんですか。流しますよ!」

 魔法を流すとアルトゥール様はビクッと身体を震わせた。私の手から増強魔法がアルトゥール様に流れていく。

「わかりますか?」

「あぁ。力がみなぎってくる。いつもより早く決着がつきそうだ」

 アルトゥール様はニヤッと笑う。

 泉の水はどんどん透明になってくる。私は気合いを入れて、より強い魔法を流す。

 コンラート様や兄達はアルトゥール様と私を囲むように守り、襲ってくる魔獣に立ち向かっている。

「良い感じだ。ディー、水に入るぞ。泳げるか?」

「もちろんよ」

「水の中で呼吸ができる魔法は?」

「そんなのやったことない」

 アルトゥール様は私の頭の上に手を置き、拳を作りトントンと二度緩く叩いた。

「OKだ」

 何がOKなんだ?

「行くぞ!」

 アルトゥール様は私を連れて飛び込んだ。

 これって泳げるか? じゃなくて潜れるか? じゃない?

 私達は手を絡めたままでどんどん底まで潜る。 

 泉は緩いすり鉢状になっていた。真ん中あたりはかなり深い。底まで後少し。

 底に到着すると、アルトゥール様はキョロキョロして、何が探しているようだ。

 それにしても水の中で呼吸ができるし、話もできる。この魔法すごいわ。討伐が済んだら水遊びしたい。

「ここだな。一網打尽にしよう。ディー、また力を頼む」

 遊ぶことを考えていたらアルトゥール様に声をかけられた。

「お安い御用よ」

 アルトゥール様は泉が湧き出ている場所に手を突っ込んだ。

「今だ!」

「はい!」

 私は魔力を込め、増強魔法を流した。

 私達の魔法はどんどん泉のそこ深く流れ込んでいく。


ドカン!


 凄い音がして泉の底がグラグラと揺れ始める。

 アルトゥール様は地面から手を抜き、私を抱えた。

「終わった。上がるぞ」

 凄いスピードで水面に出、そのまま水から上がった。

「大丈夫か?」

「はい。楽しかったです」

 私の答えにアルトゥール様は少し呆れたような顔をし、パチンと指を鳴らした。

 すると風が舞い、びしゃびしゃだった私達の服や髪は何ごともなかったように元通りに渇いた。風魔法だろうか?

 泉の底の地震があった時、みんなを襲っていた魔獣が皆、粒子になり、消えたそうだ。元が断たれたということらしい。

「アル! 終わったな。お疲れ~! ディー様、凄かったな。感動したよ」

 コンラート様が座り込み、アルトゥール様と私に叫んだ。

「あぁ、ディーのおかげでいつもより早く終わった。それに……」

 それに?

「ディーは火の属性が強いようだ。浄化された源泉が熱を持ち、泉の水が湯になったようだ。泳げる奴は泉で湯浴みができるぞ。泳げない奴は岸の近くなら足がつく。入ってみてはどうだ」

「お~そりゃいいな」

 コンラート様は騎士服のまま泉に飛び込んだ。

「こりゃ気持ちいい。小さい傷も治ってきたぞ。浄化もでき、怪我も治る湯なんて最高だ!」

 コンラート様の声を聞いた騎士達が次々と泉に飛びこむ。

 ふと見ると兄達も一緒に飛び込んでいる。

「私の浄化魔法とディーのエネルギーでこの泉は浄化と回復の水になったのかもしれないな」

 あらま。久しぶりに増強魔法を使ったのだが、上手く行ってよかった。しかも泉もなんだか良いものになったみたいだし。暴れられたので私は大満足だ。

「さぁ、みんな! 屋敷に戻るぞー!」

 アルトゥール様の声に皆、泉から上がり、風魔法で服を乾かしている。

「ディー、お疲れ様。大活躍だったな。ありがとう」

「アル様こそ、カッコよかったですわよ」

 私達は微笑みあった。

◇◇  ◇


 屋敷に戻るとまだ、パーティー真っ最中だった。

 私達はドレスや式服に着替えパーティーに戻った。

 みんなはお色直しだと思ったようだ。


 椅子に座り果実酒を口にしているとアンネリーゼが傍にきた。

「お疲れ様。生きて帰ってきてよかったわ」

「ありがとう。私を誰だと思っているの死ぬわけないじゃない」

 アンネリーゼはぎごちなく笑っている。

「そうそう、お父様かっこよかったわよ」
「そう」

 今度はそっぽを向いた。ツンデレめ。

「リーゼ嬢。ディー様はめっちゃかっこよかったぞ! 良い嫁さんがきてくれた! これでグローズクロイツ領も安泰だぜ」

 コンラート様はかなり興奮していてテンションが高い。

「ラート、落ち着け」

 アルトゥール様がコンラート様の肩を叩いた。

「さぁ、パーティーはまだまだこれからだ。みんな楽しんでくれ!」

「「「「「お~!」」」」」

 このパーティーはいったいいつまで続くのだろう?

 私はあくびを噛み殺した。


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