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15話 ゴールデンコンビ誕生
しおりを挟む「私ね、前世の記憶があるの」
アンネリーゼは突然そう言った。前世って何だ?
「前世って、アンネリーゼとして生まれる前の自分?」
私の問いにふっと笑った。
「そうよ。変でしょ?」
「いや、そんな人もいるのねと思っただけ、変ではないわ。それに何かの書物で読んだことがある。どこかの国で前世の記憶がある人が現れて、国を発展させたとかなんとか……」
「本当に変じゃない?」
アンネリーゼは目を見開いた。
「だって、人それぞれじゃない? 私だってこんな見た目で力持ちだし、武闘派だし、気も強いし、私こそ変よね?」
「やっぱり、あなたは凄いわ。それにかなり変」
嬉しそうに微笑む。
私はアンネリーゼの前世に興味が出てきた。
「ねぇ、どんな前世だったの? 生まれた時から記憶はあったの?」
アンネリーゼはゆっくりと話し出した。
「私の前世はこことは全く違う世界で生きていたの。魔法はなかったけど、魔法なんていらないくらいなんでもあって、なんでも簡単にできるところだったわ」
そんな凄い世界があるのか。私は驚きで口が開いてしまった。
「どこかの世界にある日本という国で、みんな黒い髪に黒い瞳だったわ。私は杏音という名前で32歳の時に事故で亡くなったみたい。記憶が戻ったのはリーンが産まれてすぐくらいだったかな。イライラしていたあの人にいつもより強く叩かれて、壁に当たって頭を打ったの。それで意識がなくなってね。その時に思い出したのよ。あの人はお父様やエマに、意識がなくなったのは、私が転んで壁に当たり頭を打ったと言ったみたいで、みんなそうだと信じていたわ」
なんだそれ! なんでみんな気がつかなかったんだ?
「なんで言わなかったの? 叩かれてるって」
アンネリーゼはふっと笑った。
「前にも言ったけど、私はあの人に『言っても誰も信じてくれない、あなたは嘘つきで悪い子なのよ。お父様やエマ達もそう思っているわ』といつも言われていたの。きっと洗脳されていたのよ。だから誰にも言えなかった」
酷い母親だ。殴り飛ばしてやりたい。いや、それだけじゃ気が済まない。死ぬより辛い目に遭わせてやりたい。
アンネリーゼは話を続ける。
「あの人は私をいたぶってストレスを発散していたようだったわ。辺境の地が嫌いだったみたい。元は辺境の地の出身のくせに、父親が王都のタウンハウスで働いていたから、王都にずっと住んでいて、都会の令嬢気取りだったの」
そういえば、元奥さんはグローズクロイツ家の分家の娘だと聞いたことがある。父親は王都のタウンハウスで家令をしていたが、娘があんな事をしでかしたので、職を辞してどこかに行ってしまったらしい。
「あの人は華やかな場所が好きだったから、田舎暮らしが気に入らなかったのね。それにお父様とは合わなかったみたい。お父様は王都の男達みたいにチャラチャラしてないでしょ? 無骨で不器用で言葉も足りない。見た目もゴリマッチョだしね。まぁ、お父様もあの人が苦手だったみたいだからどっちもどっちだけど」
アンネリーゼは焼き菓子を口に放り込んだ。
「美味しいわね。あなたも食べたら?」
私もひと口食べたが、話の続きが気になって焼き菓子どころではない。
「それで?」
「それで、その前世の話に戻るけど、前世の記憶を思い出した時に気がついたの。この世界は私が読んでいた小説「真実の愛に生きる」の世界だって」
「小説の世界? ここが?」
あまりにも突拍子もない事を言われたので驚いた。
「主人公はあの人だったわ。親の命令で好きでもない男と結婚させられて、田舎に住まわされた。夫とも、使用人達とも合わないし、産んだ娘は反抗的でイライラさせられる。夫は仕事が忙しく家庭を顧みない。王都の実家で二人目の男児を産んだ後、タウンハウスに商品を納めにきていた、商家の入婿と恋に落ちた。それは真実の愛だった。ふたりは手に手をとって、幸せへの旅に出ました。めでたしめでたしってバカみたいな話よ」
本当にバカみたいな話だ。要するに貴族の娘としての覚悟が足らなかっただけだろう。
「だから、その時に思ったの。もう少しすれば、あの人はいなくなる。それまでの辛抱だって。あの人はなんだかんだと理由をつけて、王都に行っていたの。きっとその男と会っているはずだ。私はワクワクしたわ。そして、ある日、手紙と離縁届を置いて消えたの。手紙にはお父様やグローズクロイツ領の悪口がいっぱい書いてあったみたいよ。真実の愛ほど崇高なものはない。誰にも私の幸せを阻む権利はないとかなんとか。馬鹿よね。小説どおりだったから笑ったわ。それからは私は楽になったけど、小さなアンネリーゼは傷ついていたの。あの人が言ったように私はお父様やみんなに嫌われているって思い込んでいて、一人で勝手に孤立していたのよ」
私はアンネリーゼを抱きしめていた。
「辛かったね。辛すぎて、リーゼ一人じゃ抱えきれなくなって、杏音が助けにきたのね。杏音、リーゼを守ってくれてありがとう」
アンネリーゼは驚いたように目を見張った。大きく見開いた目からは涙が溢れ出した。
「もう! 泣かせないでよ! あなた本当に良い人ね。お父様も使用人達もあの人には嫌な思いをさせられたから、きっと神様があなたをギフトとしてここにくれたのね」
いやいや、そんなに褒められると恥ずかしい。
別に私は特別良い人というわけではない。
アンネリーゼはひとしきり泣いたあと、鼻を思いっきりかんでから、お茶をごくりと飲んだ。
「この世界は小説が終わった後の世界だから、もう、退場したあの人に囚われるのはやめるわ。私には前世の知識がある。それを活かしてこのグローズクロイツ領を発展させたいの。私に力を貸してくれない? あなたなら信用できるわ。この領地はお父様達の頑張りで軍事力は強いわ。でも戦いが多かったから、農業や産業が今ひとつなの。私には知識やアイデアがあるけど、まだ子供で具現化するのが難しい。一緒にやってほしいの」
アンネリーゼは私の手を握り懇願する。
「私を誰だと思っているの? 一緒にやるに決まっているじゃない! ワクワクするわね」
は私がドヤ顔をすると、アンネリーゼは嬉しそうな顔をした。私はアンネリーゼの手を握り返した。
「前世の話はアルトゥール様やお義父様、お義母様には話そうよ。私も一緒に話すから大丈夫。そしてリーゼの案をみんなで形にしてこのグローズクロイツ領を良くしよう。私はちょろっとなら魔法が使えるし、こないだ魔獣を討伐した時の魔石がゴロゴロあるはずだから、魔道具も作れる。リーゼ、きっと杏音とリーゼは神様がグローズクロイツ領のためにこの地に遣わしたギフトなんだと思うよ。杏音とリーゼがひとつになるからアンネリーゼなんじゃない? それなら私とリーゼはギフト同士、力を合わせてこの地を盛り上げよう!」
私達はがっちりと握手をしていた。
18歳と7歳(32歳)の義母娘のゴールデンコンビがここに誕生した瞬間だった。
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