4 / 49
我が家
しおりを挟む
屋敷に戻り、戦闘用のドレスを脱ぎ自宅用の少し緩いドレスに着替える。
本当なら髪もほどき、化粧も落として部屋着に着替えたいが、ベッドに入るまでは本気で気を抜くわけにはいかない。
「エル、随分険しい顔ね。王宮で何かあったの?」
母は鋭い。
「はい。色々と」
私がため息をつくとほほほと笑う。父も首を突っ込んできた。
「可愛いエルにため息をつかせるなんてけしからん。消すか?」
王太子を消すのはちょっとヤバいですわ。お父様。
父は筆頭公爵。世間からは厳しい人として怖がられているが家では妻と娘が大好きなちょっと過激な親バカな父親だ。
国王とは子供の頃からの側近でプライベートでも多分親友で、とても仲がいい。
父は魔法省で大臣をしていて、この国の筆頭魔導士だ。その遺伝子のせいか私もかなり魔力があり、魔法が使える。王家が私を婚約者にしておきたいのは魔力が強いからかもしれない。
私は食事が終わってから弟に男爵令嬢のことを聞いてみた。
「ねぇ、マリウス、ミレーユっていう男爵令嬢のこと知ってる?」
向かいに座る弟のマリウスは急に難しい顔になった。
「とうとう姉上の耳に入ってしまいましたか」
「ええ、入ってしまったの。知る限りの事を教えてちょうだい」
マリウスはミレーユ嬢とは同じクラスらしい。
「私が知っているのは皆が知っている噂話で真実はどうだかわかりません。それでもいいですか」
私が頷くとマリウスはミレーユ嬢のことを話してくれた。
ミレーユ嬢はインクレミン男爵の庶子で母親は平民だそうだ。
両親は愛し合いミレーユを孕ったが、伯爵令嬢と婚約していたミレーユ嬢の父と結婚することはできなかった。
男爵が結婚したあとも愛人として囲われていたが、昨年夫人が亡くなり、インクレミン男爵は愛人だったミレーユ嬢の母と再婚した。そしてミレーユ嬢は男爵令嬢となり、王立学園に通うことになったそうだ。
つい最近まで平民だったせいかマナーなどはまだまだだめだが、小柄で可愛らしく庇護欲を掻き立てられるタイプらしい。
「マリウスは庇護欲を掻き立てられないの?」
私の問いに弟は笑う。
「庇護欲ですか? ないですね。私はまだまだ誰かを庇護できるほどのチカラはありませんよ」
相変わらず辛辣だ。マリウスはカール様や側近の方々が庇護できるようなチカラもないくせに馬鹿じゃないのかと思っているのだろう。
「テオは引っかかっていないそうじゃない」
「テオドール様は黒いですからね」
いやいや、我が弟よ、君も十分黒いよ。
「それでその男爵令嬢はどうなの? まともなの? 邪悪なの?」
「私にはわかりませんよ。ただ前男爵夫人が亡くなったのも病死なのかどうか疑わしいらしいですよ。前夫人が亡くなれば誰が得をするか考えたら、ただの病死とは思えない。まぁ噂ですがね」
マリウスは右手をひらひら振りながら自室に戻った。
カール様とその男爵令嬢が真実の愛なら応援しないでもないが、騙されているのならそれなりに対処しなきゃならない。
マリウスは真実の愛とは思っていないようだ。
私が考え込んでいると、父がぽつりと言った。
「エルも学園に行ってみてはどうだ?」
「私が? 学園にですか?」
「あぁ、飛び級で卒業しているが、校長は国王だし、ねじ込むことは可能だろう。なんなら魔法で別人になり、転校してはどうだ?」
「あら、それ面白いですわね。誰かに聞くよりエルが見極めるのがいちばんだわ。どうせカール殿下がらみなんでしょ?」
確かにカール様がらみだけど……。
面白がりで迅速な父母はすぐさま国王に連絡をとり、私は何故か友好国からの留学生という事でしばらくの間、学園に通わされることになった。
勘弁してほしいわ。
本当なら髪もほどき、化粧も落として部屋着に着替えたいが、ベッドに入るまでは本気で気を抜くわけにはいかない。
「エル、随分険しい顔ね。王宮で何かあったの?」
母は鋭い。
「はい。色々と」
私がため息をつくとほほほと笑う。父も首を突っ込んできた。
「可愛いエルにため息をつかせるなんてけしからん。消すか?」
王太子を消すのはちょっとヤバいですわ。お父様。
父は筆頭公爵。世間からは厳しい人として怖がられているが家では妻と娘が大好きなちょっと過激な親バカな父親だ。
国王とは子供の頃からの側近でプライベートでも多分親友で、とても仲がいい。
父は魔法省で大臣をしていて、この国の筆頭魔導士だ。その遺伝子のせいか私もかなり魔力があり、魔法が使える。王家が私を婚約者にしておきたいのは魔力が強いからかもしれない。
私は食事が終わってから弟に男爵令嬢のことを聞いてみた。
「ねぇ、マリウス、ミレーユっていう男爵令嬢のこと知ってる?」
向かいに座る弟のマリウスは急に難しい顔になった。
「とうとう姉上の耳に入ってしまいましたか」
「ええ、入ってしまったの。知る限りの事を教えてちょうだい」
マリウスはミレーユ嬢とは同じクラスらしい。
「私が知っているのは皆が知っている噂話で真実はどうだかわかりません。それでもいいですか」
私が頷くとマリウスはミレーユ嬢のことを話してくれた。
ミレーユ嬢はインクレミン男爵の庶子で母親は平民だそうだ。
両親は愛し合いミレーユを孕ったが、伯爵令嬢と婚約していたミレーユ嬢の父と結婚することはできなかった。
男爵が結婚したあとも愛人として囲われていたが、昨年夫人が亡くなり、インクレミン男爵は愛人だったミレーユ嬢の母と再婚した。そしてミレーユ嬢は男爵令嬢となり、王立学園に通うことになったそうだ。
つい最近まで平民だったせいかマナーなどはまだまだだめだが、小柄で可愛らしく庇護欲を掻き立てられるタイプらしい。
「マリウスは庇護欲を掻き立てられないの?」
私の問いに弟は笑う。
「庇護欲ですか? ないですね。私はまだまだ誰かを庇護できるほどのチカラはありませんよ」
相変わらず辛辣だ。マリウスはカール様や側近の方々が庇護できるようなチカラもないくせに馬鹿じゃないのかと思っているのだろう。
「テオは引っかかっていないそうじゃない」
「テオドール様は黒いですからね」
いやいや、我が弟よ、君も十分黒いよ。
「それでその男爵令嬢はどうなの? まともなの? 邪悪なの?」
「私にはわかりませんよ。ただ前男爵夫人が亡くなったのも病死なのかどうか疑わしいらしいですよ。前夫人が亡くなれば誰が得をするか考えたら、ただの病死とは思えない。まぁ噂ですがね」
マリウスは右手をひらひら振りながら自室に戻った。
カール様とその男爵令嬢が真実の愛なら応援しないでもないが、騙されているのならそれなりに対処しなきゃならない。
マリウスは真実の愛とは思っていないようだ。
私が考え込んでいると、父がぽつりと言った。
「エルも学園に行ってみてはどうだ?」
「私が? 学園にですか?」
「あぁ、飛び級で卒業しているが、校長は国王だし、ねじ込むことは可能だろう。なんなら魔法で別人になり、転校してはどうだ?」
「あら、それ面白いですわね。誰かに聞くよりエルが見極めるのがいちばんだわ。どうせカール殿下がらみなんでしょ?」
確かにカール様がらみだけど……。
面白がりで迅速な父母はすぐさま国王に連絡をとり、私は何故か友好国からの留学生という事でしばらくの間、学園に通わされることになった。
勘弁してほしいわ。
52
あなたにおすすめの小説
「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。
腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。
魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。
多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。
こちらからお断りです
仏白目
恋愛
我が家は借金だらけの子爵家
ある日侯爵家から秘密裏に契約結婚が持ちかけられた、嫡男との結婚 受けて貰えるなら子爵家を支援するが?という話
子爵家には年頃の娘が3人いる 貧乏子爵家に縁を求めてくる者はなく、まだ誰も婚約者はいない、侯爵家はその中の一番若い末娘を求めていた、
両親はその話に飛びついた,これで自分たちの暮らしも楽になる、何も無い子爵家だったが娘がこんな時に役に立ってくれるなんて,と大喜び
送り出され娘はドナドナな気分である
「一体何をされるんだろう・・・」
*作者ご都合主義の世界観でのフィクションです。
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。
しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。
レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。
そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。
「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる