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35 鬼教官×2

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 町によく視察に行くようになって思ったのだが、もしも何かあった時にアデーレを守れるようになりたいと思った。
「体を鍛えたい?」
 アデーレが首を傾げる。
「鍛えるって言うか、戦い方を覚えたいんだ。護身術とかでも良いから」
「あぁ、なるほど! 確かにミツアキは護身術を覚えた方が良いかもね。また、あの妙な奴らが来た時に、対抗出来るように……」
 アデーレが眉間に皺を寄せる。
(いや、俺はアデーレを守りたいんだが……まぁ、似たようなものか。次は、アデーレに怪我をさせないようにすぐに仕留めるぞ……)
 俺は彼と自分の安全の為に、決意を新たにする。
「それじゃ、警護兵の誰かに声をかけておくよ。君の訓練をしてくれるようにさ」
「頼む」
 それから数日後、俺はその警護兵と会う事となった。
「俺は、この本邸の警護兵を務めるパニッシャーだ」
 びしっとした、緑の警護兵服を着た彼は頭に手をあてて敬礼をする。
 物凄く堅物の印象を受ける。
「それとこっちは、俺の犬のジョージアだ」
 キリっとした顔のドーベルマンが彼の横に座っている。
(ドーベルマンこわっ!!!!)
 勝手なイメージだが、ドーベルマンは警察の犬で、獰猛で怖いイメージがあった。
「ワン(新人、よろしくな)」
 ドーベルマンは眼光鋭く、こちらを見た。
「ではまず準備運動から行う。突然、体を動かすのはよくないからな」
 キリッとしたとパニッシャーと俺は軽く体操を行う。 
 ドーベルマンのジョージアも、ぐっぐと体を伸ばしている。
(何故か、すげぇ緊張感があるぜ)
「よし、柔軟も済んだところで、まず走り込みをするぞ!」
 パニッシャーの後を着いて行きながら走る。
 そして俺の後ろをジョージアが着いて来る。
「ワン!(もっと速く!)」
「ひいぃ!!」
(ドーベルマンに追いかけられるのこえぇ!!!!)
 広い庭を二時間程、走って休憩する。
「ハッハッハッ」
「よーし、なかなか体力があるじゃないか!」
(獣化したおかげで、体力が増えたのかな。人の時なら耐えられなかったな……)
「戦い方の基本を教えてくれ、との事だったので、まずは拳での殴り合いだな」
 パニッシャーが両腕をあげて構える。
 そして、シュッと拳をうつ。
(うおっ)
 空気を切る音がする。
「正しいフォームで、拳を撃てば的確に打撃を与えられる。暴漢に襲われた時、武器を持っていないのなら、己の体一つで立ち向かわなければならない」
 俺は生唾を飲み頷く。
「では、おまえも構えろ」
 俺は彼のフォームを見ながら、見ようみまねで拳をうった。
 シュッ、シュッ、シュッ。
「脇を締めろ!」
「ワン!!(気を抜くんじゃない!)」
 俺は脇を締める。
 シュッシュッツシュッ!!
「もっと素早く!!」
「ワンワン!!(やる気はあるのか!!)」 
 俺は、必死に拳を繰り出す。
(こえー!!!!!!)
 パニッシャーとジョージアは、なかなかの鬼教官だった。  

 丸一日、二人にいじめ抜かれた。
「ぜえ、ぜえ」
(さすがに疲れたぞ)
「うむ、なかなか良かったぞ。よし、では最後にサンドバッグを殴ってみるか」
 パニッシャーが木に吊るされたサンドバッグを指でさす。
「気合を入れて殴れ!」
 俺は拳を構える。
 木に吊るされたサンドバッグを睨んで、拳を繰り出した。
 綺麗なフォームで、空を切りサンドバッグを殴る。
 ドスッツ!!!!!!! バキッ!!!!!
 サンドバッグは俺の拳に耐えきれず、鎖が切れて遠くに飛んでいく。
 ドシャッ!と砂を撒き散らしながら地面に落ちる。
「うむ! 良いぞ! まるで、凶器のような拳だ!!」
 教官が褒めてくれた。
「へへっ」
「今日の訓練は終わりだ! よく頑張ったな!」
 初日からハードな訓練だった。しかし、おかげで素晴らしい成果が得られた。
(やっぱりちゃんと訓練を受けるのは良いな。自分の力を上手く使いこなせる)
 俺は自分の手を見て頷く。
「ジョージアもよくやった」
 ポケットからおやつを取り出して、パニッシャーがジョージアに食べさせる。
 そして、彼の頭を撫でる。
 訓練中ずっとキリッとしたドーベルマンは、嬉しそうに主人の顔を舐める。
「わうわう!!(俺、がんばったでしょ! 褒めて褒めて!)」
「よーし、よしよし」
「わふぅ!!!(ご主人だいしゅきー!!!!)」
「!?」
(クール犬の凄いデレを見てしまった)
 俺はしばし二人の様子を見守った。
 その時、遠くから大型犬が走って来て二人の側に寄る。
「ワン、ワン!(二人ともなにしてるのー? 私もまぜて!)」
「ん? あぁ、クララも来たのか。よしよし」
「わふっわふっ……わふっ!(ご主人! ご主人! はっ!!!!)」
 その子が来た途端、ジョージアは再びキリッとなった。
(好きな子の前では、かっこつけたいタイプか……) 
「この子の犬種はなんですか?」
 見た事の無い見た目の子だった。
「この子もドーベルマンだ」
「えっ!?」
 確かに毛並みの色は似ているのだが、クララと呼ばれたワンコはたれ耳で尻尾が長い。
「軍用のドーベルマンは、怪我や病気をしないように、安全性の面から子犬の時に断耳・断尾するんだ」
「そ、そうなんですか!?」
(知らなかった……ドーベルマンって最初から、あのピンとした耳と尻尾してるわけじゃなかったのか)
「クララのように愛玩用のドーベルマンは、断耳・断尾しないのが一般的だな」
 ジョージアは二匹を撫でながら教えてくれる。
「たれ耳のドーベルマンってかわいいですね」
「あぁ、そうだろ」
 たれ耳ドーベルマンのクララは愛らしく、ちっとも怖くなかった。
「ウ゛ゥウウウウ(おい、俺のクララさんに色目使ってるんじゃねぇよ新入り)」
「ひっ」
 かわいいメスドーベルマンにニコニコしてたら、ジョージアに凄まれてしまった。
「こら、唸るんじゃない」
「わふっ(ダメよ、新入りの子をいじめちゃ)」
「クーン……」
 パニッシャーとクララ二人にいさめられて、ジョージアはしょんぼりした。
(それにしても、俺は犬の事全然知らないなぁ。もっと勉強しないとな……その方がアデーレの為になるだろうしな)
 俺は二匹の対照的なドーベルマンを見てそう思うのだった。
「では、明日も早朝から訓練を行う! 遅れないように!」
「うっ、頑張ります……」
(まぁ、しばらくは体鍛えるのに忙しいけどな!!)
「ワン!(新入り、声が小さいぞ!)」
「頑張ります!!!」
 遠くで俺の声に呼応して、犬達が遠吠えをした。




つづく

 
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