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53 二百八五日目  0/10

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 メメント・モリの曲を流しながら、匡伸はすっかり忘れていた事を口にする。

「そういやおまえ、俺のツイッターをフォローしてたって事は、メメント・モリの曲を前から知ってたって事だよな?」

 時雨のツイッターアカウト名は『カリギュラ』で、匡伸とそこそこリプを送り合う関係だった。
 時雨がちょっと困った顔をする。

「……えぇ、そう言う事になりますね。嘘をついていて、すいません」
「それに関しては特に怒ってないんだが、おまえ本当はどの曲が好きなんだ?」

 以前時雨は『別れ歌』が好きだと言っていた、メメント・モリの楽曲でもっとも売れているその曲は、当たり障りの無い選曲のように思えた。
 時雨が困ったように、しばらく視線を彷徨わせる。

「えっと……………『あなたの血肉になりたい』が好きです」

 恥ずかしそうに告げた曲名に、匡伸は思わず納得してましった。
 メメント・モリは薄暗い曲ばかりを歌うグループなのだが、その曲はストーカーソングとして有名な曲だった。

(さすがにそれは言いづらい……)

「あはは……」

 時雨もそれもわかっているのか苦笑いしている。

(まぁ、しかし激重ストーカーソングだが、同時に支持者が多い曲でもあるんだよな……歪んでいても愛は愛だもんなぁ)

「僕は匡伸さんが好きな曲が『亡霊の里帰り』なのが少し意外でした……」
「あぁ……」

 『亡霊の里帰り』は死んだと男が故郷に戻って、自分がいなくても楽しげに行われる祭りを眺めている曲だった。
「悲しい曲なのはわかってるんだが、どうもな。俺はあの曲の亡霊の気持ちがわかる気がするんだ」

 長いこと引きこもりをして、社会から離れた場所で生きていた。
 たまに学校に行く事があったが、そこに匡伸の居場所はなく、まるで幽霊にでもなったような気分だった。

 今は家庭教師と言う職を得たが、時折やはり外の人々を見るたびに、自分はあの輪に入れない亡霊なのだろうと思った。
 入れない事が悲しくもあるが、遠くから見ている事にほっとする自分もいた。
 時雨が寄って来て、ぎゅっと匡伸を抱きしめる。

「匡伸さんはおばけじゃないですよ。僕には、世界その物みたいな存在です」
「規模がでかいな」

 時雨の頭をくしゃくしゃ撫でる。
 匡伸は他人と距離を置くタチだった。水永のように向こうから強く踏み込んで来る相手でなければ、関わる事はない。
 時雨程積極的な相手で無ければ恋人が出来る事は無かっただろう。

(『破れ鍋に綴じ蓋』だな……こいつだけじゃなくて俺も真っ当な人間じゃない……)

「俺はおまえと一緒にいると、あぁちゃんと人として生きてるって気持ちがするよ」

 時雨と出会えてよかった。匡伸は心の底からそう思えた。


つづく
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