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一章 ルルス村編

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 私の名前はスカーレット。村外れに住む両親は、麦を作って暮らしている。私はあんまり要領がよく無いので、頻繁に怒られている。

 市場に買い物に行く途中で私の頭に石がぶつかる。

「いたっ」

「おい、きもちのわるい赤目が来たぞ」

「おーくさいくさい」

 村の男の子や女の子が私に悪口を言って石を投げる。どうして、こんな事をされるのか私にはわからなかった。背中に当たる石が痛くて、私は涙を溜めて駆け出した。

村に着くと、メモ紙を見ながら買い物をする。でも、店のおばさんになかなか声をける事ができずいつもぐずぐずしていた。私ってなんで、いつもこうなんだろう。

 ようやく買い物を終わらせて、私はとぼとぼと家に帰る。途中で噴水を覗く。そこには、みすぼらしい格好をした子供が映っていた。薄汚れたグレーの髪はぼさぼさで、葉っぱがついている。私はため息をついた。突然後ろから突き飛ばされて私は、噴水の中に上半身を突っ込んだ。慌てて顔を出して後ろを振り向いたが犯人はわからなかった。私は再びにじんだ涙を拭いて家に帰った。

「スカーレット! あんたお釣りちょろまかしたでしょ!!」

 母がとんでもなく怒っている。けれど、私にそんな記憶は無い。

「悪い子だ。ほら、お尻出しな!!」

 母は私のお尻を何度も力いっぱい、びしびしと叩いた。今日は、父が賭場に行っているので腹いせに特に激しく叩く。

 夜になって、私は藁のベッドに入って泣いた。なんで毎日こんなに辛いんだろうか。明日は学校に行ける日だ。でも、スカーレットはそれが憂鬱でならなかった。



 学校に行っても話す相手はいない。みんなスカーレットの事を無視していた。スカーレットは静かに席に座って授業を聞く。けれど、仕事の手伝いがあるせいで毎日学校に行けないスカーレットには内容が全くわからない。簡単な単語も読み間違えるスカーレットは、学校に行くのが苦痛でしか無かった。これじゃダメだ、変わらなくちゃと思っているけど、どうすれば良いのかわからなかった。

「スカーレット、この問題を解いてみて」

 先生に当てられたけれど、スカーレットは立ち上がるだけで何も言えなかった。

「ちゃんと勉強しないと駄目じゃないか。ユーティス解いて」

 ユーティスと呼ばれた少年はその問題をすらすらと解いた。彼はスカーレットを虐める主導者だった。スカーレットは席に座ってうつむいた。

 毎日が辛くて仕方ない。どうして私は毎日母に怒られるのだろうか。どうして私は毎日みんなにいじめられるのだろうか。どうして私はこんなにグズなんだろうか。この世界に居てもいなくても良いように感じていたスカーレットは、ある日の晩にふらふらと森に向かった。森にはモンスターが居て、夜は特に危険だった。そんな場所に一人で行くのは間違っている。けれど、怒った母に家を追い出されたスカーレットには他に行く場所も無かった。きっとスカーレットが死んでも、問題など無いのだ。暗い森の中でしくしく泣いていると、にゃーという鳴き声を聞いた。スカーレットが顔をあげると、その声はまだ聞こえる。弱々しい声を頼りに、その子を探す。草むらの影に猫が倒れていた。

「だいじょうぶ?」

 スカーレットは恐る恐る近づいた。猫は威嚇する。けれど怪我をしているのか逃げる様子はない。スカーレットは森の水場に行って、葉っぱに水を汲んで猫の元に戻った。

「ほら、飲んで」

 猫は警戒しながら匂いを嗅いだ後に、水を飲む。

「お腹すいてる?」

 スカーレットは、森の木のウロに隠した食料を持って来た。怒った母に食事を抜かれた時の為に残していたものだ。教会や学校で配られる干し肉を手で裂いて猫の口に持って行く。猫は匂いを嗅いだ後にそれを食べた。それが凄く嬉しかった。

 それからスカーレットは頻繁に森に通った。動けない猫の為にこっそり食料を持って行った。毎日は相変わらず辛かったけど、猫の事を考えれば幸せだった。

 猫は日の下で見ると赤い毛並みをしている。見たこと無い毛並みはとても綺麗だ。彼女は毛づくろいがとても上手なのだ。毎日ご飯を持って来るスカーレットの事を猫も信用してくれたらしく、身体を撫でさせてくれるようになった。

 その日もスカーレットは森に向かっていた。でも、遠くで猫の悲鳴のような鳴き声を聞いて青ざめた。走って行くと、そこにはスカーレットを虐める子どもたちが立っていた。ぼこぼこ動く麻袋を持っている。その中から猫の鳴き声がする。

「これ焼いたらうまいかな」

「焼く前にまず殺さねぇとな、石ぶつけて遊ぼうぜ」

 子供らは残酷な言葉を続ける。木の上に吊るされる猫の入った袋。彼らは猫を殺す気だ。

 スカーレットは声を出そうとする、けれど手足が震える。だって、彼らに反抗した事なんて一度も無かったから。でも、このままではスカーレットの大切な友達が死んでしまう。その時、震えが止まった。まるで別のスイッチが入ったようだった。息を吸い込んで大きな声を出す。

「やめなさい!」

 スカーレットは落ちていた棒を持って彼らに近づいた。

「その子を離しなさい!」

 スカーレットは子供達に詰め寄る。

「やだよ、なんでおまえの言う事を聞かなきゃいけないんだ」

「その子は私の友達だからよ!」

 子供達が嘲笑する。

「猫が友達だってよ。きもちわりー。あーでもおまえの家貧乏だから鼠食ってるんだな」

 私は棒で地面を叩いた。

「離せ!」

 棒で一番近くの男の子を叩く。私はその子達を殺すくらいの気持で棒を振り上げて叩いていた。でも、一人の男の子が殴り返して来て私は尻もちをつく。頭の中で星が舞っている。でも、それだけじゃない。意識がぐるんと回って、戻って来る凄く妙な感じがした。

「よわっちー、あーあ。つまんねーから他の遊びしようぜ」

 地面に座り込んでいると、子供らは私の前から去って行った。私は立ち上がって、袋を下ろして猫を中から出す。猫は袋から飛び出して逃げて行った。私はその場に残される。そして、自分が誰かわからなくなった。





つづく
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