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レティシアは慎重に流れを変えた。
エドガーの家とレティシアの家は親同士仲が良い。このころ既に二人の婚約について考えていたはずだ。露骨にエドガーを避ければ、周囲は逆に二人をくっつけようとする。だから嫌わず、けれど距離を詰めすぎない。二人きりではなく、兄妹や従兄弟を交えて遊ぶ。エドガーが当然のように手を引いても、笑って別の子も呼ぶ。
そうしているうちに、両家の大人たちが口にしていた『将来はきっと』という空気が、少しずつ曖昧になっていった。
決定打になったのは、十歳の春だった。
夕食後、父母の前でレティシアは紅茶のカップを置き、思い切って言った。
「お父様、お母様。私、エドガー様と結婚するのは嫌です」
父がむせた。
母も瞬きを忘れている。
「ど、どうしてだい、ティア」
「エドガー様は、誰にでも優しいでしょう? だからきっと、大きくなったら、とてももてる人になるわ」
実際そうなる。
その言葉には、未来を知る者の確信があった。
「私は……自分だけを大事にしてくれる人がいいの」
幼い我儘のようなその台詞に、母は少し考え込み、やがて微笑んだ。
「まだ子どもですもの。今から決める話ではないわね」
「そうだな……」
父も咳払いをして頷いた。
「ラウルフォード家との縁は大事だが、婚約ありきで考えるのはやめよう」
その瞬間、レティシアは胸の内で深く息をついた。
一度目の人生では、誰も悪意なく当然のものとして積み上げた『未来』だった。
でも二度目の人生では、その流れを止めることができた。
それだけで、世界はもう違う。
エドガーの家とレティシアの家は親同士仲が良い。このころ既に二人の婚約について考えていたはずだ。露骨にエドガーを避ければ、周囲は逆に二人をくっつけようとする。だから嫌わず、けれど距離を詰めすぎない。二人きりではなく、兄妹や従兄弟を交えて遊ぶ。エドガーが当然のように手を引いても、笑って別の子も呼ぶ。
そうしているうちに、両家の大人たちが口にしていた『将来はきっと』という空気が、少しずつ曖昧になっていった。
決定打になったのは、十歳の春だった。
夕食後、父母の前でレティシアは紅茶のカップを置き、思い切って言った。
「お父様、お母様。私、エドガー様と結婚するのは嫌です」
父がむせた。
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実際そうなる。
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「まだ子どもですもの。今から決める話ではないわね」
「そうだな……」
父も咳払いをして頷いた。
「ラウルフォード家との縁は大事だが、婚約ありきで考えるのはやめよう」
その瞬間、レティシアは胸の内で深く息をついた。
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