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9.
秋の舞踏会の夜、エドガーがレティシアを呼び止めた。
廊下の壁灯に照らされて、彼はひどく苛立った顔をしていた。
「少し、話せないか」
「短くなら」
「お前は、どうしてそんなに平然としているんだ。ミレイユをエスコートしているというのに」
意味が分からず、レティシアは瞬いた。
「何のことですか」
「昔は、僕が誰と話していても気にしていただろう」
心の底から、もう遠い話だった。
「ですから。それは昔のことですわ」
「――ベルモントとは一体いつから。あんな男のどこがいいんだ?」
問い詰めるような声。
その響きは、一度目の人生で婚約解消を告げたときとよく似ていて、けれど今の彼女を傷つけるほどの力はなかった。
「ルシアン様は、私の不安を自分の都合で踏みにじらない方です」
「――どういう意味だ?」
「あなたは、自分が欲しい形で愛されないと不満になる方です。でもルシアン様は、私がどうしたいかを先に考えてくださる」
エドガーは黙った。
その沈黙が、何よりの答えだった。
「お話はこれで終わりにします」
踵を返そうとしたとき、彼が掠れた声で言った。
「……お前は昔、僕を好きだっただろ」
レティシアの足が一瞬だけ止まる。
好きだった。
心が擦り切れるほど、確かに。
けれど彼女は振り返らなかった。
「ですから、それは昔の話です」
それだけを残して、その場を去った。
痛みはなかった。
ただ長い悪夢に、ようやく扉を閉めたような気がした。
廊下の壁灯に照らされて、彼はひどく苛立った顔をしていた。
「少し、話せないか」
「短くなら」
「お前は、どうしてそんなに平然としているんだ。ミレイユをエスコートしているというのに」
意味が分からず、レティシアは瞬いた。
「何のことですか」
「昔は、僕が誰と話していても気にしていただろう」
心の底から、もう遠い話だった。
「ですから。それは昔のことですわ」
「――ベルモントとは一体いつから。あんな男のどこがいいんだ?」
問い詰めるような声。
その響きは、一度目の人生で婚約解消を告げたときとよく似ていて、けれど今の彼女を傷つけるほどの力はなかった。
「ルシアン様は、私の不安を自分の都合で踏みにじらない方です」
「――どういう意味だ?」
「あなたは、自分が欲しい形で愛されないと不満になる方です。でもルシアン様は、私がどうしたいかを先に考えてくださる」
エドガーは黙った。
その沈黙が、何よりの答えだった。
「お話はこれで終わりにします」
踵を返そうとしたとき、彼が掠れた声で言った。
「……お前は昔、僕を好きだっただろ」
レティシアの足が一瞬だけ止まる。
好きだった。
心が擦り切れるほど、確かに。
けれど彼女は振り返らなかった。
「ですから、それは昔の話です」
それだけを残して、その場を去った。
痛みはなかった。
ただ長い悪夢に、ようやく扉を閉めたような気がした。
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