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11.
卒業式の日、学園は淡い春の陽射しに包まれていた。
一度目の人生では、迎えられなかったこの日。
式のあと、校舎裏の中庭でルシアンが待っていた。
風に揺れる枝の向こう、彼はいつものように静かに微笑んでいる。
「お疲れさまでした」
「ルシアン様も」
並んで歩き出すと、石畳の上に二人分の影が伸びた。
「昔、ある人に言われたんです。誰かに選ばれなかったからといって、あなたの価値が減るわけではない、と」
一度目の人生の終わりに、そして二度目の人生の始まりへ繋がる言葉。
ルシアンが目を大きく見開いた。
「――ええ。覚えています」
レティシアは立ち止まった。
「え、まさか。あなたにも。」
「そうですね。あなたが亡くなって、私は途方に暮れた。実は、一度目の人生から、物静かだけど芯のあるあなたが好きだったんです。そして、森の奥に住む魔女に無理を言って、時を戻してもらいました。その代わり、あなたと結婚するまで、口づけや身体をつなげてはならないよ、必ず幸せにしておやり、と。――だから、今日改めて申し上げます」
ルシアンは真っ直ぐ彼女を見た。
「今のあなたを選んだのは私ですが、それであなたの価値が決まるわけではありません。あなたはもともと、誠実で、優しくて、強い方です。私はただ、そのことを知っているだけです」
視界がにじんだ。
あの毒を飲んだ夜の自分に、この言葉を聞かせてやりたい。
終わりだと思っていた先に、こんな春があるのだと教えてやりたい。
「……ありがとうございます」
涙ぐみながらそう言うと、ルシアンは少しためらったあと、彼女の手を取った。
「手を繋いでも?」
「はい」
ただそれだけの問いなのに、胸がいっぱいになる。
触れることを、こんなにもやさしく確かめられたことがあっただろうか。
温かい手だった。
「これからも、急ぎません」
ルシアンが言う。
「あなたが歩きたい速さで、一緒に進みます」
レティシアは頷いた。
「では、私も約束します」
「何を」
「もう、自分の気持ちを見失いません」
彼女はそっと笑う。
「今度こそ、自分で選び続けます」
春風が二人の間を抜けていく。
校舎の向こうでは、卒業を祝う鐘が鳴っていた。
一度目の人生で、彼女は恋に殉じるつもりで毒を飲んだ。
けれど本当に必要だったのは、誰かの愛にしがみつくことではなく、自分の人生を自分で選びなおすことだったのだ。
隣にいるのは、眩しいだけの幼馴染ではない。
待つことを知り、傷を軽んじず、誠実さを誠実さとして受け取ってくれる人。
レティシアはルシアンの手を握り返した。
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
もう二度と、誰かの都合で自分の価値を決めたりしない。
毒を飲んだ令嬢は、二度目の春にようやく知ったのだ。
幸せとは、選ばれることではなく、
自分を大切にしてくれる人を、自分の意志で選び取ることなのだと。
一度目の人生では、迎えられなかったこの日。
式のあと、校舎裏の中庭でルシアンが待っていた。
風に揺れる枝の向こう、彼はいつものように静かに微笑んでいる。
「お疲れさまでした」
「ルシアン様も」
並んで歩き出すと、石畳の上に二人分の影が伸びた。
「昔、ある人に言われたんです。誰かに選ばれなかったからといって、あなたの価値が減るわけではない、と」
一度目の人生の終わりに、そして二度目の人生の始まりへ繋がる言葉。
ルシアンが目を大きく見開いた。
「――ええ。覚えています」
レティシアは立ち止まった。
「え、まさか。あなたにも。」
「そうですね。あなたが亡くなって、私は途方に暮れた。実は、一度目の人生から、物静かだけど芯のあるあなたが好きだったんです。そして、森の奥に住む魔女に無理を言って、時を戻してもらいました。その代わり、あなたと結婚するまで、口づけや身体をつなげてはならないよ、必ず幸せにしておやり、と。――だから、今日改めて申し上げます」
ルシアンは真っ直ぐ彼女を見た。
「今のあなたを選んだのは私ですが、それであなたの価値が決まるわけではありません。あなたはもともと、誠実で、優しくて、強い方です。私はただ、そのことを知っているだけです」
視界がにじんだ。
あの毒を飲んだ夜の自分に、この言葉を聞かせてやりたい。
終わりだと思っていた先に、こんな春があるのだと教えてやりたい。
「……ありがとうございます」
涙ぐみながらそう言うと、ルシアンは少しためらったあと、彼女の手を取った。
「手を繋いでも?」
「はい」
ただそれだけの問いなのに、胸がいっぱいになる。
触れることを、こんなにもやさしく確かめられたことがあっただろうか。
温かい手だった。
「これからも、急ぎません」
ルシアンが言う。
「あなたが歩きたい速さで、一緒に進みます」
レティシアは頷いた。
「では、私も約束します」
「何を」
「もう、自分の気持ちを見失いません」
彼女はそっと笑う。
「今度こそ、自分で選び続けます」
春風が二人の間を抜けていく。
校舎の向こうでは、卒業を祝う鐘が鳴っていた。
一度目の人生で、彼女は恋に殉じるつもりで毒を飲んだ。
けれど本当に必要だったのは、誰かの愛にしがみつくことではなく、自分の人生を自分で選びなおすことだったのだ。
隣にいるのは、眩しいだけの幼馴染ではない。
待つことを知り、傷を軽んじず、誠実さを誠実さとして受け取ってくれる人。
レティシアはルシアンの手を握り返した。
もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
もう二度と、誰かの都合で自分の価値を決めたりしない。
毒を飲んだ令嬢は、二度目の春にようやく知ったのだ。
幸せとは、選ばれることではなく、
自分を大切にしてくれる人を、自分の意志で選び取ることなのだと。
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