時空間を駆ける者たち

桐原真保

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16章 地震の後で何かが起こった?

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 次の日、涼介はホテル内の小会議室に向かった。訓練に使った部屋以上にセキュリティーが厳重で、入り口付近に警備員が何人か立っていた。
 山本調査員はドアの付近で他の黒服と話をしていが、涼介に気づいて振り向いた。
「おはようごさいます、蓮見さん。よろしくお願いします。これをどうぞ」
 山本はプラスチックの書類フォルダーを二つ持っていた。そのうちの一つを涼介に渡した。開けると5ミリほどの厚みになる書類がファイルされ、右にはノートパッド、中央にはボールペンが付いていた。
 書類フォルダーの背表紙のところに「STL」というアルファベットの頭文字があるのが気になった涼介は、山本に尋ねた。
「これは何のことですか」
「極秘資料ですので、パッと見た目にはわからないようにしてますね」
「はあ」
「スペース・タイム・リーパー対策の頭文字です。現在のところ、それしか適切な名称のつけ方が無いと聞いてます」
「…」
「こちらへ」

 会議室に入ると、大テーブル周りにはすでに多くの人が座っていたが、そのメンバーを見回した涼介は目を見開いた。明らかに政治家と見られる背広姿の年配の男性が数人、大地震後のニュース放映に出てくるような、ワイシャツの上に作業衣風のジャケットを着た人などがいたからだ。
 山本は会議室の上座に座っている別の黒服に会釈をした。
「この方は私の上司、実行委員会執行部、吉田部長です」
 会議が始まり、吉田部長が口を開く。
「まず今回の異常現象対策において我々が知っておくべき基礎知識を、文科省及び内閣中央防災会議専門調査会から説明していただきます」
 地震の専門家である大学教授が演壇に立った。
「それでは緊急時であり、ポイントのみをとの要請に応じてお話しさせていただきます。
 皆様ご存知のように、日本は4つのプレートの層上に位置しております。それらが複雑に衝突しあうという世界に類を見ない環境にあり、日本列島が数々の自然災害に見舞われる要因となっています。火山活動と地震の予知と災害対策は我が国では必須であったので、古くから文書に記録が残されています…」
 え…。これは何の話? 地球物理学の講義じゃあるまいし。涼介は落ちつかず、背中がもぞもぞして来た。山本調査員が笑ってコッソリと涼介に言った。
「もう少し我慢してください。すぐに本題に入りますよ」
「本題とは?」
「十数年前の大地震や災害が、異常な現象を引き起こしたってことです。公には伏せられてますけど」
 大学教授は話を続ける。
「…地震の前に、科学的に説明できない現象が起こることは世界的に知られています。動物たちが異常行動を起こすことなどです。人間が進化の過程で失った知覚能力を動物たちは保持しています。彼らは身の危険を予知することができると言われています。…実は、地震後にも異常な現象が起きるという報告は以前からありましたが、ほとんど公になっていません。あまりに不可解で、科学的な説明が不可能だったせいです。そのため『神隠し』や『異形の魔物の出現』などの民間に言い伝えとして残されていたりします」
 研究者が示すスライドを見て聴衆の間でヒソヒソと話し声が起こり、笑い声も聞こえた。
 研究者は表情を変える事なく話を続けた。
「科学的な裏付けなしに言いますと、大地が揺れて崩れる凄まじいエネルギーが地底から放出されたことでこれらの現象が発生した可能性があります。その後決定的なカタストロフが起きないのは、放出されたエネルギーはやがて消滅するからです。しかし、もし…」
 研究者は言葉を切り、聴衆を見回した。
「…もし、このエネルギーを何者かが利用できたらどうなるか。それは不可能ではないのです。これで私の話は終わらせていただきます」
 聴衆たちは顔を見合わせ、ざわざわと話し声がした。あちこちで手が上がった。
「その異常現象が現実に起こっているのですか」
「何か説明不能な物が出現したのですか」
 研究者が演壇を降りた後も人々は口々にしゃべっている。笑い声も混じった。
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