青眼の烏と帰り待つ羊

鉄永

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隻眼の子どもは

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 遠くなる彼女の背を見ながら、生は息をはく。
 悪夢であるなら、どんなにか良かっただろう。
 狂った母親、最愛のあねの喪失、失くした左目。
 ちひろがいなければもっとずっと曖昧なままで、色々なものが抜け落ちたまま、忘れてしまうところだっただろう。
 それが良かったのか悪かったのかは分からないが。
 ハンカチをポケットの上から触り、改めて忌まわしいあの場所をにらむ。
 自分がこれから目指す先が地獄しかないことは、引き金を引いた時から覚悟していた。
 ただ、あの柔らかい心の彼女が傷つかない世界に、少しでもできるなら、自分はこの足を進めることになんの躊躇ためらいもなかった。
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