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3部
さいごのまえに
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「私がホスクラを経営してキャストのお前を馬車馬のごとく働かせたら、二ヶ月で早期FIREできる気がするんだけど、どう思う?」
「馬車馬は嫌なので難しいです」
ソファにだらりと体を預けた女の問いに、パチン、パチンと爪切りの音を響かせながら男は答えた。
「なんだよ、我儘なやつだな。大丈夫、刺された時のためにちゃんと保険に入らせてやる」
「受取人は」
「そりゃ保護者になるよな」
「うーん、俺は我儘なやつで結構です」
「おかしいな、そんな子に育てた覚えはないんだけど」
「まともな親が子どもを使って生命保険含めて二ヶ月で億以上稼がせようとするもんですか」
「何言ってるんだ、宝くじより確実で現実的だろ」
「俺の命は金で買えませんよ」
女の座るソファの前のテーブルには、女が先ほどまで整備をしていた、今晩の仕事道具が広げてある。
それは、幼くも見える小柄な体躯の女には似つかわしくない、黒い金属製品やポケットの付いたベストなどで、今まさに切り終わった爪にヤスリをかけ始めた上背の男のものだと言われた方がしっくりくる物ばかりだった。
「あ~働きたくない。律日、働きたくない」
「喫茶店でも行って気分転換してきたらどうですか、ソファ席で本読むとか」
「…フラペチーノバニラシロップチョコソーストッピング、ミルクをソイに変更」
「ドーナツは?」
「ドーナツよりほらあれ、なんかクッキーみたいなやつ」
「…シフォンケーキ?」
「それはケーキだろ」
ふんわりとした記憶に基づいた女の要望に男は真面目に答えるが、女は「何を言ってるんだ」と言わんばかりに、じっとりとした目線を男に向けた。
「大きめのクッキー?」
「クッキーじゃないんだって」
「…スコーン?」
「多分それ」
「それかぁ」
女の目線に気を悪くするでもなく、のんびりと会話を続け、男はヤスリをかけた指先を軽くこすって粉を落とした。
「温めてもらいましょう」
「うん。…よし、仕事なんてやめたやめた。そうと決まればさっさと行こう」
「はぁい」
女はソファから反動をつけて起き上がり、男は手袋をつけて立ち上がった。
男が少年だったころ、女に拾われたのは偶然だった。偶然とは言いつつ、女は少年のことを探していたので、路地裏に転がっている少年を見つけたとき、女は自分の引きの強さに感心したわけだが。
「馬車馬は嫌なので難しいです」
ソファにだらりと体を預けた女の問いに、パチン、パチンと爪切りの音を響かせながら男は答えた。
「なんだよ、我儘なやつだな。大丈夫、刺された時のためにちゃんと保険に入らせてやる」
「受取人は」
「そりゃ保護者になるよな」
「うーん、俺は我儘なやつで結構です」
「おかしいな、そんな子に育てた覚えはないんだけど」
「まともな親が子どもを使って生命保険含めて二ヶ月で億以上稼がせようとするもんですか」
「何言ってるんだ、宝くじより確実で現実的だろ」
「俺の命は金で買えませんよ」
女の座るソファの前のテーブルには、女が先ほどまで整備をしていた、今晩の仕事道具が広げてある。
それは、幼くも見える小柄な体躯の女には似つかわしくない、黒い金属製品やポケットの付いたベストなどで、今まさに切り終わった爪にヤスリをかけ始めた上背の男のものだと言われた方がしっくりくる物ばかりだった。
「あ~働きたくない。律日、働きたくない」
「喫茶店でも行って気分転換してきたらどうですか、ソファ席で本読むとか」
「…フラペチーノバニラシロップチョコソーストッピング、ミルクをソイに変更」
「ドーナツは?」
「ドーナツよりほらあれ、なんかクッキーみたいなやつ」
「…シフォンケーキ?」
「それはケーキだろ」
ふんわりとした記憶に基づいた女の要望に男は真面目に答えるが、女は「何を言ってるんだ」と言わんばかりに、じっとりとした目線を男に向けた。
「大きめのクッキー?」
「クッキーじゃないんだって」
「…スコーン?」
「多分それ」
「それかぁ」
女の目線に気を悪くするでもなく、のんびりと会話を続け、男はヤスリをかけた指先を軽くこすって粉を落とした。
「温めてもらいましょう」
「うん。…よし、仕事なんてやめたやめた。そうと決まればさっさと行こう」
「はぁい」
女はソファから反動をつけて起き上がり、男は手袋をつけて立ち上がった。
男が少年だったころ、女に拾われたのは偶然だった。偶然とは言いつつ、女は少年のことを探していたので、路地裏に転がっている少年を見つけたとき、女は自分の引きの強さに感心したわけだが。
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