上 下
2 / 15

新生活とクラスメイト

しおりを挟む
 学園都市に行くことを決めた俺は急いで家に戻り、荷物をまとめた。
家を出るとき、玄関に飾られた写真に目が留まった。
「これも持ってくか。」
写真立てごと鞄に突っ込み家を出た。外には木村さんが待っていた。
「よし!じゃあ行こうか。」
そういうと青木さんは車ドアを開け先に乗るように促した。
「そういえば、倒れた人たちはみんな大丈夫なんだよな?」
「ええ、無事よ。耐性の無かった人は一時的に仮死状態になってあなたのことを忘れるだけだから日が昇るころには、全員目を覚ますはずよ。」
「そっか...ならよかった.....」
張っていた気が緩んだのか、そう言いながら眠りに落ちていた。

「もうそろそろ着きますよ。藤原湊くん。」
木村さんの優しい声が聞こえる。
柔らかい感触、甘い香り、なんとも居心地のいいこの感じはいったい?
ハッとして目を覚ますと、そこは木村さんの太ももの上だった。
慌てて座り直した俺を見て木村さんはクスリと笑った。
「...すみません木村さん。寝ちゃってました。」
「ううん、いいのよ。いろいろあったから疲れてたのね。」

どれぐらい移動したのだろうか。
外はもう薄っすらと明るくなりだしている。

「ほら、あれが学園都市の入り口ですよ。」
と指さされた方に目をやると、そこは大きな壁で覆われ、通り抜けできる唯一のゲートには、銃を肩から掛け武装した警備兵が立っていた。
「なんかすごい厳重な警備なんですけど...?」
「あー、それはですねー、ここが秘密裏に国が管理している学園であると同時に、能力の研究なども行なわれている為、たまーに情報を奪おうとするヤンチャな人達がきちゃったりするんですよ。その為の警備ってところですね。」
というと木村さんはニコッと笑った。
(俺はなんかとんでもない所に来てしまったのではないだろうか...)

手続を終えゲートをくぐると、一つの町がそこにはあった。
町の中心には、一際目立つ大きな建物があり、それを囲むように他の建物や道が作られているのが、この町を初めて見る人間の目にも明らかだった。
「木村さん!あの建物はいったい!?」
「そう!あれこそがこの学園都市の中心、あなたが通うことになる学園、光明学園よ!ようこそ学園都市へ!!」
(あそこから俺の新生活がスタートするのか。)

「よし!じゃあまずは、学園の方の手続をささっと済ませてきちゃいますか。」
そうして俺たちは、学園に向かった。

「ホント広い学園だな。」
あまりの広さにそれしか言葉がでない。

そうこうしているうちに学園長室と書かれた扉の前にたどり着いた。
「しかし、なんだこの扉は...」
俺が思うに普通、偉い人のいる部屋の扉には○○○室とプレートに書かれて貼られているイメージだったのだが...
この扉は違う。真っ白な扉には筆で書いたのだろうか、でかでかと達筆に学園長室と書かれていた。
内心、入るのやめようかなと思うぐらいだ。

コンコン
「学園長、藤原湊くんをお連れしました。」
木村さんがそう言うと部屋の中から声がした。
「分かった。入りなさい。」
部屋に入るといかにも厳格そうな顔をした、白髪にひげを生やした老人が二人を待っていた。
俺はその老人の迫力に思わず、唾を飲み込んだ。
しかし、次の瞬間
「ねえー、どうだったどうだった?学園長室の扉!!あれワシが書いたのワシが!すごくない?」
「えっ?」
一瞬頭が真っ白になった。
「だからーあれワシが書いたのよ!すごくない?」
「あはは...そですね...」
笑うしかないと思い笑顔をつくろうとするがうまく笑えない。
「学園長。」
そのあまりにも冷めた声に学園長はびくっとなった。
声の方向に目をやると、あの今までずっと優しく聖母のような木村さんが汚物を見るかのような目で学園長を見ていた。
(き、木村さん!?)
「学園長本題に戻りましょうか。」
「そ、そうだな。」
学園長は木村さんに怯えている。
「まあまずは、ようこそこの学園へ藤原湊くん。君のことはすでに報告を受けておるよ。今時、人魚食べちゃうなんてホント珍しいよー。まず調理するときの見た目ちょーえぐいからね。」
(うー...あのバカ漁師どもめ!)
「まあ食べちゃったものはしょうがないよね。ちなみに君は不老不死になっちゃったことどう思ってるの?」
「うーん、それはまだちゃん考えてなくて死なないならラッキーぐらいでしか考えてません。」
「普通そうだよねー。だけどね藤原くん、それは逆に言えばどんなに死にたくても死ねないってことでもあるんじゃよ。以前、人魚の肉を食べた八百比丘尼さんは800年も生きたらしいよ?」
「800年!?」
「そう、800年なんて普通の人間だと生きていけないよね。だから君は大切な人に出会ったとしても、その大切な人はみんな先に死んでしまうんじゃよ。」
「そんな...」
「どう?元の体に戻りたい?」
「戻れるんですか!?」
「今はまだ無理じゃが、科学の発達した現代だからこそ君の不死身の謎を解明することができると思っておる。それがこの学園が存在する意義でもあるのじゃから。この学園が君を照らす希望の光になることをワシは願っとるよ。」
そういうと学園長は親指を立て前に出した。

「まあ、かたっ苦しい話はこれぐらいにして明日からの君の学園生活なんじゃが。とりあえずこの学校に慣れてもらう為にクラスは君ともう一人の2名からスタートすることにしたから!」
そう言うと学園長は木村さんの方を向いて続けてこう言った。
「木村ちゃん、もう一人の子の方なんだけど、あー名前なんっていったっけなー、ほら!つい先日きて一人で隔離してる子!」
それを聞いた瞬間、木村さんの表情が一変した。
「霧崎華憐のことですか!?」
「あ!そーそーその子その子!藤原くんとはきっと相性がいいんじゃないかな?いつも一人だとやっぱり可愛そうだと思うのよー。」
「まあーそうですね。他の人間ならあれですけど...藤原くんだったら...」
(隔離!?俺なら大丈夫っていったい)
「よし!じゃあそれで決まりってことで藤原くん、明日から霧崎さんと仲良くしてあげるんじゃよ。たった一人のクラスメイトなんだから。」
「はい、わかりました。」
(いったいどんな子なんだろう...まあ明日になればわかるか)
「それじゃあ、解散!」

学園長との話も終え、俺は学園が準備してくれた新しい家へとたどり着いた。
だが気になる、家まで送ってくれた木村さんのあの、複雑そうな表情が...
(まあ、ただの思い過ごしだろうか。)

明日からの学園生活を想像しながら、また寝落ちるのだった。
しおりを挟む

処理中です...