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初めまして霧崎さん

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ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ 

バシッ!!!

目覚ましを止めるものの、なかなか起き上がることが出来ない。
(うーーーーーーーん、眠い...)

カーテンの隙間からは光が差し込み、窓の外からは鳥の鳴き声も聞こえてきた。なんて平和な朝なんだ。
まるで、昨日までのことが夢だったかと思えるほどに。

ベッドから起き上がりテレビをつけ、身支度を整えていると朝のニュース番組でつい先日起きた殺人事件の報道が行われていた。
報道によると犯人は未成年者で、担任を含め、1クラスまるごと皆殺しにしたらしい。
犯行の理由については、「みんな好きだから殺しちゃった。でもみんな死んじゃったから私のこと好きじゃないのかな?好きだったら死なないと思うんだけど。」だそうだ...
「うわー。なんだよ好きだから殺しちゃったって。普通死ぬだろ!クラスメイトもまさかそんな理由で殺されるとは思ってなかっただろうな。かわいそうに。」
っとテレビのニュースにツッコミをいれながらも身支度を終えた俺は、テレビを消し家を後にした。

家と学園までの距離はおよそ徒歩で10分、この時間帯になると同じ制服を着た生徒らしき人達がちらほら見られる。この学園には、能力者、異端者だけが通っていると思っていたが、学園都市で仕事をしている普通の人や研究者も数多くいる為、その子供達は光明学園普通科として通っているらしい。逆に、能力者や異端者は光明学園特殊科として通っていて、その割合は全校生徒の3割程度だと昨日、学園を訪れた際に木村さんが言っていた。
特殊科の生徒には学園側の用意した腕輪の装着義務が課されていて、緊急時の位置情報の特定や健康状態の把握等が主な目的となっているそうだ。

そんなことを思い出しているうちに校門の前まで辿り着いた。
正面からみて左側の校舎が特殊科、右側の校舎が普通科になっていて、下駄箱で靴を履き替えると生徒達は、左右別々に散らばっていく。
靴を履き替え特殊科のある左側の校舎へと続く廊下を歩いていると一人の女生徒が声をかけてきた。
「君、転校生?クラス分かるー?」
「あー、確かCクラスって言ってたかな。」
「えーー!?あのCクラス!?」
彼女は驚いた様子で尋ねた。
「あのってなんだよ?」
「あっ、ううん、なんでもないよ。そっかーCクラスかー...んじゃー頑張ってね!」
っというと彼女はそそくさと逃げるように自分の教室に入って行った。
(何を頑張るんだよ...)
と思いながらもCクラスの教室へと向かった。
いざ、扉の前に立つと昨日の学園長の話や木村さんの表情、さっきの女性との態度を思い出し扉を開けるのを躊躇してしまう。そのとき、俺の中のシ○ジ君が逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだと叫んでいた。
覚悟を決めた俺は、勢いよく扉を開けた。

ガラガラガラ!!!

「え?」

ガラガラガラ!!!
何か見てはいけないものを見てしまったような気がして、思わず開けた勢いと同じぐらい全力で扉を閉めてしまった。

「あれはいったい...そっか何かの見間違いか!!きっとそうだ。」
再び恐る恐る扉を開けてみる。

やはり見間違いではなかったようだ。
教室の中には二つ席が用意されているのだが、その一つにクラスメイトだと思われる人物が既に着席していた。
体型は小柄な感じで腰ぐらいまで伸びたきれいな黒髪のツインテールが印象的な女の子である。多分普通にしていれば...
その印象を派手にぶち壊したのは、身動きの取れない拘束着、口のボールギャグ、そして目隠しだ。

(え?なにあれ((((゚Д゚)))))

とりあえず教室に入った俺は、自分の席についてホームルームが始まるのを待つことにした。
恐る恐る隣を見てみると、彼女は俺の方をガン見している。

(え?やだなにこれ怖い((((゚Д゚)))))

あまりにも気まずいのでとりあえず挨拶をしてみることにした。
「お...おはよう。」
「ふぉふぁようふぉふぁいふぁす」

ボールギャグを付けている為、きちんと聞き取れないがちゃんと挨拶を返してくれたようだ。
そのとき始業のベルがなり、教室に木村さんが入ってきた。

「おはようございます。今日からこのCクラスを担当することになりました。二人とも私には会ってるから名前はもういいわね?二人は初めて会うからお互い自己紹介してもらうけど、まず最初に霧崎さんの拘束全部外してあげないとね。」

そういうとなぜか教壇と二人の席の間に上から鉄格子が下りてきた。
「木村さん!?これはいったい?」
「あ、とりあえずこれは教師の安全対策ってやつよ。まあ、私には必要ないのだけど念のためね。」
鉄格子が下り終わると木村さんは、霧崎さんの方に手を伸ばし
「リリース」
と唱えた。
その瞬間、霧崎さんと呼ばれる生徒を拘束していたものが全て消えていく。
拘束されていたものが全て消え、初めてみた霧崎さんの素顔はとても可愛らしく思わず見とれてしまった。

「初めまして。私の名前は霧崎華憐です。えーと、あなたの名前は?」
彼女に見とれて惚けていた俺に彼女が尋ねた。
「あっ。俺の名前は藤原湊だ。初めまして霧崎さん。」
「湊くんかー。気軽に華憐って呼んでいいよ。私ね、クラスメイトが出来て今すっごく嬉しいんだー。湊くんのこと一目見ただけで好きになっちゃったよ。」
「俺もクラスメイトが霧崎さんみたいな可愛い子でよかったよ。」
「もー。霧崎さんじゃなくて華憐だってば。」
「わかったよ。これから同じクラスメイトとして、よろしくな華憐。」

そう言いながら俺は、右手を前に出した。
「うん、こちらこそよろしくね。」
と、華憐も俺の手を握り返した。
「生きてたらね。」

その瞬間、鮮血が目の前を飛び散り、彼女の白を基調とした制服を血が点々と染め上げていく。
彼女の左手には、刃渡り10cmほどのナイフが握られていた。
「いったいなんで...?」
首を切られていることにようやく気付き慌てて手で抑えるが傷口はもう塞がっていた。
華憐は嬉しそうな顔で近づきその疑問に答えた。
「湊くんのこと好きになっちゃったからだよー。」
その言葉に、朝のニュースが俺の頭をよぎった。

華憐は持っていたナイフでさらに俺の腹部を何度も刺しながら話を続けた。
「きっとねー、私のことを好きな人だったら神様が生き返らせてくれると思うんだよねー。それで晴れて両想いになれるんだよー。私は、その運命の人に会うために好きな人は殺すの。それが男の子でも女の子でも大人でも子供でも。」
なんて無邪気そうな顔で言うんだ。
「もし...そんな相手に出会えたとして...そのあと華憐はどうするんだ?ずっと出会って好きになった人達を殺し続けるのか?」
「まさかー。私こう見えても一途なんだから。両想いになった人しか殺さないよー。」
無邪気に答えた。
「どっちにしろ地獄だな...」

ナイフが腹部から抜かれる度、すぐに傷口は塞がっていたが、血を流しすぎたせいだろうか、意識が朦朧とする。
(まあ、どうせ死ぬことはないか...)
なんて考えながら俺は気を失った。

「あれー?湊くーん?死んじゃったかな?あーあ、せっかく久しぶりに好きになったのにまた違ったのかな...」
彼女は寂しそうに呟いた。

俺の復活まであと3分。
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