8 / 24
第一章
8 宿泊会①
しおりを挟む
試験も終わり、長い夏休みが始まった。
試験の結果に合わせて補講が用意されるが、それらが始まるまではしばらくの猶予がある。セシルもレイも補講の該当者にはならなかったが、自主的に参加したい講義はある。他の遊び仲間たちには成績が危ない人もいるため、補講が始まるよりも早くレイの家の別荘での宿泊会は開催されることとなった。
「想像より豪華だったよ、あんたの別荘」
「そうかなあ。ちょっとしたものだよ」
置かれている家具が全て上物であるのは言うまでもない。だが置かれているランプの一つひとつが特殊な魔術が織り込まれた高級品であったり、壁や床にさりげなく金の装飾があしらわれていたりするのは、「ちょっとした」の範疇を明らかに超えている。
「セシルの家も別荘あるでしょ。セシルのお父さんのことだから豪華なんじゃないの」
「あいつは見栄っ張りだからね。外側だけさ。蓋を開けたら大したものじゃないよ」
そっか。レイは一言呟き、それ以上は踏み込まないとばかりにテーブルとソファーを指さした。
「じゃ、皆が来る前に家具動かしちゃおう」
「えー、このままでいいじゃん」
「だめ。皆が座れない」
聞けば、しばらく前にレイと彼の婚約者でこの別荘に遊びに来たとき、ソファーを一つ他の部屋に移したらしい。他の皆がくつろげるように元に戻したい、というのが彼の主張だった。
苦そうな顔で告げるレイを見ていると、そういえば彼の婚約者は我儘だったなと思い出す。メアリに付きまとわれているセシルに彼が同情的なのもわかるような気がした。
「レイってあんまり使用人に頼らないよね」
彼の使用人も別荘には来ているが、今は買い出しに出かけている。他の面子が来るのはもうしばらく後だから、二人で家具を動かすことになる。
使用人を連れているときでも、レイは使用人を頼ろうとはしない。出来ることは自分でやってしまおうとするし、一人で出来ないことをするときに頼るのはセシルだ。そして使用人に手を出されないために、使用人をわざとどこかに追いやる節があることにセシルは気が付いていた。
「僕の使用人だけど、味方じゃないからね」
「あんたも大変だよな」
「そういう訳だから手伝って」
「はいはい。仰せのままに」
ソファーを動かし机を動かし、大勢が座れる状態に戻していく。魔法でソファーが軽くなったらいいのに、なんてぼやくと「僕らの魔法では無理だね」と彼は笑った。
「今日誰が来るんだっけ。メアリ来ないよね?」
確か泊りに来るのは男子がレイとセシルを除いて数名、その数名の男子と仲良くしている女子が数名だったはずだ。その女子の中にメアリはいないはずだったが、レイの家の別荘で宿泊会があることは知っている人は、メンバー以外にも何人かいた。聞きつけたメアリが参加したがったとしても不思議はない。
「誰かが突然誘わない限りは来ないよ。僕もメアリさんが来たいって言ったら断るつもりだったし」
「さすがに人の家の泊まりに飛び入り参加、は非常識だよね。レイの家だし。来ないか」
「うん。気にしなくていいと思う」
セシルがほっとしたのも束の間。レイの使用人に連れられてやってきたメンバーの中には、絶対に会いたくない顔がいた。
「うわー、セシル気の毒」
「俺帰ってもいい?」
「僕の召使い一号がいなくなるのは困る」
「引き留めるならもう少しマシなこと言ってよ」
こそこそと会話をしているうちに、メアリがすっとセシルの近くまで歩いてくる。露骨に嫌な顔をしてしまったが、彼女はめげることはなかった。
「昨日アンナさんに誘っていただきましたの。二日間一緒に過ごせて嬉しいですわ」
「それ、俺じゃなくてレイに言って。あと家主に断りもなく泊りに来るのは非常識だと思う」
セシルが冷たい声で言うも、メアリはしれっと「連絡したつもりだったのに、何かあったのかしら」とぼやいている。嘘をつけ、と言いたい気持ちは山々だったが、取り巻きと化した女子たちが「セシル様が照れているわ」と小声で話しているのが聞こえて諦めた。もう何を言っても無駄だろう。
溜息を堪えていると、レイがぽんぽんと肩を叩いてくる。「出来るだけ助けてあげるから」とその唇が動いた。
「セシル、悪いけどお茶淹れてきてくれる?」
「うん。キッチン借りるね」
「じゃ、皆座ってて。僕はお菓子用意するから」
「レイ様にそんな」
「もてなすのは僕の趣味だよ」
キッチンに来ようとするメアリを含む女子たちに、レイがウインクする。王子の肩書を持つ美形のそれは非常に似合っており、女子はおろか後ろにいた男子でさえも顔を赤らめる事態となった。普段なら「また人を誑かして」と言って揶揄うところだが、今はそれが有難い。
レイが助け舟を出してくれるとはいえ、この宿泊会の間メアリがずっと付きまとってくるのだと思うと、肩を落とさずにはいられなかった。
試験の結果に合わせて補講が用意されるが、それらが始まるまではしばらくの猶予がある。セシルもレイも補講の該当者にはならなかったが、自主的に参加したい講義はある。他の遊び仲間たちには成績が危ない人もいるため、補講が始まるよりも早くレイの家の別荘での宿泊会は開催されることとなった。
「想像より豪華だったよ、あんたの別荘」
「そうかなあ。ちょっとしたものだよ」
置かれている家具が全て上物であるのは言うまでもない。だが置かれているランプの一つひとつが特殊な魔術が織り込まれた高級品であったり、壁や床にさりげなく金の装飾があしらわれていたりするのは、「ちょっとした」の範疇を明らかに超えている。
「セシルの家も別荘あるでしょ。セシルのお父さんのことだから豪華なんじゃないの」
「あいつは見栄っ張りだからね。外側だけさ。蓋を開けたら大したものじゃないよ」
そっか。レイは一言呟き、それ以上は踏み込まないとばかりにテーブルとソファーを指さした。
「じゃ、皆が来る前に家具動かしちゃおう」
「えー、このままでいいじゃん」
「だめ。皆が座れない」
聞けば、しばらく前にレイと彼の婚約者でこの別荘に遊びに来たとき、ソファーを一つ他の部屋に移したらしい。他の皆がくつろげるように元に戻したい、というのが彼の主張だった。
苦そうな顔で告げるレイを見ていると、そういえば彼の婚約者は我儘だったなと思い出す。メアリに付きまとわれているセシルに彼が同情的なのもわかるような気がした。
「レイってあんまり使用人に頼らないよね」
彼の使用人も別荘には来ているが、今は買い出しに出かけている。他の面子が来るのはもうしばらく後だから、二人で家具を動かすことになる。
使用人を連れているときでも、レイは使用人を頼ろうとはしない。出来ることは自分でやってしまおうとするし、一人で出来ないことをするときに頼るのはセシルだ。そして使用人に手を出されないために、使用人をわざとどこかに追いやる節があることにセシルは気が付いていた。
「僕の使用人だけど、味方じゃないからね」
「あんたも大変だよな」
「そういう訳だから手伝って」
「はいはい。仰せのままに」
ソファーを動かし机を動かし、大勢が座れる状態に戻していく。魔法でソファーが軽くなったらいいのに、なんてぼやくと「僕らの魔法では無理だね」と彼は笑った。
「今日誰が来るんだっけ。メアリ来ないよね?」
確か泊りに来るのは男子がレイとセシルを除いて数名、その数名の男子と仲良くしている女子が数名だったはずだ。その女子の中にメアリはいないはずだったが、レイの家の別荘で宿泊会があることは知っている人は、メンバー以外にも何人かいた。聞きつけたメアリが参加したがったとしても不思議はない。
「誰かが突然誘わない限りは来ないよ。僕もメアリさんが来たいって言ったら断るつもりだったし」
「さすがに人の家の泊まりに飛び入り参加、は非常識だよね。レイの家だし。来ないか」
「うん。気にしなくていいと思う」
セシルがほっとしたのも束の間。レイの使用人に連れられてやってきたメンバーの中には、絶対に会いたくない顔がいた。
「うわー、セシル気の毒」
「俺帰ってもいい?」
「僕の召使い一号がいなくなるのは困る」
「引き留めるならもう少しマシなこと言ってよ」
こそこそと会話をしているうちに、メアリがすっとセシルの近くまで歩いてくる。露骨に嫌な顔をしてしまったが、彼女はめげることはなかった。
「昨日アンナさんに誘っていただきましたの。二日間一緒に過ごせて嬉しいですわ」
「それ、俺じゃなくてレイに言って。あと家主に断りもなく泊りに来るのは非常識だと思う」
セシルが冷たい声で言うも、メアリはしれっと「連絡したつもりだったのに、何かあったのかしら」とぼやいている。嘘をつけ、と言いたい気持ちは山々だったが、取り巻きと化した女子たちが「セシル様が照れているわ」と小声で話しているのが聞こえて諦めた。もう何を言っても無駄だろう。
溜息を堪えていると、レイがぽんぽんと肩を叩いてくる。「出来るだけ助けてあげるから」とその唇が動いた。
「セシル、悪いけどお茶淹れてきてくれる?」
「うん。キッチン借りるね」
「じゃ、皆座ってて。僕はお菓子用意するから」
「レイ様にそんな」
「もてなすのは僕の趣味だよ」
キッチンに来ようとするメアリを含む女子たちに、レイがウインクする。王子の肩書を持つ美形のそれは非常に似合っており、女子はおろか後ろにいた男子でさえも顔を赤らめる事態となった。普段なら「また人を誑かして」と言って揶揄うところだが、今はそれが有難い。
レイが助け舟を出してくれるとはいえ、この宿泊会の間メアリがずっと付きまとってくるのだと思うと、肩を落とさずにはいられなかった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
本編完結済み。
続きのお話を、掲載中です。
続きのお話も、完結しました。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる