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【最愛】-レイラ=フォード-

【最愛】第一話「興味ないんですか?」

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 私、レイラ=フォードの人生は平坦な一本道だった。

 イギリス人夫妻の一人っ子として生まれ、両親や祖父母などにはとても大事に育てられた。だからといって特別な環境にいるわけではない。それくらいは誰もが享受きょうじゅしうる当たり前の幸せの中で過ごしていただけに過ぎない。

 例えば、世帯年収も平均的、家のサイズも平均的、私自身も平均的な身長に、平均より少しだけ大きめなバスト、特徴とくちょうがあるとしたら腰まで届く長い金髪くらいなものだが、それはそれで毎日手入れが大変だとなげいている。

 学業についても平均的だったし、将来の目標やなりたい職業なんてものも特になかった。

 何か選択をする事が苦手だし、『運命を切り開く』なんていう言葉とは縁もなく、自分の頭の出来に見合った大学へ進学をした。

 あこがれだったというほどではないが、大学の近くのアパートで一人暮らしも始めた。

 学友や後輩などにも恵まれて、山も谷もないどこにでもある普通の学園生活を過ごしている。

 もちろん、普通というものがいくつも積み重なると、それは普通ではなく平均以上の幸せになるという言い分も認識しているつもりだ。

 だけど、谷は平地を見て自分の居場所をなげき、平地は山を見てうらやみ、山は天を見上げて届かぬおもいをせる。結局はどの位置にいても叶わぬものを願い続けることになるだけなのだ――。


◇ ◇ ◇


 ――などと恰好をつけて色々と物思いにひたりながら一人で大学の構内を歩いていると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。

「レイラさーん!」

 振り返ると、そこには一つ下の学年のヨーコが手をブンブンと振っていた。

 彼女の名前はヨーコ=マサキ。詳しい身の上話は私から聞いたことはないけれど、元々は日本にいたらしく、そちらでの名前は『政木まさき 葉子ようこ』という名前らしい。

 少し短めの黒髪ボブヘアーで、私より少し小さい身体がズイズイと私に寄って来る。

 偶然落とし物を拾ったのがきっかけで仲良くなり、したってくれるようになったのは大変ありがたいのだが、いささか私のパーソナルスペースに入り込み過ぎなのがたまに傷なところがある。

「レイラさん、このあとお昼ごはんいかがですか?」

 ヨーコは明るく陽気な声でたずねながら、バッグからピンクの弁当箱を取り出した。

「お昼は別に構わないけれど、私は弁当なんて作ってないから学食でもいいかしら?」

「そこは大丈夫です! ちゃんと二人分作ってありますから!」

 そう言って水色の弁当箱も取り出してこちらに見せてくる。この思ったことに対して積極的なところは、本当に見習うべきところだといつも感心してしまう……。


◇ ◇ ◇


 食堂に来ると設置してあるテレビから流れてくるニュースで、学生たちがざわついていた。どうやら人気俳優と人気女優の結婚発表がほうじられているようだった。

「……くだらないわね」

 私はニュースを聞き流しながら席に着き、ヨーコから貰った弁当を広げ始めた。

「レイラさんはああいうのって興味ないんですか?」

 ヨーコが対面の席に座り、同じく弁当を広げながら声をかけてきた。

「誰が誰を好きだの嫌いだの、それを面白いと思う人や好きだと思う人がいるのは理解できるわ。でも、私はあんまりそういうのに興味がないってだけの話よ……」

「なるほど……。そもそも恋愛とかそういうのには、あんまり興味が無いって感じなんですねぇ」

 ヨーコはそう言いながら、自らが作ってきた弁当に手を付け始めた。

 確かに誰が誰を好きなのか、私はそういったものにあまり興味はない。

 しかし、恋愛に興味がないわけではなく、むしろ、誰よりも人一倍恋愛に対して興味がある。

 問題があるとすれば、私も既に二十歳はたちになっているが、未だに『恋』というものにえんがないことなのだ。

 家族や友人、もちろんヨーコにだって愛情アイじょうは感じているが、それは愛情であって『恋』ではない。恋とは一体どういうものなのか。どれほど素敵なことなのだろうか。

 私の恋愛に対する期待感、そして特別な想いというものは日増しに積み重なっていき、私は誰よりも特別で『運命的な恋』をしたいという欲求があった。だからこそ敷居が高くなりすぎて恋が出来ないのかもしれない。

「そうだ、レイラさん。来週のお休みって空いてますか? ちょっと私の知人で紹介したい方がいるんですけど……」

「空いてはいるけど……またどうして?」

「いやぁ、いま日本にいる知人なんですけど、彼が大学院の研究の一環いっかんとしてイギリスへ旅行に来るらしくって。私の近況やレイラさんのことを話したら、彼が是非ぜひ一度お会いしたいとのことでして……」

 ヨーコが食事をしながら上目遣うわめづかいで小動物のようにたずねてくる。

 くっ、かわいいなこいつ。

「彼ってことは男性の友人なの?」

「はい、大学院で研究してるので私たちより少し歳は上なんでけど……。なんというか、昔馴染むかしなじみというか、くさえんと言うか……。ははっ」

 ヨーコは目線を外して鼻をく。

 何と言うか、本当にヨーコはウソをつくのが下手なタイプだと思う。

 昔馴染や腐れ縁なんていう少しマイナスな言い方の相手ではないことくらい、流石の私でもわかってしまう。

「彼氏なの?」

 きっと私は少し悪い顔をしていたに違いない。

「ち、違います! うーん、そうですね……。協力者という感じが一番しっくり来る気がしますッ! 私が調査しているのと同じ分野のことをやっているんですよ」

 今さっき誰が誰を好きだのと言った口で、これ以上聞くのは自己矛盾じこむじゅんが起きてしまうだろう。もちろん、彼女に対して愛情を持っているゆえに、意地悪いじわるしたくなってしまっただけだ。

 それに、ヨーコ自身もその相手を彼氏だと言われて満更でもない様子だった。

「話は戻るけれど、その『彼』に会うって話、別に問題ないわよ。あとで具体的な場所と時間だけ連絡してちょうだい」

「ありがとうございます! きっと彼も喜ぶと思います!」

 ヨーコは勢い良く次々と弁当のおかずを口に放り込み、あっという間に完食した。

「それじゃあ、早速彼と連絡取ってきますぅ! また時間とかは追って連絡しますので!」

 ヨーコは弁当箱を素早く片付けると、あっという間に走り去ってしまった。

「この弁当箱どうしよう……」

 まだ半分も食べていないヨーコの手作り弁当が私の前に残っていた。

 でも、まぁ、美味おいしいからじっくり食べて、また明日にでも返そう。
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