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第8話 出身世界その2
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絵を描く場所はなかなか見つからなかった。
私が生まれた街、生活していた家、そして亡くなった地。
色々考えたけどしっくりこなかった。
「変に思い入れがあるから敷居が高くなってるのかもしれないね。どこか全く知らない場所にする?」
それも良いかも知れない。
今の私ではいつまで経っても良い場所は見つからないだろう。
「どこがいいかな? 昴くんはどこがいいと思う?」
「なんとなく良さそうな場所は思いついてるけど、それを言っちゃったら意味がないからね。黒江ちゃんが自分で見つけないと」
「ケチだなぁ」
「黒江ちゃんのためだよ。でも、黒江ちゃんもそう思ってるんじゃない? 自分が決めたいって」
見透かされているようでなんとも言えない不愉快な気持ちになった。
でも、この感覚、ようやくわかった気がする。大人と子供の関係だ。
私は彼のことを言動や行動から子供っぽいと思っていた。
私は必死に毎日深夜まで働いているのに、彼は渡したお金をすぐに全部使ってしまう。
私は大人で、彼は子供。
でも、実際には私の方がどこか子供扱いされていると感じてしまっているのだ。
昴くんは私と幽霊になってから過ごしている時間が違いすぎる。
別に昴くんが私を子供扱いしているわけではない、単純に時間感覚がズレていることにお互いに気がついてなかっただけの話だ。
私はまだ短い時間しか生きていない。
旅行好きの大人が今まで行った観光地からオススメするなかで、狭い町内しか知らない子供がどこを紹介できるのだろうか。
少なくとも私が知っている場所の中に、描きたいと思う場所――昴くんに見せたい場所はないだろう。
それなら私が出来る答えは一つしかないのかもしれない。
「……す、昴くん! お、お願いがあるんだけど!」
「なーに?」
「い、今からデートしてくれない!?」
「うん、いいよ」
彼は微笑みながら答える。
こっちが勇気を振り絞って発したのに、あっさりしたものだ。
一応、新婚旅行をしている最中にデートをしてくれという、よくわからないお願いを何の迷いもなく受け入れるなんて……。
彼の器が大きいのか天然なのか判断がつかない。
「とりあえず、行きたい場所はないんだけど、昴くんの言ったとおり、私の行ったことのない場所に行こうと思うの」
「うん、いいね。そうしよう」
「えぇっと、そうだ、喫茶店に行こ。あとゲームセンターとか。私、あんまり行ったことないんだ」
「じゃあ、まず喫茶店から行こうか」
「うん」
◇ ◇ ◇
喫茶店、ゲームセンター、水族館、動物園、科学館、大きい公園、漫画喫茶、野球観戦、あと何をしたっけ。
とにかく毎日違うところへ行って、色んなことをしてみた。
知らない場所にいって、今までやったことないことをしてみて、何か感じないか。
昴くんが色んな世界を旅して、見たことのないものを見たように、私はまず自分の世界で見たことのないものを見てみた。
結局、一周して大きい公園のベンチに二人して座り、遊具で遊ぶ子どもたちを眺めている。
「どう? なにか見つかった?」
「えっと……。楽しかった……」
デートというものを生きていた頃にしたことはある。
でも、昴くんと回った知らない場所デートはとても楽しく感じた。
一体なにが違うのだろう……?
「そっか! わかった!!」
思わず立ち上がって大声を上げてしまった。
幸い、大きい公園だから誰も気に留めることがなかった。
「何がわかったの? 描く場所?」
「うん、それもだけどどうして昴くんとデートしたのが楽しかったのかっていうこと」
「――僕とのデート、楽しかったんだ」
昴くんがにっこりと微笑んで気がつく。
さらっと恥ずかしいことを言ってしまっていた。
「と、とにかく。わかったの!」
私はベンチに改めてゆっくりと座った。
「私ね、学生時代とかに男の人とデートに行ったことあったんだ。でも、今ほどは楽しくなかった。それって行ったことある場所だったからだと思うんだ」
「行ったことあったらつまらないの?」
「もちろん、行ったことがあるからこその面白さはあると思うし、安定した面白さは保証されていると思う。でも、昴くんと行った場所は、私は全部初めて行った場所、私の初めてを全部昴くんと共有できたことが嬉しいし、楽しかったんだと思う」
きっと私の眼はいま輝いていると思う。
自覚できるくらい自信と希望に満ちあふれているのだ。
「よかった、僕が思っていた以上に黒江ちゃんは自分で描く場所を見つけられたんだね」
「ちなみに、昴くんはどこが良いと思ってたの?」
「僕の答えは黒江ちゃんが最初に出した『行ったことのない場所』だったよ。もちろん、一緒にデート出来て色んな場所に行けるとは思ってなかったけどね」
彼は思った以上の収穫に嬉しそうに微笑んだ。
「仮に黒江ちゃんが行ったことある場所だったとしても『僕とは一緒に行ってない場所』であればいいかなって思ってた。だから、もし『僕と一緒に行ったことある場所』だったら、ちょっと残念だなって思ったかも」
「うん、これは新婚旅行だもんね、二人で新しい思い出を作る旅行なんだもん」
私はようやく理解した。
昴くんのことをもっと知りたいと思って、先に私から何か渡さなければギブアンドテイクにはならないと思っていた。
でもそれは驕りだった。
私から先に押し付けて何かをもらおうというのは、ズルい行為だ。
お互いが納得した上で取引する。それが本来あるべき姿なのだ。
「私、ちょっと焦っていた」
「ふふっ、僕もそうだなーって思ってたよ」
「もう、それならそう言ってくれればいいのに!」
「でも、誰かに言われて直すより、自分で気がついた方がいいでしょ? 黒江ちゃんは絶対に自分で気がつけると思ってたし」
「買いかぶり過ぎすぎだよ」
「そんなことないよ、僕はわかるんだ。君の夫だからね」
そう言われて改めて彼が自分の中で大きな存在になりつつあるのを実感してきた。
「よーし! 絵はここで描くことにする! あ、でも、やっぱり私の地元のことも改めて紹介させて?」
「いいの?」
「うん、色んなところを回って時間が出来たらでいいから、そのうち。あ、でも出来たら八月がいいかな?」
「それはいいけど、なんで夏なの?」
「昴くんは知ってる? 幽霊はお盆に帰ってくるんだよ?」
私が生まれた街、生活していた家、そして亡くなった地。
色々考えたけどしっくりこなかった。
「変に思い入れがあるから敷居が高くなってるのかもしれないね。どこか全く知らない場所にする?」
それも良いかも知れない。
今の私ではいつまで経っても良い場所は見つからないだろう。
「どこがいいかな? 昴くんはどこがいいと思う?」
「なんとなく良さそうな場所は思いついてるけど、それを言っちゃったら意味がないからね。黒江ちゃんが自分で見つけないと」
「ケチだなぁ」
「黒江ちゃんのためだよ。でも、黒江ちゃんもそう思ってるんじゃない? 自分が決めたいって」
見透かされているようでなんとも言えない不愉快な気持ちになった。
でも、この感覚、ようやくわかった気がする。大人と子供の関係だ。
私は彼のことを言動や行動から子供っぽいと思っていた。
私は必死に毎日深夜まで働いているのに、彼は渡したお金をすぐに全部使ってしまう。
私は大人で、彼は子供。
でも、実際には私の方がどこか子供扱いされていると感じてしまっているのだ。
昴くんは私と幽霊になってから過ごしている時間が違いすぎる。
別に昴くんが私を子供扱いしているわけではない、単純に時間感覚がズレていることにお互いに気がついてなかっただけの話だ。
私はまだ短い時間しか生きていない。
旅行好きの大人が今まで行った観光地からオススメするなかで、狭い町内しか知らない子供がどこを紹介できるのだろうか。
少なくとも私が知っている場所の中に、描きたいと思う場所――昴くんに見せたい場所はないだろう。
それなら私が出来る答えは一つしかないのかもしれない。
「……す、昴くん! お、お願いがあるんだけど!」
「なーに?」
「い、今からデートしてくれない!?」
「うん、いいよ」
彼は微笑みながら答える。
こっちが勇気を振り絞って発したのに、あっさりしたものだ。
一応、新婚旅行をしている最中にデートをしてくれという、よくわからないお願いを何の迷いもなく受け入れるなんて……。
彼の器が大きいのか天然なのか判断がつかない。
「とりあえず、行きたい場所はないんだけど、昴くんの言ったとおり、私の行ったことのない場所に行こうと思うの」
「うん、いいね。そうしよう」
「えぇっと、そうだ、喫茶店に行こ。あとゲームセンターとか。私、あんまり行ったことないんだ」
「じゃあ、まず喫茶店から行こうか」
「うん」
◇ ◇ ◇
喫茶店、ゲームセンター、水族館、動物園、科学館、大きい公園、漫画喫茶、野球観戦、あと何をしたっけ。
とにかく毎日違うところへ行って、色んなことをしてみた。
知らない場所にいって、今までやったことないことをしてみて、何か感じないか。
昴くんが色んな世界を旅して、見たことのないものを見たように、私はまず自分の世界で見たことのないものを見てみた。
結局、一周して大きい公園のベンチに二人して座り、遊具で遊ぶ子どもたちを眺めている。
「どう? なにか見つかった?」
「えっと……。楽しかった……」
デートというものを生きていた頃にしたことはある。
でも、昴くんと回った知らない場所デートはとても楽しく感じた。
一体なにが違うのだろう……?
「そっか! わかった!!」
思わず立ち上がって大声を上げてしまった。
幸い、大きい公園だから誰も気に留めることがなかった。
「何がわかったの? 描く場所?」
「うん、それもだけどどうして昴くんとデートしたのが楽しかったのかっていうこと」
「――僕とのデート、楽しかったんだ」
昴くんがにっこりと微笑んで気がつく。
さらっと恥ずかしいことを言ってしまっていた。
「と、とにかく。わかったの!」
私はベンチに改めてゆっくりと座った。
「私ね、学生時代とかに男の人とデートに行ったことあったんだ。でも、今ほどは楽しくなかった。それって行ったことある場所だったからだと思うんだ」
「行ったことあったらつまらないの?」
「もちろん、行ったことがあるからこその面白さはあると思うし、安定した面白さは保証されていると思う。でも、昴くんと行った場所は、私は全部初めて行った場所、私の初めてを全部昴くんと共有できたことが嬉しいし、楽しかったんだと思う」
きっと私の眼はいま輝いていると思う。
自覚できるくらい自信と希望に満ちあふれているのだ。
「よかった、僕が思っていた以上に黒江ちゃんは自分で描く場所を見つけられたんだね」
「ちなみに、昴くんはどこが良いと思ってたの?」
「僕の答えは黒江ちゃんが最初に出した『行ったことのない場所』だったよ。もちろん、一緒にデート出来て色んな場所に行けるとは思ってなかったけどね」
彼は思った以上の収穫に嬉しそうに微笑んだ。
「仮に黒江ちゃんが行ったことある場所だったとしても『僕とは一緒に行ってない場所』であればいいかなって思ってた。だから、もし『僕と一緒に行ったことある場所』だったら、ちょっと残念だなって思ったかも」
「うん、これは新婚旅行だもんね、二人で新しい思い出を作る旅行なんだもん」
私はようやく理解した。
昴くんのことをもっと知りたいと思って、先に私から何か渡さなければギブアンドテイクにはならないと思っていた。
でもそれは驕りだった。
私から先に押し付けて何かをもらおうというのは、ズルい行為だ。
お互いが納得した上で取引する。それが本来あるべき姿なのだ。
「私、ちょっと焦っていた」
「ふふっ、僕もそうだなーって思ってたよ」
「もう、それならそう言ってくれればいいのに!」
「でも、誰かに言われて直すより、自分で気がついた方がいいでしょ? 黒江ちゃんは絶対に自分で気がつけると思ってたし」
「買いかぶり過ぎすぎだよ」
「そんなことないよ、僕はわかるんだ。君の夫だからね」
そう言われて改めて彼が自分の中で大きな存在になりつつあるのを実感してきた。
「よーし! 絵はここで描くことにする! あ、でも、やっぱり私の地元のことも改めて紹介させて?」
「いいの?」
「うん、色んなところを回って時間が出来たらでいいから、そのうち。あ、でも出来たら八月がいいかな?」
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「昴くんは知ってる? 幽霊はお盆に帰ってくるんだよ?」
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