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承章
承章 第一部 第三節
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見たはずもない鳥の夢を、そうあるべくして君に見る。
(とでも言ったら、どう反応するのだろう)
壁際でゼラは不意の出来心を弄びながら、部屋の中央に立っているその姿態を見詰めていた。
ザーニーイ。汗の浮いた美貌に、熱の抑えられた意志が映える。碧眼に燈った光は刃ほどには鋭くなく、どちらかといえば砕いた獣の骨の欠片が見せる反射光のように鈍やかだった。そして、更に言うならそれは、己が屠った獣が陽光の元でひけらかすことになる遺骨の輝きであることを知っている、猛禽の眼光だと思えた。唇をこするように吐息して、武器を持つ片腕を前方に構えをとる。皮膚の下に詰まった筋肉が裸のわき腹に膨れ、古い刀傷が散る体表に新たなアクセントを打った。四肢が締まる。狩猟を間近に引き絞られゆく翼のように―――静けさと緩慢さを両立し、固定される。
手にするのは戦斧。通常の斧よりも鋭利さを強調された造形美は、その鋭さが重量面の弱点を補完して余りあることを顕示するように、しなやかなだけでない陰影を刻む。それぞれタイプの違う二重のナックルガードは防御のみならず、扱い方によっては、攻撃のバリエーションを相乗させることができた。刃の先端についた棘は、それだけを見れば敵を引っ掛ける無粋な細工ではなく、伝説に聞く鳥の嘴を夢想させる見事なラインを描いているが、それが敵の血肉を仮想した修練において繰り出されるとなれば、印象も多少変わる。
最初は指の撓りを確認する程度の仕草であったはずなのに、こちらがまばたきを重ねるごとに、手首のうねり、腕の振り、体幹の捻りへと波及していく。一分とかからず軌跡の全てを攻撃の型に置き換え、ザーニーイはもう一段階加速した。刃鋩に切り裂かれた冷気の切片を、甲走るリズムがことごとく射落とし、手繰られる鋼に反射した灯明は薄闇を吹雪いた。切っ先は次々に不可視の急所へと到達し、その都度、武器で穿つ精度もつり上げられていく。そして。
脚線が戦斧ごと前方へ踏み込んで、大きく間合いを侵略すること、しばし。最後に敵に斬り返す角度も精妙に決めて、ザーニーイの一連は、今朝幾度目かであろう終局を迎えた。
そうなると、室内は再び無音を取り戻す。ここは最上階、頭領の執務室から隣に繋がる書庫の、もうひとつ横にある空き部屋である。広さや位置等から見ると、中規模の集会を行うにはうってつけの場所といえたが、そのためには著しく利便性に欠けた―――ここには、廊下に面した出入り口は無い。隣接するいくつかの部屋とだけ、扉で繋がっているのである。窓も無く、今は通気口から差し込む脆弱な朝日を補完するための燭光が三つ、地味に空気を焼いている始末だった。とはいえ、いわゆる隠し部屋とも趣が違う……人目を忍ぶというより、せいぜい、人目を隔てるといったところか。恐らくは、かつての家主が妄想の争闘に思いを馳せ、ひとりきりで英雄を堪能した秘密基地だったのだろう。空事へ向けて、役立たずの宣言と剣技を突きつけていたに違いない。そして現在、過去におけるそんな充足の記憶を劣等するかのように、ザーニーイの妙技が閃いている。
当の本人はというと、手斧を腰の武器帯に戻してからは、上半身で気楽な伸びを繰り返していた。下半身はというと、壁に備え付けの灯火台までさっさと歩み寄っている。等間隔を置いて計十六個設置されているそれらのうち、火の無いひとつに引っ掛けていた手ぬぐいを取り上げ、汗まみれの顔を乱雑にこすりつけては金髪を煩わしげにどけていた。ひと段落つけたということなのだろう。息差しからは鬼気が消えている。
そのひと段落というのが元からの予定に則っての休憩なのか、自分がこうして前触れなく訪問したことによる頓挫なのかは、見当がつかなかった―――相手は今になってやっとこちらをまともに見やってきたが、今までのそれとて意図的な無視ではないし、かといって、こちらに全く気付いていなかったというのとも違う。いうなれば、ようやく目をくれるつもりになったというだけのことだ。よってザーニーイは特に不機嫌でもなく、相変わらずの端研にこちらへの疑問符を載せて、漠然とした声を上げてくる。
「ん?」
どうかしたか、とでも訳せば適当か。
ゼラは言葉に迷ったが、結局のところ、迷うほどレパートリーも無いことが分かっただけだった。仕方なく、口にする。
「服」
ザーニーイがきょとんとしてみせたのは、一瞬だけだった……してみせたとの印象を受けたのは、つまり、その反応がこちらへの建前だからに違いない。すなわち、外套は無論のこと、上着どころか肌着さえ脱ぎ散らかしている当人が、ゼラのひと言が示唆した意味に気付かないはずも無いということだが。
うなじから前へ掛けた手ぬぐいが、相手の右の首筋に一閃したケロイド痕を隠している。
それがこちらにとって、都合が良いのか悪いのか……見えない分、視線を誘導されるような心地がある。ゼラはとりあえずどちらの判断も拒絶して、閉じた目の間を二本指で揉みしだいた。それを見ても、ザーニーイは、形のいい眉をひょいと上げただけである。いつもと真逆の露出具合でありながら、それでも冷気が足りずに手ぬぐいをばたつかせて、あご下に風を送っていた。
「口酸っぱく言っているでしょう。そういうのはいけません。暑さ寒さの赴くまま動物が冬毛を抜くように格好を選んでいると、印象までも人間未満に貶ることになると」
ザーニーイは、流れる小言をどうということなく聞いている。
ついで、短く呟いた。
「あとで」
「駄目です」
「駄目か」
「はい」
「じゃ、あとのあとで」
「唐変木な譲歩したって駄目なものは駄目。ほら。ちゃんと着なさい」
半眼で叱りつけながら、ゼラはそばの灯火台にぶら下げられていたシャツを、相手の手元とはやや見当外れな方向へ投げつけた。二人の間の距離は、三メートルと無い……下手から、甘く放ってくれるものと思っていたのだろう。ザーニーイはこちらに合わせている両目を、驚きに瞬きつつ―――つまり視線をこちらから外しもせずに、全く危なげない手つきで、シャツを中空で掴み取ってみせた。どこかげんなりとそれをつまんで、こちらへと示してくる。
「大人の嗜みか?」
「子どもの躾けです」
「それ外見だけなら、特に今のあんたに施されてこそしっくりくる言葉だよな?」
「………………」
ザーニーイの着衣について口論が続くと思い込んでいたため、ゼラは口ごもった。もしや相手の狙いはそれだったのではないかと思いつきはしたものの、だからといってあながち的外れな軽口とも言えず、結局は注意を自分の装束へと向ける。普段の格好に遠出用の装備を纏って、頭髪をターバンに収めただけなのだが、……いかんせん体格の都合から、小児用の古着を使うこととなったのが決定打だった。着膨れたその様子は童顔と相成り、子どもが服に着られていると表現されたところで、声高に否定できる材料もありはしない。
着替えた時に覚えた微妙な不機嫌をぶり返し、ゼラは熱を沈みこませたため息をついた。対するザーニーイといえば、身の内から湧く熱気が呼吸どころか発汗にすら収まりきっていないようで、やはりシャツを片手に遊ばせたまま、湿り気の絶えない頬肉をからかいに染めている。
「どうしたんだ? 久しぶりに見たぜ、そんな出で立ち。ご自慢の御髪まで俺のお古にしまっちまって。随分と愛くるしいじゃねえか」
「黙らっしゃい。ろくに手入れも出来ないでしょうから、これで済ませるしかないんです」
「手入れも出来ない?」
聞き返され、ゼラはさほど頭が傾がない程度に頷いた。
「ついさっき、<風青烏>の初回報告書が届きました」
「あん? 報告って……昨日の今日で、いやに早くねぇか?」
「いえ。昨日の旗無しについてのものではありません―――【血肉の約定】についての方です」
途端、ザーニーイの表情が、知的な鎮静を強める。それを見届けてから、ゼラは再開した。
「詳細については、書面で確認してください。君自身や<彼に凝立する聖杯>が、すぐに動かなければならないような内容ではありませんでした。しかし、靴箱にまつわる記述で少し気がかりなところがありましたので、行って確認してきたいと思います。届けはもう書きました。短期不在をお許しください」
「靴箱? 王靴村まで出向くのか? あんた自ら?」
「ええ。急ですが」
一般に、国民の居住地は王の着衣や装飾に例えられ、末梢になるほど辺境となっていく。つまり王冠、王冠城デューバンザンガイツ。続いて襟首―――首都たる王襟街。それより外れて裾、いわゆる王裾街……さらに幾らかの呼称が並び、最後に行き着くのが、王靴村とカテゴライズされる村落である。『村』と括られていても、王靴村とはひとつのそれについた呼称ではなく、方々に点在する全ての村の通称だった。要は、靴とは、幾らでもある―――とどのつまり、上等から下等まで幾らでもあるという暗示のとおり、あばら家ばかりの寒村から、街や都と称しても差し支えない規模のものまで存在する。もっとも法に照らしてみれば、街壁の設置と維持が数年にわたり証明されないものはどこまでいっても『街』ではないし、それが証されたとて、交逸警察を超える自治と自警が浸透した社会もまた『都』ではないが。
どうであれそこも、悔踏区域外輪とは一線隔たる界隈であることに変わりなかった。特に旗司誓は、市街を『箱庭』と呼ぶように、群村のことも『靴箱』とまとめる。それこそが、最も端的な距離感の表れかもしれない。
黙考を視認するかのように、ザーニーイの注視が天井のきわ辺りに浮いていた。それを補うでもなかったが、相手の眼差しの先を追いながら、ゼラはせりふを繋いだ。
「早い時間でしたが、ちょっと無理して後継第二階梯に起きてもらって、ターバンを直させていただきました。髪の始末がわたしより上手くできる人は<彼に凝立する聖杯>にはいませんから、翼の頭衣の保護を考えた場合、それしかありませんでしたので。わたしが戻るまで、そのままでいるように言い含めてあります」
「助かる。あんたの部隊は?」
「問題ありません。元々【血肉の約定】にあてられるであろう期間中は、わたしに余裕が回るよう予定を組んであります」
「オーケイ。だったら、いつもどおりにして出かけてくれ。どのへんの靴箱だ?」
普段通りの即断で承諾し、促してくる。書類にした内容ではあったが、ゼラはそれの節々を読み上げた。
「ジェッツェの先です。報告書を届けにきた<風青烏>のひとりが、その足で件の王靴村まで案内してくれることになりました」
「ジェッツェ?」
相手は、その言葉に思考どころか身体さえ引っかかったかのように、はたと動きを無くした。ようやくもたもたとシャツに通しかけていた上体が、脱皮しかけたさなぎのような不自然な格好のままで固まる。とはいえ、あっという間に合点がいったのか、言葉であれ動作であれ、あっさりと再開されたのだが―――
「ああ、そこだったら丁度いいじゃねぇか。最近働きづめだったんだし、余裕があるなら、息抜きでもしてきたらどうだ?」
「息抜き?」
聞き捨てならず、思わず反応してしまう。出張先での休養に許可が下りたという好運に対してではない。
ゼラの様子を見ても、相手の態度は、ひとつたりと変化しなかった。どころか、先ほどよりも軽妙さを宿しながら、続いていく。
「絶好の場所じゃねぇか、あの田舎。まあ、あの村長にまとわりつかれちゃ、ろくろく休むこともできねぇだろうけどよ」
そして、ゼラの急所に触れた。
「とうさんも辟易するくれぇだしな」
痛みを感じる。後頭に?
喉の根元だ。とっさに意識で探って、起因を見つける。それは呼気の最中に息を呑んだ不自然のせいで生まれたものだったが、それが胸の奥まったところまで痛んでいるように思わせてくるのは、著しく不快だった。この危機から逃げ出す手口はあるか?
(逃げる?)
背髄を掻いた思考に衝動を思い知らされ、愕然とする。思った以上に動揺しているらしい。とうさん。とうさん。とうさん。咀嚼してしまえば、どうという事のない単語ではないか? ……
刻一刻と、激しい明暗を空間に刻むべく強まりゆく朝日と、それよりどれだけか穏やかな燭影が混和して、部屋の暗がりを溶け出させている。その不気味な混色が、なにやら具体味を帯びたような不安が神経をかすめたものの、現実に対処できることは限られていた。先を見失っていた、相手との会話をもち直す程度しか。
「いえ、あの……」
不意打ちを受けた臓器は、腹立たしいほどに脆い。どうにかしてゼラは、舌の根に巻きついていた言葉を吐き出した。
「シザジアフ、が?」
ザーニーイが立っている。今はもう直視しているわけでなくとも、多分さっきからそのままだろうと思う。
どうということもなく、首肯してみせるのも分かった。
「ああ。へとへとになってた。ジェッツェの先の村のあのじっさんに、始終ぐだぐだ付きまとわれちまってよ……あー、なんつー名前だっけ? 確か、フェ……ヘ、だったっけか?」
(まさか)
思いついた可能性は、真っ先に理性が否定した。しかし確証があるわけでもなく、結局―――否定の確証を得んがために―――その推論を口に出す。
「もしかして、フェカナイア―――?」
「あ! それだそれ! フェッカのじっさん!」
疑問が解消した快感を示すように、ザーニーイが指を鳴らしてみせた。その親指と中指の先から、いやに軽薄な音が破裂する。濁る闇の暗紫を震わせるように。
声さえ出れば応答はできる。そう言い聞かせれば、どれだけの動揺でも先送りにすることは出来た。そして記憶のなかから、状況に相応しい相槌を掘り返す。
「……君がかどわかされかけたとかで、あの人いつぞや、ひどく怒っていましたっけ」
「人聞き悪ぃなー。単にありゃ、あそこの末の妹がやたら俺に懐きやがって、ついには嫁になるだの舌っ足らずに言い出したもんだから、じっさんが悪ノリしただけだっつの。寝小便も取れてなさそうなくせして、どこで耳だけ年増にしたんだか」
その悪ノリとやらを思い出したのか、せりふの合間に苦笑が混ざる。そしてザーニーイは、ばたつかせていたシャツの胸元を手放してから、肩をすくめた。
「娘はくれてやるから村の義賊料を値引きしろだの、だったら交換でシゾーをくれてやるだの、いやうちの奴が惚れたのはあくまでお前の息子だから、だったらシゾーを適当にあんたの村の入り婿に寄越してやるからフィフティフィフティだ―――なんかこんな感じで、段々とんでもない話になっちまってさ」
「……あの馬鹿、よその子を人身御供にしようとしたんですか?」
「初耳だろ? だからさ、じっさんに会ってこいって。おちゃらけ話であれ縁談話であれ、ヒートアップを超えてデッドヒートにもつれ込んじまったら最後、どう転んでも末路は笑い話にしかなりゃしねぇんだってのがよく分かっから」
言いながら、笑っている。のだろう。見ていないので察しただけだが、これとて否定する由もない。
予感に、ゼラは直立を正した。思ったとおり、ザーニーイもこちらへと向き直ってくる。相手は背を伸ばすその一拍に、旗司誓の頭領が部下を送り出すのに充分な精励を取り戻していた。なお面貌を際立たせる乱れない仕草で敬礼を終えて、常套句を口にする。
「じゃあ、気をつけて。背に二十重ある祝福を」
「―――はい」
そうなっては受けるより他なく、遅ればせながらゼラは、四肢を<彼に凝立する聖杯>定型の敬礼動作に整えた。
「背に二十重ある祝福を」
そしてこれもまた選択の余地無く、それを口にし終えて。
ゼラは、部屋を発った。相手と自分を別つべく、扉を閉め―――
息をつく。我知らず力んで、呼吸を溜めていたらしい。
このまま任務に向かうべきだと、分かってはいた―――が、それでも歩き出さずに、そのまま戸口のわきに立ち尽くす。ゼラは、意識して肺を膨らませた。不慣れな厚着に押し込まれた胸が、目立たない呼吸を繰り返す。
その場から、周囲を見渡す。自分が立っているのは、来る時も通った通路だった……正しくは通路ではなく、自室から頭領の生活テリトリーへ近道する通路としてほとんど活用している物置だが。物置と称したのは、水油さえ足せばまた使える塗料といったような鶏肋がごちゃごちゃ置いてあるからであって、壁伝いにひしめく全ての棚と床の大部分を埋めているのは紙束であるから、記録保管庫といった方が実態に近いか。仕事の明細やら書簡やら、ほとんどは古びて角から綻びかけているというのに、空気に漂うインクのにおいはひどく真新しい。原因は明らかだった。自分の正面にあるもうひとつのドアのそば―――これを抜ければ、自分の執務室だ―――に、日焼けのかけらもない書類が山積している。ここ数年で驚異的な拡大を遂げた<彼に凝立する聖杯>は、それに伴い、こなす仕事量も過去のそれをあっけなく凌駕した。そもそも仕事を記録して残し始めたのは奇天烈と評判だった先々代頭領の時代からなので、古い書類といってもたかが知れている。臭気が新勢力に淘汰されたところで疑問はない。
目を細める。遮光板がはめられた窓から差し込む光は弱かったし、それが乱反射してなお不恰好に見える品々が直視に堪えないというわけでもなかった。それでも身体の震えを見定めるには、まつげの影を確認するのが手っ取り早いのも事実だった。その痙攣が生理的な域にあることを念に入れて、ゼラは今度こそ瞼を閉じた。
そして、確認を始める。
(自分が同行したのは、二度。それを含め、通算、過去に五回―――)
およそ、三年。
ザーニーイが<彼に凝立する聖杯>頭領に就任してからのこの間、あの村を訪れた頻度は、他の王靴村に比べ並外れて多い。
これは、おおよそ二年前にフェカナイア氏が自殺未遂によって唐突に村長職を辞したことによって、それに係る義賊との関係がこじれ、義賊の上役にあたる<彼に凝立する聖杯>までも乗り出さねば事態の収拾が見込めなくなったことによる。
当然ながら、その後の村長の死亡も、金策のため不幸な身の振りを強いられたフェカナイアの四姉妹の顛末も、ザーニーイが知らぬはずが無い。
(だというのに、その末娘と結婚騒動がもちあがったのか? 先代頭領も巻き込んで?)
不可能である。十年くらい前ならばまだしも―――
(え?)
不意の合点に、ゼラは息を詰めた。悪寒の伴う納得に、知らず知らず腕をさする。
(そうか。十年は前なのか。そのイベントが起こったのは)
立て続けの得心が、都度都度、奇妙に肌をあわ立てる。息苦しさに、口の中で吐き損ねていた吐息が震えた。
(十年前。シザジアフは、<彼に凝立する聖杯>の中堅だった。シゾーのことを喋っていて、なおかつ、軽口の相手がフェカナイア村長だったところで、おかしくもなんともない。旗司誓の出世頭の息子として、あの子が目をつけられたのも頷ける)
そうだ。おかしいのはそこではない。
歯噛みして、ゼラは認めた。
(おかしいのは、あの子だ。あの語り口。とっくの昔の出来事なのに、あたかも今日あったことのように話して―――もう昔とは、全部変わってしまったのに)
現在。
フェカナイアは死んだ。他にも死んだ。四人の姉妹は紙一枚あまりの文字に納められ、必要なときに記録から取り出せるくらい便利になった。自分はどうだろうか。ザーニーイは?
自然と、その顔を思い出す。痛んでなお柔らかい金髪。痩せた輪郭。その中で、ひたすらよく動く目玉。手足。背丈。そのどれもが、ひどく小さい。これから大きくなるべく、今は小さい。そんな気がした。その子どもは。
(なんだ)
脳裏に浮かんだ姿の幼さに、ゼラはそれ以外の言葉を失った。
(君は今も、そこにいたんですね)
その子だから、そこにいた。
無駄づかいしても尽きない時間の中で過ごしていた、とうさんさえいたくらい古びたあそこにいた。
(ああそうか。ええ。だからなにか?)
猛烈な反駁は、激しく心を駆り立てた。事実、動悸さえもよおしながら、額を右手の甲で押さえつける。その程度では、こびりついた頭痛は一秒さえどいてくれやしなかったが。
(頭領だって、寝起きが悪くて、すっとぼける日くらいある。そうでしょう?)
ついさっき苦渋の思いで振り返らざるをえなかった自分の服装に、今は違う苦渋ですがりつく。十年前。自分が<彼に凝立する聖杯>で何の役職も引き受けていなかった頃。懐具合や体格はもとより、成人用だろうが子供用だろうが異国の服などどれも同じように見えていたから、実年齢にそぐう格好などしたこともない。髪もそうだ。短く切っていた。大抵失敗したため、ターバンに押し込めていた。見てみろ。寝坊助を勘違いさせるファクターは、こんなにも揃っているではないか?
(なぜ、この場にいない―――貴様はいるべきだ。シゾー・イェスカザ!)
罵りは、細いが鋭かった。
細い分だけ、用意に折れた。
(だって、そうだろう? 誰かに向かって声にして言えていたなら、こんな下らない弁解でも、自分ごと丸め込めたはずなんだ)
予兆に、胸の間を押さえる。
それは違わず、やはりそこの奥が疼く。
疼くのがそこだけでよかった。眼球の奥までそうなったら、手の打ちようがないところだった―――眼窩の底まで突き込んで、涙を抉るすべなど誰にも無い。
誰にも? 否。
(わたしには、無い)
ゼラは、己の五指を否定した。
(三年前だって駄目だった。三年より前だって駄目だった。いつだって、わたしの手は誰だって掴めない)
空手を握る。やはり空だったが、それでも自分の体温が指先から沁みた。
□ ■ □ ■ □ ■ □
物思いは、時間を縮める役には立った。
あるいは、浪費に終わった時間を意識せずにいられる手段にはなった。同じようなものだろうが、無言で後者へと訂正し、歩速を上げる。
外へ出た―――と同時にゼラは、唐突に目の前ではじけた明るさに目をしばたいた。実際は、ほとんど窓が無い階をくぐって外に出ただけのことなのだが、光量の変化に、眼球がやんわりと握りこまれたような痛みを覚える。雹砂まじりの地面が暁闇からわずかばかりの朝焼けを溜め込んで、ざわついた湖面のように光っていた。
目が慣れれば、錯覚は過ぎ去った。眼前を眺めやって、再び歩調を取り戻す。
悔踏区域の空気はいついかなる時であれ偏執的なまでの潔癖さを変えはしないが、それでも、やはり外へ踏み出せば格が違った―――それともこれは、視覚から影響されての思い違いか。どれだけ風が吹きすさんだところで、爪の先ほども掃き払われやしない、茫漠の純白色。四方の風景さえ薄めるような生気の無い渺茫に身震いし、ゼラは立てた襟を首の根元に引き寄せた。そうやって、寒さと寂寞の浸透を、わずかながらに遅らせる。
とはいえ、間近の四方に限って言えば、そういった虚無感こそむしろ薄弱だった。<彼に凝立する聖杯>の前庭は、早朝であろうとなかろうと、常にある程度の活気と喧騒を絶やさない。任務をこなすために、あるいは任務と全く無関係の私用を済ませるためであれ、誰かしらがそこを掠めては過ぎていく。ゼラもまたそのひとりとなりながら、足早に前庭を縦断していった。こちらに気がついた男たちから折り目正しく向けられてくる無言の敬礼に、こちらもまた同種の仕草で応えつつ、正門へと向かう。正しくは、正門のそばにある第二獣舎のわきに待機している若者の元へと。
ゼラは迷うことなく、つま先をそちらへ進めた。もとより、相手のすぐ隣で嘶く二頭の馬の伊達障泥に施された見事な意匠が、誰にも迷う隙など与えやしない。悔踏区域外輪において派手派手しく旗幟を闡明にするのは、どんなに頭が哀れな賊でさえ間違って獲物に定めたりしないようにという、旗司誓流の恩情だった……馬体から外され柵にかけられた伊達障泥は、巨大な刺繍という意味では芸術作品だったし、その細緻な縫い込みは酔い戯れに爪楊枝を刺したところでびくともしなかろうという見立てからすれば防具でもあったのだろうが、それでも正体を総括するならば旗幟に違いない。刀剣にも羽根にもみえる三日月形の青花弁を連ね、その間隙から太陽を模した花芯を覗かせる、大輪の華―――他者より称すなら、以煽開舞の華蕾と言い表される、この紋章。<彼に凝立する聖杯>が筆頭義賊、<風青烏>の証である。
(義賊。義賊か)
何とはなしに、ゼラは思い並べた。
悔踏区域外輪から主都へ向かうにつれて、人々の旗司誓に対する価値観は、おしなべて劣化する。
かつてより旗司誓はその事態そのものには拘泥しなかったが、それによって仕事が差しさわることについては真逆だった。もとはといえば旗司誓は前政権の残存勢力にまつわる探偵業務にこそ醍醐味があったのだから、それも当然だろう。同族外との友好的な社交によってしか手に入れられないものは有形・無形を問わずいくらでもあったし、その事実によって煮え湯を飲まされたのも―――あるいはただの水が煮え湯に激変したことでさえ――― 一度や二度ではないのだから。
いつしか旗司誓は、自分たちと一般人を仲介する役割を特化させたチームを編成し、要所に駐屯させるようになっていく―――のみならず、自分たちとは地盤を異とする旗司誓として、独立独歩の発展と流儀を認めるまでになっていく。これは故障者や妻帯者までも一生涯を旗司誓として搾り取るための非情極まるからくりだと嘆いてみせる吟遊詩人もいるらしいが、なんにせよ、これが義賊の発祥だった……つまり“義賊”という名称は、彼らが真っ当な義賊行為に勤んだからによるものでは、決してない。この齟齬は、彼らが設立した時代背景が、無二革命の後始末に梃子摺っていた渦中只中にあることに原因がある―――要は初期の依頼の大半が、公的手段があてにならない事態の非合理的解決、いわゆる『あの野郎に吠え面をかかせてほしい』という内容に終始したのである。これに旗司誓なりに応じていった結果、“義賊”という通称の方が親しまれるようになってしまったというわけだ。いかんせん、そう呼ばれた当人らでさえ誤認を解くのに執しなかったため、こうして食い違ったまま今日に至っているのだが。
何故、彼らは訂正に熱心ではなかったのか―――今となっては、ゼラには分かりきったことだった。
(旗司誓は旗司誓だ。どう呼ばれたところで。見れば分かる)
こうまで旌旗に囚われている。旗司誓以外の何だというのだ? 義賊<風青烏>、以煽開舞の華蕾……
(『我、煽られるを以って舞うが如く開かん、ゆえに我なり』)
売られた喧嘩以外は買わない―――との実用的な要約を避けたのは、やはりこのリーダーがリーダーだからだろうか。
立ち止まる。ゼラは、目前に立っている青年に対して、挨拶の意で平易な敬礼を向けた。常套句は口にしない―――ついさっき交わしたばかりなのだから、そう何度も格式ばる必要も無かろう。
対する青年もこちらに応えて片手でこめかみをこすってみせはしたが、その所作よりも頭髪の深紅の色彩の方がはるかに目立っていることは、彼自身が最も理解していただろう―――キアズマ・ネモ・ンルジアッハ。百英雄がひとり、ヴィネモルカ……“ゆえにただ千日に生ありきネモ”の直系にあたるネモ族ンルジアッハ家、その正当な血脈を継承する生粋の貴族である。
いまだ栄華の極みにあるネモ・ンルジアッハの閥族に属す身分からすれば、莫大な財産をつまぐりながら贅沢三昧を嗜むのが本来の在り様だろうに、何の因果か今現在、こうして義賊の頭領に職を落ち着けている。当人の外見さえ急な成り行きについていけていないらしく、高襟の長衣を羽織ったキアズマの風体は、いまだに悔踏区域外輪に溶け残る風雅をふわつかせていた。
馬用に区切られた獣舎から、<風青烏>の騎馬が二頭とも鼻面を突き出して湯気を吹いている。悔踏区域の風だけでなく、昨日の戦火の残り香が、ひときわの緊張を生んでいるのかもしれない。その轡を取っていなしている<風青烏>の部下のひとりと挨拶がわりの目配せを挟み、ゼラは改めてキアズマに向き合った。相手は上層の箱庭育ちらしく、軽く拳を作った片腕を臍の辺りに横にして、自然に控えてみせる。そして無言で聳え立つ要塞をちらりと窺い、その一瞥で的確に頭領の居室をなぞってから、一応といった調子で尋ねてきた。
「もう、よろしいので?」
「はい」
快活に答えておく。仕事については、もうよろしいことに変わりない。
「報告書がよかったので、すぐに要点をまとめて、頭領と話をすることができました。君たちの仕事運びは昔とそっくりですので、やりやすくて助かります」
「昔?」
「―――ああ。シザジアフのことです。死人に例えたとは言え、褒め言葉ですよ」
ふとキアズマの表情がくすんだように感じ、ゼラは手振りもつけて失言を断った。そして、苦笑いに澱んだ苦さだけ、相手ではなく内心へと挿し向けた。
(どうにも、今日は……こんな日なのか)
ならば、きっとこれからも、死んだ相棒を思い出さねばならない。
ゼラが陰鬱に腹を決めたことに、キアズマは気付かなかったらしい。ただ彼は、うす彫りの目鼻立ちから拭いきれずにいた微妙な困惑を、こちらと同じように愛想笑いで押し流してみせた。
「ええ。お褒めいただいたことは、重々―――ただ、引き合いに出された相手が相手ゆえ、恐縮してしまいました」
「恐縮? シザジアフ相手に?」
明らかに怪しんだ口ぶりをものともせず、キアズマがゆるぎない表情で、たっぷりと頷く。だけでなく、更にせりふを続けて、えらく念の入った様子で強調すらしてきた。
「かの翁は、急霰の如く悔踏区域外輪に現れ、<彼に凝立する聖杯>に稀代の才にて隆盛を齎し、頭領の地位まで上り詰めた逸材。その才覚は、デュアセラズロやアーギルシャイアにも例えられたと聞き及んでおりますれば」
「はあ」
とりあえず、尻すぼみに呻いておく。こうまで褒めちぎられると安易に水を注すのはちゃちゃ入れのようで憚られたが、安易に彼を是認してしまうのも同じように居心地が悪い。感覚に抗しきれず、ゼラは手探りで口を開いた。
「なんというか……君の口から聞くと、殊更にオーバーですねぇ。煙草の煙を吐くしか能のないいかれぽんちに落ちぶれたシッズァに食らいついてうちに飛び込んでくるくらいですから、君の憧れ度合いは察していたつもりでしたが。あの人、シザジアフでなければ、ただの親馬鹿ですよ」
「シザジアフでなければ?」
「あ。ええ、はい」
きょとんとしたキアズマを見ると、口を滑らせた感は否めなかったが―――とっさにゼラは、顎の下に置いていた指を、下唇へと添え直した。こうすると、はにかんでいるような印象を他者に与えるとは知っているが、思い出し笑いを隠すときにしてしまう悪癖は、どうにも直らない。
「あの人ね、子どもに対して、態度と立場を使い分けていたんですよ。任務外の時間は『とうさん』、任務中は旗司誓の『シザジアフさん』だ―――とね。子連れで転がり込んで、周囲に相当な迷惑をかけたという引け目からでしょう。それなりに我儘をきかせることができる立場になっても、その区別の厳格さだけは変わりませんでした。その反動なのか、『とうさん』の時は、とてつもなく我が子に骨抜きで」
「と、いうと?」
「たとえば……そうですね。あの人、珍しい色の髪をしてたんですよ。青味がかった、薄い鋼色というか―――白髪を青黒くしたような。こう、金髪とか銀髪とか、そういう一般的な呼び名が思い当たらなくて。毛の質なのか、ここに住むようになってからも、ぷつぷつ切れるだけで一向に色が抜けませんで。大層目立ったので、いつもターバンで隠していたんですけれど」
その姿。
そして、同じようにターバンを巻かれ、父親とお揃いになったとはしゃぎ回る彼の息子へと連想が向かうことは、ゼラの脳に静かな痛感を滲ませた。その感覚が何らかの情念だと分かってはいたか、何かに分類してしまうのは避けたかった。名づけるごとに、名づけることができない決定的な部分を失ってしまうような、ひどくあいまいな恐ろしさを素通りすることができない。
ふと、会話を見失っていた。とはいえ、どうにか間に合ったらしい―――大人しく続きを待っているキアズマに微笑み直しながら、ゼラは人差し指で頬のうぶ毛を掻いた。
「でもそんなことをしていれば、いくら小さな子だって、その色合いに興味がわいて当然でしょう? ある日、よりによってわたしに『あの毛って何色なんだ?』なんて尋ねてくるものですから。とっさに、あれの色って言っちゃいまして」
あご下にあった拳を解いて、そこから上へと、まっすぐ指を立てる。
貴族の癖で、つい眼球の動きだけで上方を見上げたキアズマが、そのまま小首を傾げた。オールバックにしている髪は乱れもしなかったが、それがいつまでもつか試すように頭を斜めにしたまま、独りごちる。
「雲?」
「―――が、錆びた色」
「錆びた?」
あまりに意外だったらしい。ぽかんと鸚鵡声を上げる彼に、解きかけていた含羞を後押しされ、ゼラはついに忍び笑いを漏らした。
「どうにも答えられなくて、錆びた雲色の髪、ってたとえてしまったんですよ。そしたらあの子ったら、『さびてるんなら、さびおとしてやる』って、寝入ってる父親の毛を小刀で削ごうとしたんです。だというのにシザジアフは怒りもしないで、あろうことか『錆びは削いだら落とせるなんて小っさいくせによく知ってんなお前ぇ♪』とか言い出す始末で……まあそんな甘々チュッチュ、前髪と眉毛半分なくした流血だらりんこ状態でかまされたところで、コントでしかありませんでしたが」
「……成る程」
「うん。そうですね。義賊<風青烏>。君たちはもしかしたら、シザジアフくらいに優秀というよりも、シザジアフより大人なのかもしれない」
ゼラは相手と入れ替わるようにして、曇り空へ視線を一巡させた。その不変の色合いは、今以上の記憶の想起を誘いかけてきたが、そうするわけにもいかない。また、それに追従するような感傷が存在しているわけもない……ただ、そうやって内面を問わずにいられないことこそが感傷だというのなら、幾つかの何かを改めなければならないだろうが。
「―――だとするならば、誉れの極み」
声が聞こえた。
そしてそれは、幸運と思えた。ゼラはいつものように、キアズマの囁きを茶化すのに相応しい、ひょうきんに上ずらせた声を挟むことができた。
「また大袈裟な。イイ歳したおじさんに太鼓持ちしたりなんかして、あとで後悔しちゃっても知らないんですから」
「大袈裟ではありません」
真面目に切り返して、キアズマが真摯な表情を深めた。
「お二方の活躍は、今昔かかわらずエニイージーから耳にしております。その話題の本人から義賊として評価を受けるなぞ、誉れ以外の何となりましょうや」
「こんじゃく?」
「神不知の崖破りにタファーの仲裁、戒域綱領の素案と下地作りもしたんだ、さすがは頭領を育ててくれた黄金タッグだろ、凄かったんだ―――と」
「そうですか。エニイージーが」
そのように応答したのは、言うなれば、惰性だった。
「……あの子も……」
そして、そのまま言葉を終わらせなかったのは、これもまた惰性だった。
そんな言い逃れを続けてみる。続けるには苦しすぎると、分かってはいたが。
「―――頭領にも、見習って欲しいものです」
「自慢癖を、ですか?」
視界だけでもキアズマの問いかけを回避しようと、ゼラは俯いた。やるせなさに、かぶりを振る。地面には、自分の靴しか見えない。そうして、わずかながら外界から孤立したことを感じ、安堵以上の皮肉にはらわたが捩れていく。
孤立とは、孤立する個が……自分がいるという証明に他ならない。どこに行ったところで、その存在はつきまとう。回避など成功しない。逃避は望めない。
だとしても、どうなるものでもない。ゼラは顔を上げた。
現にそこにいるのはキアズマであり、ザーニーイではない。それが結果なのだから。
だから自白も、それで終わった。
「過ぎた日が残してくれるのは、語るに落ちる思い出だけだということを―――ですよ」
(とでも言ったら、どう反応するのだろう)
壁際でゼラは不意の出来心を弄びながら、部屋の中央に立っているその姿態を見詰めていた。
ザーニーイ。汗の浮いた美貌に、熱の抑えられた意志が映える。碧眼に燈った光は刃ほどには鋭くなく、どちらかといえば砕いた獣の骨の欠片が見せる反射光のように鈍やかだった。そして、更に言うならそれは、己が屠った獣が陽光の元でひけらかすことになる遺骨の輝きであることを知っている、猛禽の眼光だと思えた。唇をこするように吐息して、武器を持つ片腕を前方に構えをとる。皮膚の下に詰まった筋肉が裸のわき腹に膨れ、古い刀傷が散る体表に新たなアクセントを打った。四肢が締まる。狩猟を間近に引き絞られゆく翼のように―――静けさと緩慢さを両立し、固定される。
手にするのは戦斧。通常の斧よりも鋭利さを強調された造形美は、その鋭さが重量面の弱点を補完して余りあることを顕示するように、しなやかなだけでない陰影を刻む。それぞれタイプの違う二重のナックルガードは防御のみならず、扱い方によっては、攻撃のバリエーションを相乗させることができた。刃の先端についた棘は、それだけを見れば敵を引っ掛ける無粋な細工ではなく、伝説に聞く鳥の嘴を夢想させる見事なラインを描いているが、それが敵の血肉を仮想した修練において繰り出されるとなれば、印象も多少変わる。
最初は指の撓りを確認する程度の仕草であったはずなのに、こちらがまばたきを重ねるごとに、手首のうねり、腕の振り、体幹の捻りへと波及していく。一分とかからず軌跡の全てを攻撃の型に置き換え、ザーニーイはもう一段階加速した。刃鋩に切り裂かれた冷気の切片を、甲走るリズムがことごとく射落とし、手繰られる鋼に反射した灯明は薄闇を吹雪いた。切っ先は次々に不可視の急所へと到達し、その都度、武器で穿つ精度もつり上げられていく。そして。
脚線が戦斧ごと前方へ踏み込んで、大きく間合いを侵略すること、しばし。最後に敵に斬り返す角度も精妙に決めて、ザーニーイの一連は、今朝幾度目かであろう終局を迎えた。
そうなると、室内は再び無音を取り戻す。ここは最上階、頭領の執務室から隣に繋がる書庫の、もうひとつ横にある空き部屋である。広さや位置等から見ると、中規模の集会を行うにはうってつけの場所といえたが、そのためには著しく利便性に欠けた―――ここには、廊下に面した出入り口は無い。隣接するいくつかの部屋とだけ、扉で繋がっているのである。窓も無く、今は通気口から差し込む脆弱な朝日を補完するための燭光が三つ、地味に空気を焼いている始末だった。とはいえ、いわゆる隠し部屋とも趣が違う……人目を忍ぶというより、せいぜい、人目を隔てるといったところか。恐らくは、かつての家主が妄想の争闘に思いを馳せ、ひとりきりで英雄を堪能した秘密基地だったのだろう。空事へ向けて、役立たずの宣言と剣技を突きつけていたに違いない。そして現在、過去におけるそんな充足の記憶を劣等するかのように、ザーニーイの妙技が閃いている。
当の本人はというと、手斧を腰の武器帯に戻してからは、上半身で気楽な伸びを繰り返していた。下半身はというと、壁に備え付けの灯火台までさっさと歩み寄っている。等間隔を置いて計十六個設置されているそれらのうち、火の無いひとつに引っ掛けていた手ぬぐいを取り上げ、汗まみれの顔を乱雑にこすりつけては金髪を煩わしげにどけていた。ひと段落つけたということなのだろう。息差しからは鬼気が消えている。
そのひと段落というのが元からの予定に則っての休憩なのか、自分がこうして前触れなく訪問したことによる頓挫なのかは、見当がつかなかった―――相手は今になってやっとこちらをまともに見やってきたが、今までのそれとて意図的な無視ではないし、かといって、こちらに全く気付いていなかったというのとも違う。いうなれば、ようやく目をくれるつもりになったというだけのことだ。よってザーニーイは特に不機嫌でもなく、相変わらずの端研にこちらへの疑問符を載せて、漠然とした声を上げてくる。
「ん?」
どうかしたか、とでも訳せば適当か。
ゼラは言葉に迷ったが、結局のところ、迷うほどレパートリーも無いことが分かっただけだった。仕方なく、口にする。
「服」
ザーニーイがきょとんとしてみせたのは、一瞬だけだった……してみせたとの印象を受けたのは、つまり、その反応がこちらへの建前だからに違いない。すなわち、外套は無論のこと、上着どころか肌着さえ脱ぎ散らかしている当人が、ゼラのひと言が示唆した意味に気付かないはずも無いということだが。
うなじから前へ掛けた手ぬぐいが、相手の右の首筋に一閃したケロイド痕を隠している。
それがこちらにとって、都合が良いのか悪いのか……見えない分、視線を誘導されるような心地がある。ゼラはとりあえずどちらの判断も拒絶して、閉じた目の間を二本指で揉みしだいた。それを見ても、ザーニーイは、形のいい眉をひょいと上げただけである。いつもと真逆の露出具合でありながら、それでも冷気が足りずに手ぬぐいをばたつかせて、あご下に風を送っていた。
「口酸っぱく言っているでしょう。そういうのはいけません。暑さ寒さの赴くまま動物が冬毛を抜くように格好を選んでいると、印象までも人間未満に貶ることになると」
ザーニーイは、流れる小言をどうということなく聞いている。
ついで、短く呟いた。
「あとで」
「駄目です」
「駄目か」
「はい」
「じゃ、あとのあとで」
「唐変木な譲歩したって駄目なものは駄目。ほら。ちゃんと着なさい」
半眼で叱りつけながら、ゼラはそばの灯火台にぶら下げられていたシャツを、相手の手元とはやや見当外れな方向へ投げつけた。二人の間の距離は、三メートルと無い……下手から、甘く放ってくれるものと思っていたのだろう。ザーニーイはこちらに合わせている両目を、驚きに瞬きつつ―――つまり視線をこちらから外しもせずに、全く危なげない手つきで、シャツを中空で掴み取ってみせた。どこかげんなりとそれをつまんで、こちらへと示してくる。
「大人の嗜みか?」
「子どもの躾けです」
「それ外見だけなら、特に今のあんたに施されてこそしっくりくる言葉だよな?」
「………………」
ザーニーイの着衣について口論が続くと思い込んでいたため、ゼラは口ごもった。もしや相手の狙いはそれだったのではないかと思いつきはしたものの、だからといってあながち的外れな軽口とも言えず、結局は注意を自分の装束へと向ける。普段の格好に遠出用の装備を纏って、頭髪をターバンに収めただけなのだが、……いかんせん体格の都合から、小児用の古着を使うこととなったのが決定打だった。着膨れたその様子は童顔と相成り、子どもが服に着られていると表現されたところで、声高に否定できる材料もありはしない。
着替えた時に覚えた微妙な不機嫌をぶり返し、ゼラは熱を沈みこませたため息をついた。対するザーニーイといえば、身の内から湧く熱気が呼吸どころか発汗にすら収まりきっていないようで、やはりシャツを片手に遊ばせたまま、湿り気の絶えない頬肉をからかいに染めている。
「どうしたんだ? 久しぶりに見たぜ、そんな出で立ち。ご自慢の御髪まで俺のお古にしまっちまって。随分と愛くるしいじゃねえか」
「黙らっしゃい。ろくに手入れも出来ないでしょうから、これで済ませるしかないんです」
「手入れも出来ない?」
聞き返され、ゼラはさほど頭が傾がない程度に頷いた。
「ついさっき、<風青烏>の初回報告書が届きました」
「あん? 報告って……昨日の今日で、いやに早くねぇか?」
「いえ。昨日の旗無しについてのものではありません―――【血肉の約定】についての方です」
途端、ザーニーイの表情が、知的な鎮静を強める。それを見届けてから、ゼラは再開した。
「詳細については、書面で確認してください。君自身や<彼に凝立する聖杯>が、すぐに動かなければならないような内容ではありませんでした。しかし、靴箱にまつわる記述で少し気がかりなところがありましたので、行って確認してきたいと思います。届けはもう書きました。短期不在をお許しください」
「靴箱? 王靴村まで出向くのか? あんた自ら?」
「ええ。急ですが」
一般に、国民の居住地は王の着衣や装飾に例えられ、末梢になるほど辺境となっていく。つまり王冠、王冠城デューバンザンガイツ。続いて襟首―――首都たる王襟街。それより外れて裾、いわゆる王裾街……さらに幾らかの呼称が並び、最後に行き着くのが、王靴村とカテゴライズされる村落である。『村』と括られていても、王靴村とはひとつのそれについた呼称ではなく、方々に点在する全ての村の通称だった。要は、靴とは、幾らでもある―――とどのつまり、上等から下等まで幾らでもあるという暗示のとおり、あばら家ばかりの寒村から、街や都と称しても差し支えない規模のものまで存在する。もっとも法に照らしてみれば、街壁の設置と維持が数年にわたり証明されないものはどこまでいっても『街』ではないし、それが証されたとて、交逸警察を超える自治と自警が浸透した社会もまた『都』ではないが。
どうであれそこも、悔踏区域外輪とは一線隔たる界隈であることに変わりなかった。特に旗司誓は、市街を『箱庭』と呼ぶように、群村のことも『靴箱』とまとめる。それこそが、最も端的な距離感の表れかもしれない。
黙考を視認するかのように、ザーニーイの注視が天井のきわ辺りに浮いていた。それを補うでもなかったが、相手の眼差しの先を追いながら、ゼラはせりふを繋いだ。
「早い時間でしたが、ちょっと無理して後継第二階梯に起きてもらって、ターバンを直させていただきました。髪の始末がわたしより上手くできる人は<彼に凝立する聖杯>にはいませんから、翼の頭衣の保護を考えた場合、それしかありませんでしたので。わたしが戻るまで、そのままでいるように言い含めてあります」
「助かる。あんたの部隊は?」
「問題ありません。元々【血肉の約定】にあてられるであろう期間中は、わたしに余裕が回るよう予定を組んであります」
「オーケイ。だったら、いつもどおりにして出かけてくれ。どのへんの靴箱だ?」
普段通りの即断で承諾し、促してくる。書類にした内容ではあったが、ゼラはそれの節々を読み上げた。
「ジェッツェの先です。報告書を届けにきた<風青烏>のひとりが、その足で件の王靴村まで案内してくれることになりました」
「ジェッツェ?」
相手は、その言葉に思考どころか身体さえ引っかかったかのように、はたと動きを無くした。ようやくもたもたとシャツに通しかけていた上体が、脱皮しかけたさなぎのような不自然な格好のままで固まる。とはいえ、あっという間に合点がいったのか、言葉であれ動作であれ、あっさりと再開されたのだが―――
「ああ、そこだったら丁度いいじゃねぇか。最近働きづめだったんだし、余裕があるなら、息抜きでもしてきたらどうだ?」
「息抜き?」
聞き捨てならず、思わず反応してしまう。出張先での休養に許可が下りたという好運に対してではない。
ゼラの様子を見ても、相手の態度は、ひとつたりと変化しなかった。どころか、先ほどよりも軽妙さを宿しながら、続いていく。
「絶好の場所じゃねぇか、あの田舎。まあ、あの村長にまとわりつかれちゃ、ろくろく休むこともできねぇだろうけどよ」
そして、ゼラの急所に触れた。
「とうさんも辟易するくれぇだしな」
痛みを感じる。後頭に?
喉の根元だ。とっさに意識で探って、起因を見つける。それは呼気の最中に息を呑んだ不自然のせいで生まれたものだったが、それが胸の奥まったところまで痛んでいるように思わせてくるのは、著しく不快だった。この危機から逃げ出す手口はあるか?
(逃げる?)
背髄を掻いた思考に衝動を思い知らされ、愕然とする。思った以上に動揺しているらしい。とうさん。とうさん。とうさん。咀嚼してしまえば、どうという事のない単語ではないか? ……
刻一刻と、激しい明暗を空間に刻むべく強まりゆく朝日と、それよりどれだけか穏やかな燭影が混和して、部屋の暗がりを溶け出させている。その不気味な混色が、なにやら具体味を帯びたような不安が神経をかすめたものの、現実に対処できることは限られていた。先を見失っていた、相手との会話をもち直す程度しか。
「いえ、あの……」
不意打ちを受けた臓器は、腹立たしいほどに脆い。どうにかしてゼラは、舌の根に巻きついていた言葉を吐き出した。
「シザジアフ、が?」
ザーニーイが立っている。今はもう直視しているわけでなくとも、多分さっきからそのままだろうと思う。
どうということもなく、首肯してみせるのも分かった。
「ああ。へとへとになってた。ジェッツェの先の村のあのじっさんに、始終ぐだぐだ付きまとわれちまってよ……あー、なんつー名前だっけ? 確か、フェ……ヘ、だったっけか?」
(まさか)
思いついた可能性は、真っ先に理性が否定した。しかし確証があるわけでもなく、結局―――否定の確証を得んがために―――その推論を口に出す。
「もしかして、フェカナイア―――?」
「あ! それだそれ! フェッカのじっさん!」
疑問が解消した快感を示すように、ザーニーイが指を鳴らしてみせた。その親指と中指の先から、いやに軽薄な音が破裂する。濁る闇の暗紫を震わせるように。
声さえ出れば応答はできる。そう言い聞かせれば、どれだけの動揺でも先送りにすることは出来た。そして記憶のなかから、状況に相応しい相槌を掘り返す。
「……君がかどわかされかけたとかで、あの人いつぞや、ひどく怒っていましたっけ」
「人聞き悪ぃなー。単にありゃ、あそこの末の妹がやたら俺に懐きやがって、ついには嫁になるだの舌っ足らずに言い出したもんだから、じっさんが悪ノリしただけだっつの。寝小便も取れてなさそうなくせして、どこで耳だけ年増にしたんだか」
その悪ノリとやらを思い出したのか、せりふの合間に苦笑が混ざる。そしてザーニーイは、ばたつかせていたシャツの胸元を手放してから、肩をすくめた。
「娘はくれてやるから村の義賊料を値引きしろだの、だったら交換でシゾーをくれてやるだの、いやうちの奴が惚れたのはあくまでお前の息子だから、だったらシゾーを適当にあんたの村の入り婿に寄越してやるからフィフティフィフティだ―――なんかこんな感じで、段々とんでもない話になっちまってさ」
「……あの馬鹿、よその子を人身御供にしようとしたんですか?」
「初耳だろ? だからさ、じっさんに会ってこいって。おちゃらけ話であれ縁談話であれ、ヒートアップを超えてデッドヒートにもつれ込んじまったら最後、どう転んでも末路は笑い話にしかなりゃしねぇんだってのがよく分かっから」
言いながら、笑っている。のだろう。見ていないので察しただけだが、これとて否定する由もない。
予感に、ゼラは直立を正した。思ったとおり、ザーニーイもこちらへと向き直ってくる。相手は背を伸ばすその一拍に、旗司誓の頭領が部下を送り出すのに充分な精励を取り戻していた。なお面貌を際立たせる乱れない仕草で敬礼を終えて、常套句を口にする。
「じゃあ、気をつけて。背に二十重ある祝福を」
「―――はい」
そうなっては受けるより他なく、遅ればせながらゼラは、四肢を<彼に凝立する聖杯>定型の敬礼動作に整えた。
「背に二十重ある祝福を」
そしてこれもまた選択の余地無く、それを口にし終えて。
ゼラは、部屋を発った。相手と自分を別つべく、扉を閉め―――
息をつく。我知らず力んで、呼吸を溜めていたらしい。
このまま任務に向かうべきだと、分かってはいた―――が、それでも歩き出さずに、そのまま戸口のわきに立ち尽くす。ゼラは、意識して肺を膨らませた。不慣れな厚着に押し込まれた胸が、目立たない呼吸を繰り返す。
その場から、周囲を見渡す。自分が立っているのは、来る時も通った通路だった……正しくは通路ではなく、自室から頭領の生活テリトリーへ近道する通路としてほとんど活用している物置だが。物置と称したのは、水油さえ足せばまた使える塗料といったような鶏肋がごちゃごちゃ置いてあるからであって、壁伝いにひしめく全ての棚と床の大部分を埋めているのは紙束であるから、記録保管庫といった方が実態に近いか。仕事の明細やら書簡やら、ほとんどは古びて角から綻びかけているというのに、空気に漂うインクのにおいはひどく真新しい。原因は明らかだった。自分の正面にあるもうひとつのドアのそば―――これを抜ければ、自分の執務室だ―――に、日焼けのかけらもない書類が山積している。ここ数年で驚異的な拡大を遂げた<彼に凝立する聖杯>は、それに伴い、こなす仕事量も過去のそれをあっけなく凌駕した。そもそも仕事を記録して残し始めたのは奇天烈と評判だった先々代頭領の時代からなので、古い書類といってもたかが知れている。臭気が新勢力に淘汰されたところで疑問はない。
目を細める。遮光板がはめられた窓から差し込む光は弱かったし、それが乱反射してなお不恰好に見える品々が直視に堪えないというわけでもなかった。それでも身体の震えを見定めるには、まつげの影を確認するのが手っ取り早いのも事実だった。その痙攣が生理的な域にあることを念に入れて、ゼラは今度こそ瞼を閉じた。
そして、確認を始める。
(自分が同行したのは、二度。それを含め、通算、過去に五回―――)
およそ、三年。
ザーニーイが<彼に凝立する聖杯>頭領に就任してからのこの間、あの村を訪れた頻度は、他の王靴村に比べ並外れて多い。
これは、おおよそ二年前にフェカナイア氏が自殺未遂によって唐突に村長職を辞したことによって、それに係る義賊との関係がこじれ、義賊の上役にあたる<彼に凝立する聖杯>までも乗り出さねば事態の収拾が見込めなくなったことによる。
当然ながら、その後の村長の死亡も、金策のため不幸な身の振りを強いられたフェカナイアの四姉妹の顛末も、ザーニーイが知らぬはずが無い。
(だというのに、その末娘と結婚騒動がもちあがったのか? 先代頭領も巻き込んで?)
不可能である。十年くらい前ならばまだしも―――
(え?)
不意の合点に、ゼラは息を詰めた。悪寒の伴う納得に、知らず知らず腕をさする。
(そうか。十年は前なのか。そのイベントが起こったのは)
立て続けの得心が、都度都度、奇妙に肌をあわ立てる。息苦しさに、口の中で吐き損ねていた吐息が震えた。
(十年前。シザジアフは、<彼に凝立する聖杯>の中堅だった。シゾーのことを喋っていて、なおかつ、軽口の相手がフェカナイア村長だったところで、おかしくもなんともない。旗司誓の出世頭の息子として、あの子が目をつけられたのも頷ける)
そうだ。おかしいのはそこではない。
歯噛みして、ゼラは認めた。
(おかしいのは、あの子だ。あの語り口。とっくの昔の出来事なのに、あたかも今日あったことのように話して―――もう昔とは、全部変わってしまったのに)
現在。
フェカナイアは死んだ。他にも死んだ。四人の姉妹は紙一枚あまりの文字に納められ、必要なときに記録から取り出せるくらい便利になった。自分はどうだろうか。ザーニーイは?
自然と、その顔を思い出す。痛んでなお柔らかい金髪。痩せた輪郭。その中で、ひたすらよく動く目玉。手足。背丈。そのどれもが、ひどく小さい。これから大きくなるべく、今は小さい。そんな気がした。その子どもは。
(なんだ)
脳裏に浮かんだ姿の幼さに、ゼラはそれ以外の言葉を失った。
(君は今も、そこにいたんですね)
その子だから、そこにいた。
無駄づかいしても尽きない時間の中で過ごしていた、とうさんさえいたくらい古びたあそこにいた。
(ああそうか。ええ。だからなにか?)
猛烈な反駁は、激しく心を駆り立てた。事実、動悸さえもよおしながら、額を右手の甲で押さえつける。その程度では、こびりついた頭痛は一秒さえどいてくれやしなかったが。
(頭領だって、寝起きが悪くて、すっとぼける日くらいある。そうでしょう?)
ついさっき苦渋の思いで振り返らざるをえなかった自分の服装に、今は違う苦渋ですがりつく。十年前。自分が<彼に凝立する聖杯>で何の役職も引き受けていなかった頃。懐具合や体格はもとより、成人用だろうが子供用だろうが異国の服などどれも同じように見えていたから、実年齢にそぐう格好などしたこともない。髪もそうだ。短く切っていた。大抵失敗したため、ターバンに押し込めていた。見てみろ。寝坊助を勘違いさせるファクターは、こんなにも揃っているではないか?
(なぜ、この場にいない―――貴様はいるべきだ。シゾー・イェスカザ!)
罵りは、細いが鋭かった。
細い分だけ、用意に折れた。
(だって、そうだろう? 誰かに向かって声にして言えていたなら、こんな下らない弁解でも、自分ごと丸め込めたはずなんだ)
予兆に、胸の間を押さえる。
それは違わず、やはりそこの奥が疼く。
疼くのがそこだけでよかった。眼球の奥までそうなったら、手の打ちようがないところだった―――眼窩の底まで突き込んで、涙を抉るすべなど誰にも無い。
誰にも? 否。
(わたしには、無い)
ゼラは、己の五指を否定した。
(三年前だって駄目だった。三年より前だって駄目だった。いつだって、わたしの手は誰だって掴めない)
空手を握る。やはり空だったが、それでも自分の体温が指先から沁みた。
□ ■ □ ■ □ ■ □
物思いは、時間を縮める役には立った。
あるいは、浪費に終わった時間を意識せずにいられる手段にはなった。同じようなものだろうが、無言で後者へと訂正し、歩速を上げる。
外へ出た―――と同時にゼラは、唐突に目の前ではじけた明るさに目をしばたいた。実際は、ほとんど窓が無い階をくぐって外に出ただけのことなのだが、光量の変化に、眼球がやんわりと握りこまれたような痛みを覚える。雹砂まじりの地面が暁闇からわずかばかりの朝焼けを溜め込んで、ざわついた湖面のように光っていた。
目が慣れれば、錯覚は過ぎ去った。眼前を眺めやって、再び歩調を取り戻す。
悔踏区域の空気はいついかなる時であれ偏執的なまでの潔癖さを変えはしないが、それでも、やはり外へ踏み出せば格が違った―――それともこれは、視覚から影響されての思い違いか。どれだけ風が吹きすさんだところで、爪の先ほども掃き払われやしない、茫漠の純白色。四方の風景さえ薄めるような生気の無い渺茫に身震いし、ゼラは立てた襟を首の根元に引き寄せた。そうやって、寒さと寂寞の浸透を、わずかながらに遅らせる。
とはいえ、間近の四方に限って言えば、そういった虚無感こそむしろ薄弱だった。<彼に凝立する聖杯>の前庭は、早朝であろうとなかろうと、常にある程度の活気と喧騒を絶やさない。任務をこなすために、あるいは任務と全く無関係の私用を済ませるためであれ、誰かしらがそこを掠めては過ぎていく。ゼラもまたそのひとりとなりながら、足早に前庭を縦断していった。こちらに気がついた男たちから折り目正しく向けられてくる無言の敬礼に、こちらもまた同種の仕草で応えつつ、正門へと向かう。正しくは、正門のそばにある第二獣舎のわきに待機している若者の元へと。
ゼラは迷うことなく、つま先をそちらへ進めた。もとより、相手のすぐ隣で嘶く二頭の馬の伊達障泥に施された見事な意匠が、誰にも迷う隙など与えやしない。悔踏区域外輪において派手派手しく旗幟を闡明にするのは、どんなに頭が哀れな賊でさえ間違って獲物に定めたりしないようにという、旗司誓流の恩情だった……馬体から外され柵にかけられた伊達障泥は、巨大な刺繍という意味では芸術作品だったし、その細緻な縫い込みは酔い戯れに爪楊枝を刺したところでびくともしなかろうという見立てからすれば防具でもあったのだろうが、それでも正体を総括するならば旗幟に違いない。刀剣にも羽根にもみえる三日月形の青花弁を連ね、その間隙から太陽を模した花芯を覗かせる、大輪の華―――他者より称すなら、以煽開舞の華蕾と言い表される、この紋章。<彼に凝立する聖杯>が筆頭義賊、<風青烏>の証である。
(義賊。義賊か)
何とはなしに、ゼラは思い並べた。
悔踏区域外輪から主都へ向かうにつれて、人々の旗司誓に対する価値観は、おしなべて劣化する。
かつてより旗司誓はその事態そのものには拘泥しなかったが、それによって仕事が差しさわることについては真逆だった。もとはといえば旗司誓は前政権の残存勢力にまつわる探偵業務にこそ醍醐味があったのだから、それも当然だろう。同族外との友好的な社交によってしか手に入れられないものは有形・無形を問わずいくらでもあったし、その事実によって煮え湯を飲まされたのも―――あるいはただの水が煮え湯に激変したことでさえ――― 一度や二度ではないのだから。
いつしか旗司誓は、自分たちと一般人を仲介する役割を特化させたチームを編成し、要所に駐屯させるようになっていく―――のみならず、自分たちとは地盤を異とする旗司誓として、独立独歩の発展と流儀を認めるまでになっていく。これは故障者や妻帯者までも一生涯を旗司誓として搾り取るための非情極まるからくりだと嘆いてみせる吟遊詩人もいるらしいが、なんにせよ、これが義賊の発祥だった……つまり“義賊”という名称は、彼らが真っ当な義賊行為に勤んだからによるものでは、決してない。この齟齬は、彼らが設立した時代背景が、無二革命の後始末に梃子摺っていた渦中只中にあることに原因がある―――要は初期の依頼の大半が、公的手段があてにならない事態の非合理的解決、いわゆる『あの野郎に吠え面をかかせてほしい』という内容に終始したのである。これに旗司誓なりに応じていった結果、“義賊”という通称の方が親しまれるようになってしまったというわけだ。いかんせん、そう呼ばれた当人らでさえ誤認を解くのに執しなかったため、こうして食い違ったまま今日に至っているのだが。
何故、彼らは訂正に熱心ではなかったのか―――今となっては、ゼラには分かりきったことだった。
(旗司誓は旗司誓だ。どう呼ばれたところで。見れば分かる)
こうまで旌旗に囚われている。旗司誓以外の何だというのだ? 義賊<風青烏>、以煽開舞の華蕾……
(『我、煽られるを以って舞うが如く開かん、ゆえに我なり』)
売られた喧嘩以外は買わない―――との実用的な要約を避けたのは、やはりこのリーダーがリーダーだからだろうか。
立ち止まる。ゼラは、目前に立っている青年に対して、挨拶の意で平易な敬礼を向けた。常套句は口にしない―――ついさっき交わしたばかりなのだから、そう何度も格式ばる必要も無かろう。
対する青年もこちらに応えて片手でこめかみをこすってみせはしたが、その所作よりも頭髪の深紅の色彩の方がはるかに目立っていることは、彼自身が最も理解していただろう―――キアズマ・ネモ・ンルジアッハ。百英雄がひとり、ヴィネモルカ……“ゆえにただ千日に生ありきネモ”の直系にあたるネモ族ンルジアッハ家、その正当な血脈を継承する生粋の貴族である。
いまだ栄華の極みにあるネモ・ンルジアッハの閥族に属す身分からすれば、莫大な財産をつまぐりながら贅沢三昧を嗜むのが本来の在り様だろうに、何の因果か今現在、こうして義賊の頭領に職を落ち着けている。当人の外見さえ急な成り行きについていけていないらしく、高襟の長衣を羽織ったキアズマの風体は、いまだに悔踏区域外輪に溶け残る風雅をふわつかせていた。
馬用に区切られた獣舎から、<風青烏>の騎馬が二頭とも鼻面を突き出して湯気を吹いている。悔踏区域の風だけでなく、昨日の戦火の残り香が、ひときわの緊張を生んでいるのかもしれない。その轡を取っていなしている<風青烏>の部下のひとりと挨拶がわりの目配せを挟み、ゼラは改めてキアズマに向き合った。相手は上層の箱庭育ちらしく、軽く拳を作った片腕を臍の辺りに横にして、自然に控えてみせる。そして無言で聳え立つ要塞をちらりと窺い、その一瞥で的確に頭領の居室をなぞってから、一応といった調子で尋ねてきた。
「もう、よろしいので?」
「はい」
快活に答えておく。仕事については、もうよろしいことに変わりない。
「報告書がよかったので、すぐに要点をまとめて、頭領と話をすることができました。君たちの仕事運びは昔とそっくりですので、やりやすくて助かります」
「昔?」
「―――ああ。シザジアフのことです。死人に例えたとは言え、褒め言葉ですよ」
ふとキアズマの表情がくすんだように感じ、ゼラは手振りもつけて失言を断った。そして、苦笑いに澱んだ苦さだけ、相手ではなく内心へと挿し向けた。
(どうにも、今日は……こんな日なのか)
ならば、きっとこれからも、死んだ相棒を思い出さねばならない。
ゼラが陰鬱に腹を決めたことに、キアズマは気付かなかったらしい。ただ彼は、うす彫りの目鼻立ちから拭いきれずにいた微妙な困惑を、こちらと同じように愛想笑いで押し流してみせた。
「ええ。お褒めいただいたことは、重々―――ただ、引き合いに出された相手が相手ゆえ、恐縮してしまいました」
「恐縮? シザジアフ相手に?」
明らかに怪しんだ口ぶりをものともせず、キアズマがゆるぎない表情で、たっぷりと頷く。だけでなく、更にせりふを続けて、えらく念の入った様子で強調すらしてきた。
「かの翁は、急霰の如く悔踏区域外輪に現れ、<彼に凝立する聖杯>に稀代の才にて隆盛を齎し、頭領の地位まで上り詰めた逸材。その才覚は、デュアセラズロやアーギルシャイアにも例えられたと聞き及んでおりますれば」
「はあ」
とりあえず、尻すぼみに呻いておく。こうまで褒めちぎられると安易に水を注すのはちゃちゃ入れのようで憚られたが、安易に彼を是認してしまうのも同じように居心地が悪い。感覚に抗しきれず、ゼラは手探りで口を開いた。
「なんというか……君の口から聞くと、殊更にオーバーですねぇ。煙草の煙を吐くしか能のないいかれぽんちに落ちぶれたシッズァに食らいついてうちに飛び込んでくるくらいですから、君の憧れ度合いは察していたつもりでしたが。あの人、シザジアフでなければ、ただの親馬鹿ですよ」
「シザジアフでなければ?」
「あ。ええ、はい」
きょとんとしたキアズマを見ると、口を滑らせた感は否めなかったが―――とっさにゼラは、顎の下に置いていた指を、下唇へと添え直した。こうすると、はにかんでいるような印象を他者に与えるとは知っているが、思い出し笑いを隠すときにしてしまう悪癖は、どうにも直らない。
「あの人ね、子どもに対して、態度と立場を使い分けていたんですよ。任務外の時間は『とうさん』、任務中は旗司誓の『シザジアフさん』だ―――とね。子連れで転がり込んで、周囲に相当な迷惑をかけたという引け目からでしょう。それなりに我儘をきかせることができる立場になっても、その区別の厳格さだけは変わりませんでした。その反動なのか、『とうさん』の時は、とてつもなく我が子に骨抜きで」
「と、いうと?」
「たとえば……そうですね。あの人、珍しい色の髪をしてたんですよ。青味がかった、薄い鋼色というか―――白髪を青黒くしたような。こう、金髪とか銀髪とか、そういう一般的な呼び名が思い当たらなくて。毛の質なのか、ここに住むようになってからも、ぷつぷつ切れるだけで一向に色が抜けませんで。大層目立ったので、いつもターバンで隠していたんですけれど」
その姿。
そして、同じようにターバンを巻かれ、父親とお揃いになったとはしゃぎ回る彼の息子へと連想が向かうことは、ゼラの脳に静かな痛感を滲ませた。その感覚が何らかの情念だと分かってはいたか、何かに分類してしまうのは避けたかった。名づけるごとに、名づけることができない決定的な部分を失ってしまうような、ひどくあいまいな恐ろしさを素通りすることができない。
ふと、会話を見失っていた。とはいえ、どうにか間に合ったらしい―――大人しく続きを待っているキアズマに微笑み直しながら、ゼラは人差し指で頬のうぶ毛を掻いた。
「でもそんなことをしていれば、いくら小さな子だって、その色合いに興味がわいて当然でしょう? ある日、よりによってわたしに『あの毛って何色なんだ?』なんて尋ねてくるものですから。とっさに、あれの色って言っちゃいまして」
あご下にあった拳を解いて、そこから上へと、まっすぐ指を立てる。
貴族の癖で、つい眼球の動きだけで上方を見上げたキアズマが、そのまま小首を傾げた。オールバックにしている髪は乱れもしなかったが、それがいつまでもつか試すように頭を斜めにしたまま、独りごちる。
「雲?」
「―――が、錆びた色」
「錆びた?」
あまりに意外だったらしい。ぽかんと鸚鵡声を上げる彼に、解きかけていた含羞を後押しされ、ゼラはついに忍び笑いを漏らした。
「どうにも答えられなくて、錆びた雲色の髪、ってたとえてしまったんですよ。そしたらあの子ったら、『さびてるんなら、さびおとしてやる』って、寝入ってる父親の毛を小刀で削ごうとしたんです。だというのにシザジアフは怒りもしないで、あろうことか『錆びは削いだら落とせるなんて小っさいくせによく知ってんなお前ぇ♪』とか言い出す始末で……まあそんな甘々チュッチュ、前髪と眉毛半分なくした流血だらりんこ状態でかまされたところで、コントでしかありませんでしたが」
「……成る程」
「うん。そうですね。義賊<風青烏>。君たちはもしかしたら、シザジアフくらいに優秀というよりも、シザジアフより大人なのかもしれない」
ゼラは相手と入れ替わるようにして、曇り空へ視線を一巡させた。その不変の色合いは、今以上の記憶の想起を誘いかけてきたが、そうするわけにもいかない。また、それに追従するような感傷が存在しているわけもない……ただ、そうやって内面を問わずにいられないことこそが感傷だというのなら、幾つかの何かを改めなければならないだろうが。
「―――だとするならば、誉れの極み」
声が聞こえた。
そしてそれは、幸運と思えた。ゼラはいつものように、キアズマの囁きを茶化すのに相応しい、ひょうきんに上ずらせた声を挟むことができた。
「また大袈裟な。イイ歳したおじさんに太鼓持ちしたりなんかして、あとで後悔しちゃっても知らないんですから」
「大袈裟ではありません」
真面目に切り返して、キアズマが真摯な表情を深めた。
「お二方の活躍は、今昔かかわらずエニイージーから耳にしております。その話題の本人から義賊として評価を受けるなぞ、誉れ以外の何となりましょうや」
「こんじゃく?」
「神不知の崖破りにタファーの仲裁、戒域綱領の素案と下地作りもしたんだ、さすがは頭領を育ててくれた黄金タッグだろ、凄かったんだ―――と」
「そうですか。エニイージーが」
そのように応答したのは、言うなれば、惰性だった。
「……あの子も……」
そして、そのまま言葉を終わらせなかったのは、これもまた惰性だった。
そんな言い逃れを続けてみる。続けるには苦しすぎると、分かってはいたが。
「―――頭領にも、見習って欲しいものです」
「自慢癖を、ですか?」
視界だけでもキアズマの問いかけを回避しようと、ゼラは俯いた。やるせなさに、かぶりを振る。地面には、自分の靴しか見えない。そうして、わずかながら外界から孤立したことを感じ、安堵以上の皮肉にはらわたが捩れていく。
孤立とは、孤立する個が……自分がいるという証明に他ならない。どこに行ったところで、その存在はつきまとう。回避など成功しない。逃避は望めない。
だとしても、どうなるものでもない。ゼラは顔を上げた。
現にそこにいるのはキアズマであり、ザーニーイではない。それが結果なのだから。
だから自白も、それで終わった。
「過ぎた日が残してくれるのは、語るに落ちる思い出だけだということを―――ですよ」
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