テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

文字の大きさ
12 / 171
エリザベスの訪問

1-12

しおりを挟む




シムは嬉しかった。

偶然にも今日の終わりにまたカスパルと話すことが出来た。
まさにああすれば良かったこういえば良かったと思ったことを、カスパルに伝えることが出来た。

きちんと声も出た。
目も見れた。


そして見た目の威圧感と自分の想像で膨れ上がっていた恐怖心で直視出来なかったカスパルは、怖い人間ではなかったことに気づけたことが何より嬉しかった。

シムの話を快く了承してくれ、頭を撫で、これがシムという人間だと認識した上で笑いかけてくれた。

実はとても人懐こく太陽の様な人間だった。そう気づけて嬉しかった。
そのことにシムは感動していた。

人を知ることを今までしてこなかったシムにとって初めての感覚だった。





しかしあまり表情に出ないシムは、端から見れば厨房の隅で真顔で座り込んでいる様に見えるので、召使い達は気を使って話しかけずにいる。

「なあ…今日シムなんかあったの?」

「知らない…庭に一日いたみたいだし、疲れたんじゃないかしら?」

シムは無表情の中では色んな感情が目紛しく激動していることが多々あるのだが、対人能力の劣るシムは表情も自在にならなかった。



「それじゃあいただきまーす!」

十数人の声が厨房に響く。

ローストビーフうめー!など今夜の夕飯を皆がさっそく盛り上がる。

シムもそれは例外ではなく、たまにしか食べることの出来ないきらきらとした食事に口の中が感動していた。
その時横から伸びてきた手で腕を力強く握られ思わずフォークを落としそうになった。

「あ、アベルさん!」

馬引の男、アベルはにやにやしながら腕をぐにぐにとまさぐる。

「何だお前、昼も食わないくせに意外と筋肉は結構あるんだな~」
細いけど、と付け足す。

シムはそれを嫌がり腕を振りほどこうとする。

「当たり前、ですよ…
え?あのパン、アベルさんが?」

そう言われてみれば今日レンガに冷たくなっていたパンが置かれていて、誰かの忘れ物かと思っていたことを思い出した。

やっぱり聞こえてなかったか…と深いため息をしてアベルは馴れ馴れしそうにシムの方に腕を回す。

「ちゃんと人並みの時間の使い方しろよー?
お前すぐ自分も植物みたいな雰囲気で庭から帰ってこねえから」

あはは、と周りの召使いがアベルの言葉に笑いながらご飯をかき込んだ。
シムもつられて口角を上げた。

アベルなりに根気詰めすぎるなと言ってくれているのだろう、アベルなりの不器用な心遣いにシムはとても温かい気持ちになる。



「アベルさん、ありがとう」

シムは恥ずかしくてとてもアベルを見ながらはできなかったものの、自分の持つフォークを見つめながら呟いた。



アベルは嬉しそうににししと笑った後、何の礼だよ!とばしっと背中を叩く。

シムは軽くむせながらもやかましい人は嫌いではないと思う。



いつもよりも会話が楽しいと思えるのも今日カスパルとのあの件が自分の心を柔らかくしているのかもしれない、と感じたのであった。















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...