テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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エリザベスの訪問

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春と言えど朝はまだ肌寒い。


シムはいつもより少しだけ早く起き、よれよれのシャツに手袋、エプロンと、庭仕事のいつもの格好をして朝露に光る自慢の庭に一人佇んでいた。

今日はカスパルに花達を説明する約束の日、シムは緊張していた。


単に対人恐怖ということもあるが、シムは今まで男性にきちんと説明したことが無い。男性は草花に基本興味がないからである。

彼はきっと草木に詳しい方ではないだろう、品種の知識を縦並べても退屈してしまう。
側から見ればただ立っているだけのシムだが、頭の中で様々なシミュレーションをしていた。





暫くして遠くの方から砂利を踏む足音が聞こえてくる。振り向くとそこには、大きな身体のカスパルがシムの方へ向かってきていた。

「早いな、シム」

歩いてくるカスパルからは眠気も感じられず、何時もの様にシンプルな軍服をピシッと着こなしていた。


「おはようございます、」

シムは静かな朝の空気に頬が冷える。
カスパルとシムとの間には妙に照れた空気があった。


照れる、恥ずかしい、どちらだろうか、改まって落ち合うというのは中々の気恥ずかしさがあった。

「いつもこのくらいの時間から始めるのか」

「あ、いえ。今日は少し、早いです」

頭をかきながら言葉をかけてくるカスパルと少しずつ視線を合わせながらボソボソと会話をする。
シムも初めて感じる照れ臭さで、全身が痒い気持ちになる。


しばらくたわいもない話を弾むわけでもなく交わしていたが、徐々に花の説明へと話題が移る。


「俺、何を説明したら楽しんで貰えるのか、考えていました。
カスパル様に、興味を持ってもらえる、ようなお話を、出来るか分からないのですが」


一言一言を吃りながら、しかし一つ一つを大切に言葉にするシムを、カスパルもまた聞き漏らさないよう無意識に歩み寄り真面目な眼差しでシムの言葉を聞く。


シムはおもむろに足元に咲く大きく黄色い花グレアルを一輪摘む。


「花には、全てメッセージがあります、道端の花にも、あります。
このグレアルは、喜びと、おはようの意味があって、俺はこの花が好きなんです。」


そう言いながらカスパルの手元に一輪のグレアルを渡す。

カスパルは自分の手で持つ。
人生で初めて花をじっくりと見た。

カスパルは今まで花は脆く繊細なイメージしか無かったが、持ってみて実感する茎と葉の力強さ、堂々と開く花びらの一枚一枚に、美しさに心が感嘆していた。
このグレアルという花にたくましささえ感じられた。


「綺麗だな。まるで喜びの始まりを報せるような溌剌とした色だ。」


口に出してみて詩的な台詞だと気付き、とカスパルはハッと苦虫を潰した顔になるが、シムは予想外にころころと微笑んでいた。

カスパルはシムの微笑む顔を初めて見たので、優しい日差しのような柔らかい表情に、カスパルも思わず目元を優しげに細める。


シムはだんだんと心から安心し、全身が解凍されていく。

そう、自分もそう思っていた。
喜びが始まる朝に相応しい花なのだ。
それをくみ取ってくれたカスパルに、シムは心から喜んでいた。

「そう、そうなんです!
俺もそう思って、喜びを込めて、沢山沢山植えました。」

綺麗に咲いてくれて、感謝で、いっぱいです。

シムは自身から出て来る花への讃頌の言葉に感謝の気持ちがこぼれ落ちる。

気持ちを込めて育て、頑張って咲いてきてくれた一本一本全てが本当に綺麗なのだ。




カスパルもまた花に誠意と愛を持って接するシムの眼差しを綺麗だと感じていた。
まるで聖母のように素朴で穏やかな表情に幸福を感じる。








 
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