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エリザベスの訪問
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しおりを挟む「シムがそうして無償の愛情を注いで育てるからきっと綺麗なのだ。
誰にも出来ない、凄い事だ。」
シムは驚いてカスパルを見る。
花とずっと一緒にいることは自分以外にも誰にだって出来る。
ありえないという意を込めてカスパルを見たものの、そこには予想外な程に柔らかく微笑むカスパルの姿があり理由は分からないものの胸が熱くなり急いで下を向く。
自分にしか出来ないことではない、皆無意識に生活の中でしている事をカスパルはすくい上げてくれているに過ぎないとシムは思う。
「誰もが、出来ています。
カスパル様が、自分の剣を丹念に、手入れなさるのと同じです。」
けれど、とシムは続ける。
「小さな、愛情に気づける、言葉に出来る、カスパル様の方が、凄いと、思います。」
些細なことも気軽に思ったことを述べられる、純粋さと強さ正直さの方がよっぽど凄い事だと心の中で思う。
しかしこれ以上言い合っていたらいよいよ埒が明かないと思い、カスパルは少し笑った。
再びシムは地面に下を見やり小指程の背丈の白く小さな花を摘む。
「これはロニーという花で、花言葉は、”健闘を祈る”です。
小さな花で、地面から動けないけれど、このロニーは誰かへ毎日、健闘を祈っています。」
武人にぴったりな花だな、と呟いたが、武人に花という不似合いにカスパルは笑う。
しかしその組み合わせも悪くない。寧ろ粋ではないか。
そうだ、とカスパルは続ける。
「どうせ共に帰るのだから。
その花、是非宮廷の庭にも植えてくれ。」
その言葉にえ?と固まったシムに、カスパルもミスをしてしまったと気付き頭をかいた。
まだ夫人は話していないのか、これはまずいことをした。
カスパルは何でもない、と笑って誤魔化すがシムはよく分かっていないのか戸惑っているのか、呆けた顔のままカスパルを見やる。
「気にしないでくれ。」
その言葉を発した瞬間、城へ続く扉が開きお付きの子息が一人かけてきた。
その唯ならぬ様子にカスパルは非常事態を察知したのかすっと鷹のような武人の顔付きで子息を見やった。
「カスパル様、失礼します!」
「どうした。」
引き締めた声色でカスパルが尋ねれば、子息は耳に口を寄せてシムにあまり聞こえないよう配慮する。
もちろんシムを思いやってのことなのだが、シム本人は突然現れ突然自分だけ蚊帳の外という状況に戸惑いしかなかった。
「先日の山賊、捕縛が失敗したらしく…
やつらの進行方向がこちらの順路と近いです。ご帰還を早めた方が得策と電報が…」
カスパルは眉を寄せて報告を聞く。
「そうか…承知した。仕方ない、出発を早めよう。」
子息は一つ頷き他の者にも伝えて参ります、と駆け出そうとしたがカスパルがそれを制し、私も行こう、と伝える。
「シム、本当にすまない。急用だ。」
申し訳ない表情でカスパルは振り向き、シムに軽く頭を下げる。
シムが話し出そうと口を開くと再びカスパルが話を再開させる。
「今度またゆっくり話そう。
もっと花のこと、聞かせてくれ。」
時間が惜しいという雰囲気ながらも、シムに対して優しい微笑みのまま肩に手をかける。
シムがこくんと頷くのを確認してからカスパルも一つ頷き、大きな身体を返して子息に続いて庭を後にした。
シムは一人残され消えて行く後ろ姿を微動だにしないまま見送った。その表情は浮かない。
今度だなんてあるはずないというのに、何故そのようなぬか喜びをさせるようなことを言うのか。
カスパルは偉い軍人で、自分はただの貧相な庭師だというのに。
こんな身分を飛び越えて話を交えることがこの庭の中で出来た夢のような時間を、そんな嘘で終わらせて欲しくなかった。
シムはもう誰もいなくなった庭に一人地面を見つめた。
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