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エリザベスの訪問
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しおりを挟む朝の食卓の準備を横目に、夫人は広間のソファに座り召使に本日の予定を聞いていた。
夫人は今日の視察や食事の内容の話を聞きながらもどこか心はそこにはない。
シムと今日ゆっくり話をする時間を設けなければならない。
それが可能な時間はとても限られている。
晩餐の時間は元々時間を分けているため会うことは出来ず、それが終わった後ではシムが眠りについてしまう。
しかし視察は行かなければならず、帰ってくればすぐに晩餐。とても時間がないことに夫人は一つため息を吐いた。
さらに言えば、昨日グリアムとの口論が原因なのか、朝からグリアムは書斎に篭り姿を現さない。
しかしその点に関しては、たまに驚くほどの頑固な気があるグリアムを知る夫人はそこまで気にしていなかった。
「テューリンゲン夫人」
低い声が遠くから響く。
その声にいち早く召使いは息を短く吸い、礼のまま待機する。
向こうから歩いてきたカスパルの表情は些か固い表情で、夫人は身なりを整えソファから立ち上がった。
「カスパル様、どうなさいました」
「朝から慌ただしく申し訳ない。
今朝入った情報で、山賊の捕縛に失敗したらしく我々の帰路に被害が及ぶかもしれないそうで。
宮廷へ早めに帰還することになったことを、ご報告に。」
こちらの都合で誠に申し訳ない、夫人に対して頭を下げる。
夫人はカスパルの言葉に驚きながらもカスパルの謝罪に、おやめくださいと制した。
そんな手強い山賊がこちらに近づいているとは、それはもちろん帰還を早めることは得策だ。
「いつご帰還なさるのですか」
「準備を今早急にさせていますが、可能であれば今夜又は明朝にでも」
とても早い、と思わず口から零れる。
夫人はハッとあることを思い出す。
「あの、うちのシムもその時に同行なさるのですか。」
カスパルも同様に、シムという名前を聞き思い出した顔をした。
「それは王妃陛下がお決めになるでしょう。
…まだ彼に話してはいないようですが、
早めの方がきっとよろしいと思います。」
「ええ….、昨日シムはもう眠りについてしまっていて」
忙しなくテーブルに朝食を置いて行っていた召使い達が一旦手を止め広間にはほんの少しの静寂が生まれた。
その静寂にぽつんと水が落ちるように凛とした声が響いた。
「おはよう、どうぞ続けてちょうだい」
エリザベスの登場に、カスパルは夫人に一礼をした後駆け寄る。
エリザベスもカスパルを見やり一度頷いた。
「たった今執事から状況は伺いました。
私の準備は今日中に終わるでしょう。
テューリンゲンさんも、本当に申し訳ないわね。
帰らなければならないようです。」
夫人はとんでもございません、と頭を下げながらエリザベスへ向き合う。
カスパルは他の召使いにあまり聞こえぬようエリザベスの耳に口を寄せた。
「シムは共に連れ帰りますか。」
「彼に委ねましょう。
いきなり言われて連れ帰ってしまったらきっと疲れてしまうのでしょうから。」
承知しました、カスパルは夫人に向き直りシムに決めさせてやっていただきたいことを伝えた。
シムに言ってやらねば。
夫人は深く頷き、エリザベスとカスパルを見やる。
「主人にこの事を伝えに行って参ります。
きっとまだ書斎で何かしていると思いますので。」
夫人はソファから立ち上がり一礼した後、一人の召使も引き連れずに書斎のある上階へと足を進めて行った。
カスパルは夫人の背中を見つめてから、エリザベスに向き直る。
「テューリンゲン夫人はまだシムに伝えていないようです。」
「それは尚更急がしてしまって申し訳ないわね。」
カスパルはエリザベスの言葉に全く同感だと言わんばかりに何度か頷いて見せる。
王妃はカスパルの横顔を見やり、先程の表情とはまた違った少女のような顔つきになる。
「今日、お庭は楽しかった?」
カスパルはぱっと笑顔になり元気良く返事をした。
「はい!
シムから、花言葉を教わりました。
私も好きになった花が出来ました、ロニーという花で…」
思わず声を出して笑うエリザベスに、カスパルは少し心外というように口を開く。
「花は強く逞しいと思いました。
一つ一つ意味があるのも、素敵だ。」
「付け焼き刃の貴方に花を語って欲しくないけど、そうね気持ちはとても分かるわ。
私が可笑しいのはねカスパル、そんな大きな身体で花を愛でる姿が可愛いからよ。」
カスパルはムキになり反論を続けようと思ったが、いつの間にか笑っていたエリザベスがこちらに向かって子供を見るような慈しみの表情に変わっていることに気づき、くっと言葉を止める。
「よかったわね、カスパル。
いい子よねシムは。」
頭をかきながら無性にせり上がってくる気恥ずかしさに、エリザベスから視線を外すカスパル。
「はい。
純粋で、いい奴です。
気に入りました。」
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