17 / 171
エリザベスの訪問
1-17
しおりを挟むエリザベスはふっと笑みを曇らせてカスパルを見た。
「ジェーンもよ。
ジェーンも宮廷で守ってあげてね。」
カスパルはその言葉に顔を曇らせる。
忘れていた訳では決してないが、まだまだ子供の表情をした彼女の精一杯の色仕掛けを無下にした申し訳なさは消えていない。
しかし宮廷はこのような北の地方とは訳が違う。
女性は特に裏切りや媚び、複雑に絡んでいる関係や表面に現れない心理戦が存在する。
それは同盟国から遣わされ肩身の狭い体験を沢山してきたカスパルは、痛い程理解し経験しているので、守るべき対象であることも重々承知しているつもりだ。
「そうですね…。
しかし男の私には限界があります。それでも目が届く所までは、善処はします。」
エリザベスは頷く。
エリザベスもジェーンに対して漠然とした不安を抱いていた。
身軽に動けない身であり、今回の視察は奇跡に等しいほどに自由にしてもらっている程のエリザベス。
いくら王妃の侍女として召し上げるとはいえ、水面下で何が起こっているのか時々さっぱり掴めない事だってある。
もちろん宮廷内には認めたくはないが男女関係の問題も消えない。
やはり国で一番偉大な宮廷に召し上げるからには、彼女には幸せな日々を送って欲しいと思っているが、歳の離れすぎたジェーンの心情がまるで分からずエリザベスの不安はさらなる不安を呼んだ。
書斎へと続く少し暗い廊下をテューリンゲン夫人は進む。
グリアムは結局未だに書斎から出てきていないようだ。
夫人は足を進めるごとに、何だか嫌な予感を感じていた。
このざわつきは一体何だというのだろうか。
書斎の重く古めかしい扉の取っ手に手をかけた時にその嫌な予感は的中していたことに、夫人は思い切り顔を歪めた。
「よいなジェーン。
契る相手を間違えぬようにな。
宮廷の中でとより高貴なお方を選ぶのだぞ。」
意を決して扉を開けた先には、グリアムと居ると思わなかったジェーンが立っていた。
「貴方…」
夫人はそれ以外の言葉を絞り出すことが出来なかった。
昨日のこちら側の必死な懇願は全く伝わっていなかったのである。失望というレベルを超えていた。
「来たか。
色々考えもしたが、やはり入廷させる事にした。
こんな恵まれたチャンスは今後ある保証などない。
行かなかった後悔より行った後悔と、それに賭ける事にしたのだ。」
よくもべらべらと言えたものである。
夫人は目眩を必死に抑えて、いつもより何倍もよく口の動くグリアムへ軽蔑の眼差しを向ける。
しかしジェーンは振り返ると、今にも卒倒しそうな白い顔の夫人を見て口を開いた。
「お母様、聞きました。
私の幸せのために行かせたくないと仰ったそうですね?」
ジェーンはゆっくりお母様に近づき、冷酷さが滲み出た本来の性格が反映されている醜い微笑で言葉を続ける。
母として一度も見たこともなければ、教えたこともない表情をした我が子がそこにはいた。
「私の幸せは私が決めます。
あの泥だらけの汚い男が入廷して、私が何もない田舎にずっとくすぶるなんて、考えられないわ。
お母様は私の何も分かっていない。」
「ジェーン….!」
ショックを顔にあからさまに出す夫人をジェーンはとても冷めた目で見ていたが、内心では自由になれるチャンスに心が踊っていた。
こんな田舎で両親に監視され良い様に使われる事を最もフラストレーションと感じていたジェーンにとって入廷という言葉は、14歳程度の頭では天国である。
シムが一緒に入廷することがとても嫌だったが、王妃の世話をするならば庭師はあまり会わずに済むだろう。我慢は出来る。
自分の手で最高の婿を探し、自分の輝けるステージを自分で作るのだ。
自分はまだ若い、それくらいのこと苦もなく出来る。
ジェーンはすっかり根拠の無い自信に取り憑かれていた。
「私は王妃様と共に入廷します。
早い方がきっと良いわ、」
「おおジェーン、それでこそ私の娘だ!」
グリアムは得意げに手を広げてみせる。
実際手柄を立てるのも頑張るのもジェーンだが、グリアムも根拠の無い自信に取り憑かれているようだった。
夫人はこの広い屋敷の中で誰も味方がいないような気分を噛み締めた。
何故自分のこの心配する気持ちは届かないのか、来るしく寂しい気持ちに支配される。
「シムに、…シムに伝えなければ…!」
そう震える声で再び扉に向き直り、冷えた金属の取っ手に手を乗せる。
今自分の背中に注がれている愛する家族の視線は、夫人にとって震えて歯が鳴る程冷たいものだった。
43
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる