テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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特異の入廷者

2-2

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王都へは、テューリンゲン家の屋敷のある北の町から馬を走らせて約3日、王都の大門を潜った後宮廷まで約半日の時間を要する

その分の食料も持たされ、野宿用の古びたマントも持たされた。
シムはこれからの数日馬を走らせ続ける。



しかしシムは馬に触れる職ではなかったため乗馬は慣れておらず、その乗り方は大変ぎこちないものであった。
進行速度も軍人やアベル等馬の扱いに慣れている者に比べれば大分遅い。このペースでは3日後にきちんと王都にたどり着けるかも怪しい雲行きであった。

しかし当のシムには焦る気持ちは一つもなかった。

たった一人の旅路、刻一刻と変わる見慣れない新鮮な自然の景色にシムの心は、感動さえしていた。

町や王都以外を、広範囲に深い森が多い隠す国レグランド。
その深い原生林は、草花を生業とするシムの心が躍る景色であった。


様々な動物の声や音がする、水の匂い、葉の匂い…
あれはなんという花だろう、あの樹液は甘いのだろうか、

シムは馬に揺さぶられながら一生懸命景色を目で追った。









出発した夕方から約半日、辺りは既に漆黒に包まれている。

そろそろ今日野宿をする場所を決めて場を整えなければ危険になってくる時刻だが、野宿の経験がないシムは直前にアベルから教わった野宿に適している場所を遅れながらも探し始めた。

野宿ではまず安全を確保しなければならなく、自然の災害や毒のある生き物の被害がなるべく少ない場所にした方がいいらしい。
シムはアベルの言葉を思い出し道を大きく外れすぎないよう気をつけながら、森の中の小さな小山や丘を探した。


先程までは一人で楽しい旅路が、暗闇一人という想像以上の寂しさがシムを襲う。
今だけは、森の中の獣や風の音も、得体の知れない存在に感じてしまう。


当然に人通りもない。


「誰か、いないよな」


つい願望が口から出てしまい、さらに寂しい気持ちが心を占める。
シムは慌てて首を大きく左右に振り気を引き締めて馬の綱を握りしめた。






「この木、…」

野宿場所を探して幾らか時間が経つも、シムはいっこうにまともな場所を見つけるどころか暗い森の大迷路にまんまとはまってしまった。

先程から何回も同じ木と出会しており、見間違いでもないことを4回目程で確信した。この状況に流石のシムも心身ともに疲労していた。

今のシムにとって唯一の救いは重そうな銀の兜を被った自分を乗せてくれている馬だけだ。
シムは大変心細さを感じた。


誰か、いて欲しい
たった3日くらいの旅がこんなに寂しいなんて、光の無いこの森がこんなに怖いなんて。
全て初めてのことである。

怯んでいても状況は変わらないと自分を奮い立たせ、必死に野宿に適している場所を探して回る。

ふと、シムは遠くの空に一筋の糸のようなものが縦に伸びていることに気付き、目を凝らす。


「…あ、あれは、!」


あれは煙だ、
人があそこにいる!

シムは出発してから初めて顔を綻ばせ、綱を勢いよくはたいて馬をその場所へ走らせた。

ぎこちなく揺らされながらも安堵で笑顔が漏れるシムの心の中の警戒は解けている。


虫の音や動物の音もその付近では止み、自分の走らせている馬の足音だけが森に響いていることも、当然今のシムには気付くことが出来なかった。


自分の馬の足音だけが響いていた。



どんどん煙が近くなるにつれてシムは焦る気持ちに勝てずさらに馬を走らせた。


早く早く!


混沌と密集して生い茂る大きい木を一気に抜けると、まだまだ続くと思われた木々が一気に開け、シムは思わず馬の綱を一気に引っ張る。

馬は驚いて失速し、その反動で後ろに引き下がるが、シムもその馬の動きを予測出来ず容易く馬の背から転げ落ちる。

「いっ…!」

勢いよく土にダイブしてしまった顔と体の土を急いではたきなから辺りを見回す。

「た、焚き火だ」


シムは森の中の小さな小山に出ていた。
小さな小山を中心に木は生えておらず、小山の上には焚き火の炎がゆらゆらと風に揺らされて煙を放出している。

シムは馬をそのままにして反射的に顔を綻ばせて焚き火の元へと駆け寄ろうと足を走らせる。


あれ…?


駆け寄る途中でシムはふと気づいてしまった。

人がいない。



自分の足音、馬の息遣い以外の音がしない。


少し今の状況はおかしいのではないか…
シムは押し寄せる不審の数々に思わず足を止めた瞬間、後ろからザクっと草を踏む音が聞こえた。


まずい。
と心で唱えた時にはもう既に遅く、次の瞬間にはシムは地面に顔を叩きつけてられていた。


「ぐぅっ…!」


自分が倒れこんでから背中を中心にじわじわ激痛が体に伝わる。すぐに立ち上がることが出来ない背中の衝撃と痛みに顔を歪める。
痛みに堪えながら自分が後ろから何者かに攻撃されたことを察した。


「誰だテメェは、何者だ?」

「うっ…」

いきなりかけられる野蛮な言葉遣いをする男の声と共に髪の毛を強く引っ張られ顔を見られ、思わず呻き声が口から漏れる。


真っ暗だった視界が頭を持ち上げられることによって辺りが見えた。
自分の前には10人ほどの汚れた服を纏う大柄で無骨な男達がシムをまるで威嚇するように火を手に持ち顔を照らしている。

これはまさか、
盗賊だ…


シムは瞬時に導き出してしまった彼らの正体に鼓動が早まる。頭の危険を報せる警報は壊れたように最大音量で鳴り続けた。








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