26 / 171
特異の入廷者
2-3
しおりを挟む盗賊。
その存在をカスパルも他の者達も口にしていた。
そのせいでエリザベスの帰還も早まった。
聞かされていたのに、すっかり頭から抜けていたことを悔いる。
シムは森で孤独を味わう怖い気持ちとは比べ物にならない恐怖が足先から湧き上がってくる。
「おーい!この餓鬼の乗ってた馬、王族の兜つけてやがる!」
「本当かよ!金になるな!」
遠くから聞こえた男の声に、自分の頭を持ち上げる獣臭い男は体を起こし返答する。
持ち上げられたままのシムは、引きずられる形になり苦しそうに顔を歪めた。
「そしたらこいつ王族なのかぁ?」
「馬鹿言え。んな訳ねえだろ。
こんな見窄らしいナリして、一人でこんな簡単な罠に引っかかる間抜けが王族な筈ねえ。」
盗賊の男は、顔を歪めたままうつ伏せの状態に苦しむシムを、これまた乱暴に服の襟を掴み上げ強引に仰向けに転がす。
襟を掴み上げられたことで息が詰まる出るシムはさらに苦しそうに顔を歪めた。
仰向けにさせられすっかり全身泥だらけになってしまったシムに男は跨り、物珍しそうにシムを見回す。
「おい餓鬼、なんでこんなとこに一人で来たんだ?」
明らかに自分を子供扱いする見下ろす男に恐怖しながら、歯が震えて音が鳴ってしまうのを必死に抑え言葉を紡ぐ。
「けむ、け、煙が、み、見えて、…」
上手く声が出ず何時もよりも何倍も吃るシムに、上に跨る男は勿論、周囲の男達も一斉にゲラゲラと大笑いをしだした。
あからさまに笑われるシムは思わず一筋涙を溢してしまい、あまりの恥ずかしさと惨めさに消えて無くなりたくなった。
「それでぇ?
なんで王族の馬にお前は乗ってたんだぁ?」
周囲の男達が一様にシムの真似をし出す。
ぼ、ぼくが、お、お、お、王族だから~
ぼく、ぼく、え、えらいから~
冷やかされている屈辱と恥ずかしさで心臓が苦しくなる。すっかり冷え切った拳を握りしめて口を開いた。
「は、花、花の、せ、世話を、しに」
跨る男の向かいにいた男が馬鹿にしたように笑いながらシムに顔を近付け、おー?と声を上げる。
「おいおい泣いちゃってるよこいつ!!
傑作だな!」
その言葉にさらに皆は腹を抱えて嘲笑う。
シムが先程口にした言葉を聞いていた者は上に跨っていた男唯一人だった。
跨っている男は、はぁ?と訝しげにシムを見やる。
花の世話だなんて、頭がいかれてしまっているのだろうか。
「てめぇ…まともじゃねぇのか?」
呟くように声を漏らし、跨っていた男が上から退く。
「おいお前ら、とりあえず金目のもん貰え」
その指示を待っていたと言わんばかりに、皆威勢の良い声を上げシムの着る服を掴み持ち上げる。
持ち上げられるシムは慌てて必死の抵抗する。
「や、やめ、やめてくださ、さい!!」
必死に手足をバタつかせ盗られることへ抵抗するも、持ち上げていた男が大きな拳をシムの腹部へ一発叩き込むと、シムは酷く切ない呻き声を上げて手足の力を抜かざるおえなくなった。
「うぐっ……」
「餓鬼でもな、俺達も金に困ってるからな。
ここはテメェがここに来ちまったのが悪いってことでな。
騒ぐと殺すから静かにな。」
痛みに意識が飛びかけたシムは、男の言う言葉も全て聞こえているのか怪しく、腹の痛みに耐える。
シムが体の力を抜くと同時に、肩にかけていたバッグは切り裂かれ、屋敷からいくらか上等な預かったマントは奪われ、数日分の食料と水、馬はまるまるシムの手から離れた。
さらには何か体に隠し持っていないかと複数の男が大きな手でシムの体をまさぐるもシムの汚い服からは何も出てこなかった。
切り裂かれたバッグからパラパラと音を立てて落ちる何かに1人が気づき、すかさず手に取り火に近づけて確認してみる。
「おいボス!
こいつ沢山種みたいなの持ってやがった!
これは売れるか?!」
先程跨っていた男は驚き顔を上げる。
男は先程シムが言っていた花の世話という言葉を思い出して、イカれている訳でもないのかもしれないと、考えを改める。
「売れねぇ、捨てろ」
あいよ!と種を持っていた男はパッと地面に落とす。
また別の方から、先程まで食料を全てバッグから出していた男が、自分の腰に挿していた短剣を握り締めシムの方へ近づく。
「ボス、殺しとく?」
跨っていた男は一度シムを見下ろした後片手を上げ、いや、と制した。
「こいつは殺さない。
見るからに金は持ってない。
殺す必要はねえだろう。」
その代わり、と続ける。
「俺達の跡つけられちゃまずいから動けないように手を縛っておく。」
そう言うと、持ち上げていた男がいきなりシムを地面に落とす。
「う!や、やめ、やめて、くだ、」
シムは落とされた衝撃で身体を強く打ちつける。
しかし殺される恐怖で目の前の男を怯えた眼差しで見つめるしか出来ない。
男がシムの服の襟を掴み大木のある焚き火横へと引きずり移動する。
引きずられるシムは変な体制で息は苦しく、小枝や枯葉や土を巻き込みながらどんどん着ていた服がぼろぼろに脱げかかっていく。
「俺が縛っとくから、テメェらは馬のところに行ってろ」
男の声に、他の者はシムから盗ったいくらかのものを持ちながら、はいよーと楽しげに笑いながら森へと消えていった。
男はシムを引きずり大きな木の前まで来ると、シムの背を大木に預ける。
抵抗する力も恐怖で制限されるシムは呆然と男の行動に身体を固まらせるしか出来ない。
男は自分の腰に巻いてある皮の入れ物からボロボロの縄を取り出し、シムの両手首を大木に括り付けるようにきつく結んだ。
大木に縛り付けられたシムは先程の強引な窃盗に服も汚れ脱げかかり、髪もぼさぼさと乱れ、涙の跡に土が付いて見窄らしさに磨きがかかっていた。
男は、焚き火に大量の木の葉をかける。
「良い馬をもらったぜ。
お前の健闘も祈る。じゃあな」
男は一言告げるとさっと向きを返し暗い森へと消えていく。
縛られたシムはたった今起こった怒涛のようなことに頭が到底追いつかず、動けないまま呆然と暗闇に戻ってしまった深い森を見つめた。
しかしどうやら自分は生き延びれたようだった。
呆然と全てが停止した中で、やっと得た生の実感に安堵と、思い出したようにじわじわと迫る全身の痛みに、眠るように意識を手放した。
44
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる