テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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特異の入廷者

2-3

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盗賊。

その存在をカスパルも他の者達も口にしていた。
そのせいでエリザベスの帰還も早まった。
聞かされていたのに、すっかり頭から抜けていたことを悔いる。

シムは森で孤独を味わう怖い気持ちとは比べ物にならない恐怖が足先から湧き上がってくる。


「おーい!この餓鬼の乗ってた馬、王族の兜つけてやがる!」

「本当かよ!金になるな!」



遠くから聞こえた男の声に、自分の頭を持ち上げる獣臭い男は体を起こし返答する。
持ち上げられたままのシムは、引きずられる形になり苦しそうに顔を歪めた。



「そしたらこいつ王族なのかぁ?」

「馬鹿言え。んな訳ねえだろ。
こんな見窄らしいナリして、一人でこんな簡単な罠に引っかかる間抜けが王族な筈ねえ。」



盗賊の男は、顔を歪めたままうつ伏せの状態に苦しむシムを、これまた乱暴に服の襟を掴み上げ強引に仰向けに転がす。

襟を掴み上げられたことで息が詰まる出るシムはさらに苦しそうに顔を歪めた。

仰向けにさせられすっかり全身泥だらけになってしまったシムに男は跨り、物珍しそうにシムを見回す。


「おい餓鬼、なんでこんなとこに一人で来たんだ?」


明らかに自分を子供扱いする見下ろす男に恐怖しながら、歯が震えて音が鳴ってしまうのを必死に抑え言葉を紡ぐ。

「けむ、け、煙が、み、見えて、…」

上手く声が出ず何時もよりも何倍も吃るシムに、上に跨る男は勿論、周囲の男達も一斉にゲラゲラと大笑いをしだした。

あからさまに笑われるシムは思わず一筋涙を溢してしまい、あまりの恥ずかしさと惨めさに消えて無くなりたくなった。




「それでぇ?
なんで王族の馬にお前は乗ってたんだぁ?」


周囲の男達が一様にシムの真似をし出す。
ぼ、ぼくが、お、お、お、王族だから~
ぼく、ぼく、え、えらいから~



冷やかされている屈辱と恥ずかしさで心臓が苦しくなる。すっかり冷え切った拳を握りしめて口を開いた。


「は、花、花の、せ、世話を、しに」


跨る男の向かいにいた男が馬鹿にしたように笑いながらシムに顔を近付け、おー?と声を上げる。


「おいおい泣いちゃってるよこいつ!!
傑作だな!」

その言葉にさらに皆は腹を抱えて嘲笑う。
シムが先程口にした言葉を聞いていた者は上に跨っていた男唯一人だった。


跨っている男は、はぁ?と訝しげにシムを見やる。
花の世話だなんて、頭がいかれてしまっているのだろうか。

「てめぇ…まともじゃねぇのか?」

呟くように声を漏らし、跨っていた男が上から退く。


「おいお前ら、とりあえず金目のもん貰え」


その指示を待っていたと言わんばかりに、皆威勢の良い声を上げシムの着る服を掴み持ち上げる。

持ち上げられるシムは慌てて必死の抵抗する。


「や、やめ、やめてくださ、さい!!」

必死に手足をバタつかせ盗られることへ抵抗するも、持ち上げていた男が大きな拳をシムの腹部へ一発叩き込むと、シムは酷く切ない呻き声を上げて手足の力を抜かざるおえなくなった。

「うぐっ……」

「餓鬼でもな、俺達も金に困ってるからな。
ここはテメェがここに来ちまったのが悪いってことでな。
騒ぐと殺すから静かにな。」


痛みに意識が飛びかけたシムは、男の言う言葉も全て聞こえているのか怪しく、腹の痛みに耐える。

シムが体の力を抜くと同時に、肩にかけていたバッグは切り裂かれ、屋敷からいくらか上等な預かったマントは奪われ、数日分の食料と水、馬はまるまるシムの手から離れた。

さらには何か体に隠し持っていないかと複数の男が大きな手でシムの体をまさぐるもシムの汚い服からは何も出てこなかった。


切り裂かれたバッグからパラパラと音を立てて落ちる何かに1人が気づき、すかさず手に取り火に近づけて確認してみる。

「おいボス!
こいつ沢山種みたいなの持ってやがった!
これは売れるか?!」


先程跨っていた男は驚き顔を上げる。
男は先程シムが言っていた花の世話という言葉を思い出して、イカれている訳でもないのかもしれないと、考えを改める。


「売れねぇ、捨てろ」

あいよ!と種を持っていた男はパッと地面に落とす。

また別の方から、先程まで食料を全てバッグから出していた男が、自分の腰に挿していた短剣を握り締めシムの方へ近づく。


「ボス、殺しとく?」


跨っていた男は一度シムを見下ろした後片手を上げ、いや、と制した。

「こいつは殺さない。
見るからに金は持ってない。
殺す必要はねえだろう。」

その代わり、と続ける。


「俺達の跡つけられちゃまずいから動けないように手を縛っておく。」

そう言うと、持ち上げていた男がいきなりシムを地面に落とす。


「う!や、やめ、やめて、くだ、」

シムは落とされた衝撃で身体を強く打ちつける。
しかし殺される恐怖で目の前の男を怯えた眼差しで見つめるしか出来ない。


男がシムの服の襟を掴み大木のある焚き火横へと引きずり移動する。

引きずられるシムは変な体制で息は苦しく、小枝や枯葉や土を巻き込みながらどんどん着ていた服がぼろぼろに脱げかかっていく。



「俺が縛っとくから、テメェらは馬のところに行ってろ」


男の声に、他の者はシムから盗ったいくらかのものを持ちながら、はいよーと楽しげに笑いながら森へと消えていった。




男はシムを引きずり大きな木の前まで来ると、シムの背を大木に預ける。
抵抗する力も恐怖で制限されるシムは呆然と男の行動に身体を固まらせるしか出来ない。


男は自分の腰に巻いてある皮の入れ物からボロボロの縄を取り出し、シムの両手首を大木に括り付けるようにきつく結んだ。

大木に縛り付けられたシムは先程の強引な窃盗に服も汚れ脱げかかり、髪もぼさぼさと乱れ、涙の跡に土が付いて見窄らしさに磨きがかかっていた。

男は、焚き火に大量の木の葉をかける。

「良い馬をもらったぜ。
お前の健闘も祈る。じゃあな」


男は一言告げるとさっと向きを返し暗い森へと消えていく。



縛られたシムはたった今起こった怒涛のようなことに頭が到底追いつかず、動けないまま呆然と暗闇に戻ってしまった深い森を見つめた。

しかしどうやら自分は生き延びれたようだった。

呆然と全てが停止した中で、やっと得た生の実感に安堵と、思い出したようにじわじわと迫る全身の痛みに、眠るように意識を手放した。








 
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