テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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成長、彼の情

3-7

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寮の建物は目の前まで行くと思っていたよりも大きく、そして古くから建つ建物である事が煉瓦の風化具合で見て取れる、立派な建物だった。
シムは感心した様に程よく凹凸のある煉瓦の壁に手を添える。

花壇の周りの煉瓦がこんな趣のある煉瓦だったらきっととても素敵な庭が出来そうだ。
シムは煉瓦を見ながら想像を膨らませる。


その間にも小風は寮の扉の鍵を開けこっちだよ、とシムを手招きして誘導した。

「僕の部屋は一階。」
そう言いながらくいっと顎で場所を指す。

そこの扉には金属のプレートにオーデッツの名前が彫られていた。
扉はシムの想像よりもやや素朴な作りであり、憲兵隊の寮はもっと豪華なのかと思っていたため意外そうに観察する。
小風は慣れた手つきで扉を開け、シムを招き入れる。

「おじゃ、まします」

部屋に入ると、まるで小風に抱きしめられるかのように小風の香りに包まれる。

小風の匂いは清潔な石鹸と、そして言葉にしがたい、風の様な、自然に近い匂いがする。
庭をこよなく愛すシムにとって小風のそのような匂いはとても親しみやすかった。

部屋の内部はやはりシムが想像していたよりも小さく10畳程の空間に簡易的なキッチンと暖炉がついている作りのものだった。

「狭いだろ。
税で給料を貰っている僕達は、贅沢しすぎると市民にまずここを攻め入れられるからな。」

「そ、そんなことは…」

少し驚いて部屋を見ているシムを横目に見ながら小風が扉を閉める。

街を守る憲兵の寮が思ったよりは広くなかったとしても、それでも小さなベッドと小さなテーブル、そして小さな棚がぎりぎり入るシムの部屋よりは充分広い。
それをどうにか伝えようと試みるが、シムの口はうまく回らなかった。

部屋はある程度片付いている、どころかあまり物がない小風らしい部屋だった。
置いている物やカーテンの色合いの組み合わせがどこかユニークに感じた。

「適当に掛けていてくれ。」
「うん」

シムは促されるままに、小風のベッドの端にそっと腰を掛ける。
小風は箪笥に向かい適当にこざっぱりした服を取り出し始めた。

シムは部屋を見渡す。


いつも小風はここで生活をしていると思うとなぜだかとても不思議な気分になった。
今までのシムにとっての小風は宮廷でしか会わない人物のため、宮廷にいる小風以外は想像がつかない。

なのでこうして小風の部屋に今二人がいることも、普段自分の事を殆ど話さない小風の個人的な空間に自分がいることも、とても不思議な気分だった。

胸の中で勝手に関心するシムを他所に、小風は自身の制服を脱ぐ。
小風の身体は普段は制服で全て隠されているが、筋肉が適当に付きとても整った男らしい曲線美を持つ身体であった。

それは日々の訓練や激務で培った部分もあるが、どう鍛えたら何を補えるか、何が上達するかを軍事学校時代に教わり、それを今でも基礎として鍛えている部分が大きかった。

その教えを小風に施したのは小風の唯一の学友カスパル・ラザフォードであった。

”お前、剣技は凄いのに身体の使い方が勿体無いな。”


最初こそ何だこいつは、と完全にカスパルを煙たがっていたが今では再会して嬉しいと感じれるような友人になるとは小風も思ってもいなかった。

カスパルは学生時代からよく人の事を見ていた。
どんな事を思っているか、何を求めているか、何が求められているか空気を読むように汲取る事が出来る能力がカスパルにはあった。

しかしそれには重大な例外があり、自分自身の事と恋愛絡みに対しては、どうしてそうなるのかと理解に苦しむ程に察知力が欠如しているのだった。

小風が友人として隣にいるようになった頃から、小風の目から見れば明らかな恋情の数々さえカスパルは好青年らしい態度で相手の事を”自慢の友人”と言い嬉しそうに言い放ち続け、頭が痛くなることも少なくなかった。

そんな欠点を抱えるカスパルが、果たして自分の感情表現が下手くそなシムの気持ちに気付くことはあるのだろうか。
しかしカスパルがシムをどう思っているか次第では、話は別なのかもしれない。

小風は私服に袖を通しながらそっとシムを見やる。

シムは小風のベッドに遠慮がちに座り、何やら考え事に耽っているようだったが不意に目が合い、勢いよく手で顔を隠す。

「ご、ごめん!着替え途中、なのに!」

小風の半裸に申し訳なさそうに謝るシムに、男同士なのに恥ずかしい訳あるかと小風は笑った。
男同士なのだから遠慮するなという気持ちと、少しでも自分の身体を見て動揺したのだろうかと妙な胸のざわつきが何故か小風の中にあった。

「いいよ、別に。」

そう言いながら服をちゃんと着て、前の釦をとめる。
シムは私服になった小風の柔和な雰囲気に思わず息を漏らした。
小風の私服は白いシャツに薄い黄緑の木綿の羽織と、とてもシンプルな装いで、その薄い色合いが小風の肌の白さと髪の黒さを際立たせた。

「は、初めて見た。小風の私、服」

「あぁ、そうだね。
僕はお洒落には興味ないから、爺くさいだろ?」

そう言いながら近寄る小風に対してシムは力強く振り立ち上がる。

「格、好良いよ!とても、似合うよ」
筋肉も程よく付き、長身の小風にシムは尊敬の眼差しを送る。
そこまで直接的に格好良いとシムから感想をもらえると思っておらず、小風は驚いた後たまらず口元を片手で隠す。

「…うん……。
嬉しいよシム、ありがとう…」

若干照れを隠す様に、飄々と取り繕いながら小風は小さな声で礼を言う。
今まで一匹狼だった小風は、シムの大したことない言葉で喜んでしまう自分に、馬鹿だなと心で零すもこの暖かい感情の居心地は悪くなかった。








 




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