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成長、彼の情
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しおりを挟むシムと小風は、部屋を出ると早速街散策へと繰り出した。
寮を出て数十歩進めばそこはすぐは城下町の大通りで、賑やかな商店や人々が凄い数行き交っていた。
その大通りをシムと小風は特に目的もなくゆっくりと歩いた。
「す、すご、いね!
色んな色に、人や、もの」
目を輝かせながら辺りを見回すシムに、ここは宮廷に行く時にも通っただろうにと小風は思うも、あの時は馬を走らせていたのでここまでじっくり見る時間はなかったかと思い出す。
「実際歩いてみると色々と溢れ返っているだろう。
僕も、よくこの通りにある鍛冶屋で短剣の手入れを注文するんだ。」
シムは感心しながら小風の話に耳を傾けた。
小風の口ぶりから、この街はやはり小風にとっては庭に等しい空間なのだろうと推測をする。
それにしても通りに建ち並ぶ商店は、シムが今まで見た事がない模様や素材、色合いが犇めき合っており、まるで異国に迷い込んだと錯覚する景色だった。
洋服だったり、食器だったりと色々な場所から取り寄せられた物達なのだろうと想像しシムは楽しんだ。
特にシムの目に留まったのは様々な色合いや形の、石の塊をごろごろと並べた商店だった。
シムが今まで道端で見かけた石とは全て違う。宝石の類のようなものたちだ。
しかし綺麗だ、と素直に感嘆する。
小風はシムの様子を伺い、そっとシムの腕を取り石の商店の前まで誘導してやる。
シムは不意に誘導されたことに驚いたが、到着地が今自分が気になる店の前だったので、何故小風にここが気になっているのが分かったのだろうと驚いて小風を見上げる。
小風もその視線を察知したのか、飄々といつもの態度で相も変わらず無表情のような涼しい顔で首を傾げた。
「あんなにキラキラした目で眺めていたからな。
シムはよく見ると分かりやすいよ。」
シムは現在に至るまで分かりやすいなどと言われたことは勿論なく、感情も言葉もパッと出せない自分を常に恥じている男だが、今の小風の言葉に言い知れぬ熱さが胸をじんわりとさせた。
嬉しい。
シムは思わずはにかむのを抑えられなかった。
シムは小風に街へ連れてきてもらって、こうして気にかけシムの欲しい言葉をくれる。
こんな友人からの幸せがあっていいのだろうかと、シムは嬉しくてはにかみが抑えられなかった。
はにかむシムに小風は少し頬を染めるも、すぐに優しい眼差しに変わり、そっと背中に手を添えた。
「ほらシム見てごらん。
この国ではあまり見ないけど、これは全部石だよ。」
シムは小風の添えた手に促される様に近づいて石を見つめた。
それは薄ら透明で、桃色に色づいており石ながらに美味しそうに見えた。
「綺麗…。」
「この石達はバロニアという、この国の近くにある国で取れる変わった石だよ。
鉱山の中で宝石にも石炭にもなれないまま、ミネラルが凝固した化石の様な物だ。」
「バロニア…。」
あまり耳に馴染まない国の名前に、そんな名前の国が近くにあったのかという驚きと、改めて自分の教養の無さにシムは恥じ落胆しそうになる。
「この石を一般的にはバゴという。
バロニアの言葉らしいが、このバゴは庶民の宝石変わりとしては人気なんだ。」
そう言って小風は手に取ってみせる。
小風の取った水色がかったバゴは乳白色に近く、荒削りのままなのでごつごつと石らしい質感が手にありありと伝わる。
「バロニアは、豊かなん、ですか」
シムは尚も石を見つめながら問う。
小風は少しだけ目を見張る。しかしすぐに、あぁと返事をシムへと返してやった。
「豊かな資源国家だよ、この国だって燃料や材料はバロニアからの輸入が殆どなんじゃないか?」
そう言いながら再び小風はシムを盗み見る。
今の小風の短い説明でバロニアが鉱山を沢山有する国であることを、きっと商店に並ぶ様々な石の多さと、それが庶民に下ってくる程余っているということを推測して豊かであるかを聞いてきた。
頭は悪くないな、赤ん坊だが…とシムをそっと観察する。
「じ…じゃあ、さっき見か、けた、綺麗な模様、の服は、どこの国の、もの?」
「先程のは…確か、ルージッド国の物だ。」
ルージッド、これは何だか聴いた事がある気がする、とシムは少し考える。
「ルージッドはレグランド程人は多くはないが、世界最古の芸術学を有する。
古い歴史の国だな。」
「芸術学、とは」
シムは古い歴史を積み上げてきたルージッドという国に少しばかり興味が湧く。
単純に古くから存在する国という御伽の国の様な雰囲気にロマンを感じていた。
「その名の通りだよ。
美術、音楽、作法、舞踊、剣技。
美の誕生と言われる芸術学の最初の書はルージッド国が作ったとされている。」
「へぇ…そんなものが、あるん、だね…」
そしてここに集められた商品達は皆それぞれ想像も追いつかない程に全く違った時間軸の中で、ここに奇跡的に集まっているのか、とシムは感動で胸が高鳴る。
「この通りに出店しているのはバロニアとルージッドの者が多い、まあ出稼ぎなんだが。
もっと君が喜びそうな所へ連れて行って上げよう。」
そう言って小風がシムの背中から手を離した時、シムのお腹から悲しげな空腹の音が聞こえてきた。
シムはカッと顔を熱くし急いでお腹を抱き込む。
「す、すみません……」
下を向きながら耳まで赤くして恥じる友人に、小風は口に手をあて少しくすりと笑った。
「君が喜びそうな所の前に、お昼にしようか」
「カスパル様、ここは庭師が手入れ中なのです!
くれぐれも、くれぐれも入らない様に!」
腰の曲がった老人神父ベイジルは、屈んで庭を眺めていたカスパルに対して杖を振り回して迷惑そうに釘を指してきた。
カスパルは立ち上がって一歩下がる。
カスパルはベイジルに杖を振り回される少し前、ジェーンの休む病室を後にし、やはりシムの顔を見たいという気持ちが抑えられず図書館に足が向かっていた。
しかしその図書館にはお目当ての人物の姿はなく、紙の匂いと静寂が部屋を充満させていただけだった。
図書館にいないのであれば教会の庭にはいるだろうと庭まで出向いたが、そこにもシムは見当たらなかった。
いない事に対して驚きはしたが、シムだって休みたい日もあるだろうと思い、完成に近づいているシムの庭を少しばかり眺めてから司令塔の自分の仕事部屋に戻ろうと考えた。
カスパルはベイジルに追い出された後、一人で司令塔までの道のりを歩く。
以前図書館で少しシムとした会話を思い出した。
”神父は、とても怖いです。庭はいらない、とも、言われました。
けど、とても教会を、愛しているんだ…なって”
カスパルは優しげに目を細めてシムを想った。
先程カスパルに釘を刺したベイジルは、庭に興味なさそうには見えなかった。
それよりも作りかけの巣を必死に守ろうとする親燕のような凄みさえ感じたほどだ。
シムは、シムの言葉以上に上手くやっていると思う。
シムは無意識に人を巻き込み、変えられる才能がある。
シムがここで頑張っているのだから、カスパルも立場がなくなりかけジェーンを支える事ぐらいで音を上げている場合ではない。
カスパルはシムの真摯に向き合い続ける姿勢に勇気を貰ったのだった。
「俺も頑張らなければ…。」
吹っ切れた様にカスパルは呟きながら司令塔へと歩いていく。
その顔色はその言葉とは打って変わって疲労が隠しきれていないのも否定できないが、シムに勇気づけられたカスパルは元気ではあった。
「…。」
それを物陰から見ている人物がいた。
その人物はカスパルが見えなくなるまで物陰でじっと息を殺し、見えなくなってからすっと立ち上がる。
「…隊長……っ。」
男は疲労を湛える上司カスパルの顔を見送り、悔しげに顔をしかめる。
男の名はセス、護衛軍に入隊を果たしてから僅か一年の赤髪の少年はカスパル・ラザフォードの部下であった。
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