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成長、彼の情
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しおりを挟む正午、常に騒がしい城下町はさらに活気を見せる。
人を隠すなら人の中とは上手く言ったもので、夜更けを除くと大胆にもこの時間帯に不法侵入を目論む不届き者も現れる。
そんな者達と顔を突き合わせ頭を悩ませる者も同時に存在した。
王都の大門には国外や地方からやって来た者達で長蛇の列を作っていた。
通常よりも列が長いのは言うまでもなく建国パーティーのせいで、国民も記念日として制定されている上に人が集まるこの日に路面店を出して一儲けを期待する者達で賑わっていた。
丁度列の先頭には薄汚い女と誑しそうな男と大量の洋服の荷が乗った貨車。
漆黒な制服を見に纏い目深に黒い憲兵帽を被った小風が何時もよりも目を吊り上げて男を見下ろしていた。
「荷物を見るぞ。」
それだけ言うと自身の懐から短剣を取り出し、貨車に括り付けられていた縄を容赦なく切る。その姿に男は慌てた様子で「ちょっと!」と声を荒げる。
「見りゃ分かる通りただの服ですよ!
服が切れちゃったらどうするんです旦那~!」
間延びのする話し方に小風は冷たい視線を一度送り荷物の検品の手を止めない。
荷物が服だけにしては荷物が多すぎる、それに加えて貨車の車輪が随分と頑丈な部分にも目が行った。この頑丈な車輪を付けた貨車は本来はもっと重いものを運ぶために用いられることが多い。
小風は一度動きを止める。
詰め込まれた服のあらゆるポケットから飴のような物が詰め込まれている事に気が付く。
「おい、何故こんなところに菓子があるんだ。」
「そ、それは買ってくれた人へのおまけですよ~。
結構そのサービス人気なもんで、へへ。」
明らかに嘘と分かる説明をぺらぺらと述べる男に呆れたように溜息を吐いて腕を組み考える。
これから検問する長蛇の列への牽制の意味もあるかもしれない。この男の荷物の中のお菓子とやらは所謂麻薬かそれに準ずる物に限り無く近いだろう。
いっそ今服を全て並べさせ不審物を回収すると共にこの様な小賢しい事をした者は見せしめに公開処刑されるという事を列の者達に見せる良い機会かもしれない。
「菓子の中身を開けるぞ。」
そう言って小風は菓子を手に取り袋を開けると同時に男も「やめろよ!」と遂に声を荒げる。
やはり出て来た物は小風が想像する通りの、菓子でも何でもなく何かの植物をすり潰したような白く細かい粉であった。
どういう事だ、と強く男を睨みながら男の持ってきた服の山を叩いた。
小風の恐ろしい一挙手一堂に男は肩を震わせて怯える。
「これ、今直ぐ全部出せ。
そしてこの地面に並べろ。」
そう言い放ち、小風は傍らに置かれた小さな椅子に腰掛け、入国禁止のリストを書き加える。
その間にも男はおろおろと動じないまま並べようとはしない。
小風は一度大門の横に控える同僚達を呼び荷物の取り出しを手伝う様にお願いをした。
「分かったそれは確かに葉っぱだから!全部出すから捕縛だけはしないでくださいよぉ!」
必死に止める男を憲兵達が振り払い服を取り出すと、なんと服の荷物の中に隠れて膝を抱え小さく隠れた成人男性が出てきた。
「誰だ貴様!!」
それを発見した憲兵の男は直様自身の懐に備えた剣を取り出し構える。
その声に小風も立ち上がりつつ短剣を握り直した。
中に隠れていた男も震えながら両手を挙げそろりと外へ出てくる。
こうなっては軽い騒ぎの様に並ぶ者や行き交う民の者が憲兵と男と服の荷物を取り囲み野次馬の群れを成していた。
なんだなんだ、何が起こったんだと騒つく声に埋もれもせず凛と厳しい小風の低い声が響いた。
「こいつは何者だ。
麻薬の密輸に加え不法入場の手助けとは、覚悟は出来ているんだろうな。」
そう眉をひそめ軽蔑を露わにしながら服屋の男を嗜めると男はおしまいだ、と呟き全ての罪を認め始めた。
「全部没収、この二人も縛ってこちらへ連れてきてくれないか。」
小風は憲兵の同僚にそれだけ告げ、先ほどの椅子のある場所へ短剣を仕舞いながら戻る。
同僚も小風に言われた事に対して何一つ嫌な顔せず男の両腕を掴んで縄をかけていった。
小風は非常に淡白にそして事務的かつ冷静に残酷な事を告げる事も出来る。同僚に対しても同じであった。
誰にも決して媚びを売らず平等な態度を取るためにこういった検問に関して、周りは小風に強い信頼を得ていた。
「それで、あの隠れていた男はバロニアでは詐欺で指名手配中の男。
この国に亡命する筈だった…と。」
「麻薬を流してくれているお得意さんが、どうしてもって頼み込んできて…断れなくて…」
そう尋問をしつつ、先程の書類を整える。
最後に小風の“キンバリー”というもう一つの名前をサインし、憲兵の証である軍印を押し男へ差し出した。
「君はこれから留置所に連れて行く。そこで刑に処するか国に引き渡すかが決まる。
もし国に引き渡されても5年間は入国を禁ずる。
それから中に隠れていた男は、このままバロニアに輸送する。
いいね。」
そう告げると男は全てを諦めた様に肩を落とし、只消え入る様な小さな声ではい、とだけ答えた。
「それじゃあキンバリー、こいつら連れてくからな。」
横に控えていた同僚が男の拘束された縄に手をかける。
小風は一度頷き、よろしく頼むと返した。
男を連れ出す同僚とはまた別の憲兵の男がすれ違うように中に入って来た。
「おいおいキンバリー、こんなに野次馬集めてやり過ぎだろう。」
少し笑いながらデスクに手をつきながら語りかける。
「個人的に制裁している訳じゃない。
不審物や不審者は入国させてはならない、それを守っているだけだろう」
小風は憲兵の男に目もくれず、長く続く列を見やる。
先程の軽い騒ぎで何やら荷物を持って列から外れる者が少数確認出来た。
見せしめにして大体は成功と言ったところか、引き留められ捕らえられる心当たりがある者をわざわざ逃がしてやっているのだから早く尻尾を巻いて逃げてしまえ、小風はそう思っていた。
「まあそりゃあそうだけど、こんな事をしていたらこの列は一生解消されないぞ?」
「解消させなくてはいけないとは言われていない。
君こそ、僕に何か文句がある理由が何なのか聞いてもいいか?」
小風は相変わらず飄々とした態度でそう言いながら音を立てずに立ち上がる。
立ち上がれば小風は長身のため、食ってかかる男を見下ろす形となり、男はバツが悪そうに頭をかいて目を逸らした。
「分かった分かった…、お前の言う通り、全部お前が正しいよ。」
小風は憲兵の男を感情の読めない瞳で見つめる。
馬鹿は自分の思う通りに話が運べないと判断した途端相手を全て肯定し全ての非を認めてやるという小癪な姿勢で思考を停止させる。
まさにこの男はその典型だな、としみじみ考えていた。
「キンバリー!そろそろ午前中のリストと書類を司令塔へ持っていかないと行けないんだが、行ってきてくれるか?」
遠くの方から小風の先輩にあたる憲兵から声がかかる。
その声に2人はそちらの方へ顔を向けると、先輩の男が次いで顔を出した。
「おい、二人とも喧嘩か?
どっちから始めたたんだ?」
先輩は怪訝な表情をし、仲裁に入ろうと2人を交互に見るが小風に食ってかかる男は、へらりと媚を売るかの様に笑った。
「喧嘩だなんて、嫌だな先輩!世間話ですよ~。」
小風は唐突に態度を変える男を呆れた気持ちで横目で見るも、ここで自身のコメントまでの述べることに何ら得を感じない為口を閉じることにした。
「そうか?ならいいんだが。
キンバリー、書類を司令塔まで頼むぞ。」
少し安堵した表情で先輩にあたる男はキンバリーの肩を軽く叩く。
小風は一つ頷き、デスクに置かれた書類を整えて抱え二人とすれ違い検問室から抜ける。
「…ふん、異民め。」
その瞬間、先程いちゃもんをつけてきた男が小風にだけに聞こえる極小さな声でそう耳元で囁く。
小風は思わず目を見開いた。
「今…」
言葉を漏らしながら慌てて後ろを振り向くと男はもう既に小風のことなど見ていなく、先輩の男に「先輩~」と馴れ馴れしい態度で擦り寄っている背中だけがあった。
慌てて後ろを振り向いた反動で持っていた書類の一部を外へ出た後に地面に落としてしまい、直ぐにしゃがんでそれらを拾い集めた。
小風を異民と蔑み嫌な目を向ける者は少なからず存在することは重々承知しているが、同じ憲兵の中でも明らさまに態度で示してくる者がまだ居た事に小さく驚愕していた。
それに加え、憲兵の同僚達が自分一人を除いて、いつの間にか前よりも団結している空気さえも感じていた。
そう考えると色々と節々で些細な違和感を感じていると自覚し出した。
はたしてあの男は先輩にあんなにまで媚び諂う様な性格であったか。
はたしてあの先輩は喧嘩の仲裁に入る様な奴だったか。
自分の記憶や雰囲気の思い違いの所為なのか。
「異民…か。」
ここ最近ではカスパルやシムと穏やかな時間を過ごすこともあるせいか、自分が一人で出で立ちが違うことを忘れかけていた。
その時、ふと検問室から声が聞こえてきた。
「そういえばイリスからの、聞いたか?」
「はい、今晩ですよね。」
小風は体制を整えながら聞こえてきた名前に首を傾げた。
イリス、誰だろう。
憲兵にそんな名前いただろうか、と。
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