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成長、彼の情
3-39※(流血表現あり)
しおりを挟む小風はシムを教会の庭に置いて、来た道を辿る。
再び護衛軍本部の司令塔前まで戻ってきた。
そこはやはり先程と変わらず、誰もいないただの巨大な塔が暗闇にそびえ立っているだけだった。
小風は報告書を片手に持ったまま別の手で頭をかく。
(いくら建国パティーだからと言っても警備が手薄すぎないか…?)
総出で会場の警備に当たっているとはいえ、情報の中枢に変わりないこの塔がここまで静かなことに、不吉な予感が小風をかけ抜けて行く。
しかしここで報告書を持って待ち続けても解決には至らない。
小風は仕方なく城下町へ戻ることにした。
従業員専用の道も誰一人としてすれ違わない。
「おかしいな…」
従業員用の出入り口まで辿り着くとそこにも必ず居る筈の門番がいなかった。
しかし争った形跡や攻撃を受けた形跡はなく、まるでそこには最初から誰もいなかった様に小ざっぱりしている。
小風は表情を静かに引き締め、報告書を門番がいる筈の椅子に置く。
常に腰に備えている細剣に片手を添えた。
「何かが起きている…?」
もしも何かの理由で憲兵が動けない状況であるならば迅速に動かなければならない。
小風は歩く音を消し、静かに門を開けて外へ出た。
門の外は意外にもいつも通り活気付いており、小風は一瞬拍子抜けする。
皆わーわーと笑い大声を出しながら、例えるなら祭の様であった。
そこは国民のいつもの景色と変わりなく、否いつもより元気な陽気な雰囲気さえある。
群衆も建国を祝っているのだろうか。
自分の思い過ごしだったのだろうか。
「あの…、」
小風は剣を離し誰かに声をかけようと歩き出そうとしたところでやはりその足を止めて冷や汗をかいた。
おかしい。
子供がいない、憲兵がいない、老人がいない。
若者しかいない、そしてこの異様な盛り上がり。
その時小風は未だかつてない悪い予感に身体中の血がさっと引いた。
瞬間、突然すぐ近くの建物からとてつもない轟音と衝撃、そして炎と瓦礫が吹き飛んで来た。
「くっ…!!」
小風は痛い程に襲ってくる振動にその場で身をかがめ剣に手を添えるが、耳の鼓膜を痛めたのかその衝撃で強い耳鳴りに見舞われ顔を顰める。
街にいる者達はたった今爆発が起こったというのに、活気もそのままだった。
むしろ、その突然の爆発音がまるで合図だったかの様に皆一様に掛け声を上げて行く。
「おー!!!」
「私たちの未来のためにー!!!!」
「生きる俺たちのためにー!!!」
「なにを…!」
小風は突然声を上げていく群衆に向かって思わず駆け出す。
しかしとても異様な盛り上がりを見せる群衆を前に歯も経たず小風の存在はかき消される。
「また落ち合おう!」
「女神の加護があらんことを!」
民衆達はバッグやポケットから様々な形状の液体が入った瓶を取り出し、それぞれの方角へ走り出す。
人数も五十六十はくだらず、凄い数の人が四方八方に散らばる迫力に圧倒される。
目の前からすり抜けて行く様相を前に、小風は焦燥感にかられた。
「駄目だ、その場から動くな…!
何をする気だ…!」
小風の焦る声は走る音と街の雑音で容易に誰にも届かない。
このままでは何も出来ず、ここで誰にも届かない声を出し続けることになる。
小風は慌てて走り回る街の者達の一人を追いかける様に足を動かした。
追いかける間にも街を見渡すと、女や子供はそれぞれの家に避難して建物の窓からそっと覗いているのが見えた。
その様子からやはり街の者達は今起こっているこの事態を事前に把握していたことと、知らなかったのは宮廷の者達と自分自身であることを思い知る。
その間もごく近い距離から聞こえてくる爆発音と振動でよろめきながらも小風は必死で追いかけて行った。
皆がまとまって向かう先には大きな屋敷が見えた。
煌びやかな装飾に白い大理石を基調とした門と塀、間違いなく貴族の屋敷である。
その門の前に立つお抱えの門番が被っている帽子の紋章からこの屋敷がレグランド国でも強大な権力を握る貴族、バイロン家の屋敷である事が伺えた。
バイロン家で従事する者達は暴動など露知らず、門番も動揺した様に震える手で剣を構えた。
「な、なんだお前達は…!?」
「門番を殺せー!」
「邪魔だどけ!!」
門番は突然押し寄せる群衆を前に、なす術なく誰かが投げた石の毒牙にかかる。
「がはっ…!」
石が頭に直撃した門番が衝撃と痛みに膝をつくのを、もう一人の門番が「おい!しっかりしろ!!」と駆けよろうとするもその時には既に群衆が門前まで到達してしまい、もう一人の門番も一人の振り上げられた農作用の鍬で頭を強く殴り抉られ即死した。
その行動を皮切りに一斉に皆が門番に詰め寄り持っている鍬や包丁や石やら武器と言い切れない道具達で痛々しい程に打撃を与えて行った。
直ぐ後ろで目撃した小風は、急いで群衆を掻き分けて門番の元へと駆け寄ろうともがく。
「やめろ!!殺すんじゃない!!」
力の限り叫んでも群衆の圧力にはどうにもならず、群衆の一人が「投げろ投げろ!」という言葉が伝言ゲームの様に広がり皆の視線が向こうの屋敷へ移る頃に漸く小風は門番の前まで辿り着いた。
その頃には小風の身なりも肌も群衆に揉まれに揉まれ幾分ぼろぼろになっていた。
「おい、大丈夫か!意識はあるか!」
急いで屈み込み血だらけで倒れている門番の顔を伺う。しかし門番はどちらも既に絶命しており、顔面は原型を留めておらず目から口から鼻から大量の血と折れた歯を垂れ流している。
想像し難い恐怖の最期だったのだろう、白目を剥いて死んでいた。
あまりに凄惨な死に顔に、小風は唇を震わせた。
人を殺すことへの障壁が決壊しようとしている。
群衆は投げろという合図で、皆が手に持っていた瓶の蓋からはみ出る布に火をつけて何個も何個も投げ込んでいった。
「逃げろー!!」
「次は西だぞ!」
瓶を投げた瞬間、軽快な足取りで直ぐにその場を後にしていく。
凄い人数にも関わらず尋常な速さで撲殺された門番達と小風を置いて、けたたましい足音を響かせて街の路地へと次々に消えて行った。
間違いない、貴族が宮廷にいる間の隙をを狙った反乱。
小風は眉を強く寄せながら門番の目を瞑らせた。
その時、間近で起こった爆発と爆風に小風はその場から吹き飛ばされた。
「ぐぅっ…かは…!!」
屋敷と反対の外壁に強く叩きつけられ、あまりの衝撃に激痛で身を屈めた。
凄まじい衝撃と爆風で周りの建物達や吹き飛んだ様々な破片が小風の全身を襲う。
横腹を強く押さえながらゼーゼーと息をし、前を見上げると屋敷は先程投げ込まれた幾つもの爆発物の影響で酷く損傷しけたたましく炎上していた。
街から幾度も聴こえる爆発音は恐らく今目の前の屋敷と代わりない事態が他の屋敷でも起きているのだろう。
小風はふらりと蹌踉めきながら立ち上がる。
自身の来ていた憲兵服を脱いでシャツ一枚になった。
爆発で叩きつけられる前の位置まで戻ると撲殺された門番達の死体はさらに損傷し、辛うじて原型を留めていた身体も吹き飛ばされて一部肉塊と化してしまっていた。
小風はその門番達に上着を被せて立ち上がった。
オーデッツの屋敷が危ない。
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