テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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無力の力

4-40

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王都、宮廷の前に憚る巨大な壁。
そこに沿う様に建てられた建物はどれも立派で作りも良く、宮廷前に相応しい出で立ちであった。


その建物の中には高級なブティックなどが入っているが、庶民はあまり寄り付かない。
寄り付くお金も持っていない為、その辺りに用がある庶民は建物の前に出された露店などでの買い物か流しで売り歩いている者たちとその客が多かった。

しかし宮廷の正門の前はやはり一番人が集まる場所でもあり、警戒が一番強い場所で、そこは常に雑多で混雑していた。


「ラナダ…探したぞ。
そんな所で何してんだよ。ったく…」


ラナダと呼ばれた少年の兄、レインはうんざりした様に宮廷を見上げた。
そこは建物裏手にある従業員用の裏門だった。

ラナダは、もうすっかり萎れて茶色に変色した花だったものを握りしめながら、小さな体を小さく丸めて座っていた。


「きょう、にいちゃが来るきがして待ってるの」


にいちゃ、と言うのはシムの事だと察したレインは溜息を大げさに吐いて見せた。

「来たとしてもこの場所は危ねえだろ。
いつこっちと国が衝突するかわからねえんだぞ!」


ラナダに向かってコソコソ話をするように声を潜めて投げかける。しかしラナダは寂しそうに花を見つめた。

「でも…、待ってないと…あえない気がするんだもんそ。」

全く言う事を聞く気配のない弟に大きな溜息を吐いた。

しかしこの宮廷の前と言うのは本当に何時何が起こるか分からない場所。
身寄りのない二人は極力そういったものには巻き込まれるのは避けたい。

レインは心を鬼にしてラナダを強引に抱き上げた。


「我儘言ってんじゃねえ!帰るぞ」
「やだー!にいきらい!はなせー!」

じたばたと暴れる身体を封じ込める程にはレインの腕力もあるのでそのまま宮廷から遠ざかった。


なるべくここを離れておかないと。

そう思いながら足早に歩きながら街の様子を観察する。
最近増税が発表されたが、特段街は平和なように見えた。

(案外穏やかだな…)

以外に思いながら少し安心する。
しかしそれと同時にどこか胸がざわざわと危険を感じた。

平和過ぎる。

そう思った瞬間、今歩いている街の露店が並ぶ端々にそれぞれ同じ形の木箱が一定数置かれている事に気が付いた。

「おいおい、皆同じ物売ってんじゃないだろうなぁ…」

不審に思われない様に木箱の中をちらりと見ると、ぎっしりと何やら酒瓶の様なものが綺麗に整頓されている。
しかしこの木箱の置かれている出店は反物の店だった。

反物の店に酒瓶?

レインが思わずそちらに集中した時、肩に抱かれていたラナダは一層暴れ地面に転がり落ちた。

「あっ!おい!」


ラナダはレインに捕まらない様に、直ぐに裏路地に向かって走り出す。

レインも慌てて追いかけるが、どうにも酒瓶が気になり何度か見返してしまったためすぐに追いつく事が出来ない。

すばしっこく走って逃げるラナダだったが、建物裏のゴミ置場で足を止めた。


「にい、これなんだろう?」


ラナダが何かを見つけたらしい。
レインは直ぐに跡を追い、やっとラナダの横まで辿り着いた。

「お前本当逃げ足だけは速いんだから…」


そう言いつつラナダの目線の先を追うと、汚れた麻の布で包まれもごもごと動いている何かが捨てられていた。

「ねこかな?いぬかな?」

そう言ってラナダは布を捲った。

その中にはまだ生まれて間もない赤ん坊が、大層煌びやかな髪飾りを握りしめたままこちらを見上げていた。

「わぁ!あかちゃんだっ!
かわいい!」


ラナダは直ぐにしゃがみこみ赤ん坊を抱き上げたが、レインは赤ん坊の手から髪飾りを取り上げた。

「この髪飾り…そこら辺の金持ちの物とは訳が違うぜ…。
なんでこいつがこんなの持ってんだ…?」


捨てられた赤ん坊にはあまりに不釣り合いな代物だ。
レインはあまりこの髪飾りに触れない方がいいのではないかと思うも、この赤ん坊の唯一持っている物を捨てる訳にもいかない。
しかし売ったらそれも足がつきそうだ。

「にい、この子いえにつれてってあげよう?
かわいそうに、すてられちゃったんだねぇ」

小さい弟が小さい赤ん坊をあやす姿は愛らしいとレインは思う。

どうせレインもラナダも、街の友達も含めて自分たちが暮らす地域は孤児が多い。
赤ん坊が一人増えても別に大した事はないだろう。

「しょうがねえな。
連れて行こう」


頭を掻きながらレインはラナダから赤ん坊を取り上げ抱き込んだ。
そして片方の手でラナダと手を繋ぐ。


その後ろ、宮廷脇の小さな出入り口から一人北の方へ向かう人影とは出会わないまま二人は再び帰りの道へ歩き出した。









 

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