テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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愛について

5-31

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イリスと小風率いる幹部達は街にくり出し、それぞれ隠された火薬瓶や武器を見て回った。

「もういつでも決行出来るよう準備万端よ。」

「捕虜達も今夜時計塔の麓で一斉に解放する予定だ。
それで人手が集まったら宮廷を一斉に襲撃しよう。」


巡回しながらそれぞれの報告をイリスは頷きながら頭に入れていく。
その側で、小風も自分が捕まっていた間の状況と現在の辻褄合わせをしていた。

暴動の準備の規模、そして士気の高さに、国民の本気度がひしひしと伝わった。
国民たちがかき集めた武器たちは決して非力ではなく、それらを一斉に使い込めば例え国一の豪奢な宮廷と言えど、確実に護りは崩されるだろう。

貴族達や国王お抱えの私軍に加え護衛軍の防衛で侵入は辛うじて防げるかもしれないが、どちらにしろお互いただでは済まない。


「……。」

そうなってしまった場合、宮廷にいるカスパルとシムの安全も全く保証出来ない。


皆が国王と王妃を拘束する事に躍起になってくれれば、その隙に逃がす事も出来るかもしれない。

小風はじっと考えを巡らせるもあまりにこちら側の武力が優勢に見え、危ない賭けだと感じた。

正面衝突を果たす前にあちら側の武力をなるべく削り落とす必要がある。
大人しく降伏させる順序を立てておかないと互いに大量の死者を生み出してしまう。
それは反政府側も本意ではない。



「…キンバリー。
俺の話を信じてくれて有難う…。」


小風だけに聞こえる様に話しかけるイリス、本来の名はセス。

先日セスが小風に告げた、ここでイリスとして反政府を先導する意味と理由についての事だと小風は察した。

「いや、今君と行動した方が僕も都合が良いんだ。
僕も助けたい子がまだ中にいるからね。」


セスは少し帽子の下で「一緒ですね。」と少し呟き、少しだけ微笑んだ。


「あ!イリス、いたいた!」

一人の男がイリスに近寄って来た。
この男は国民に武器を秘密裏に供給する役割を担っている男だった。

「ちょっとイリスに相談があってよ。
一緒に来てくれねえか…?
公にしていいかちょっと俺じゃあ判断つかないことがあって……」

イリスはその男の言葉に眉を潜めた。

「公にしていいか判断がつかない事…?」


男の言葉を一緒に聞いた小風もイリスの横に立ち様子を伺った。

「僕も一緒に行こう。」
「あぁ、別にいいけどよ…。
こっちだ。」

そう言って男は歩き始めた。


大通りから小道に入り、さらに一段また一段と階段を降りる。
陽の光もあまり届かない様な建物の隙間に位置する、中途半端に朽ちた廃墟に案内された。

そこにはとても体格の良い私服の男達が、武器とともに屯ろし何やら穏やかに語らっていた。
近寄る音に皆気付き、一斉にイリス達の方へ視線を向ける。



「…そ、そんな………。」

イリスは途中で立ち止まった。
案内した男はイリスに向き直り男達を指差した。


「イリスさん、あいつらですあいつら。
武器を持って来たっつって、今朝俺に話しかけて来たんです。

街で見かけねえ奴らだし、武器の入手経路も分からねえし…。
信用に欠けるんで一旦ここで待ってもらってたんですけど…」


男の言葉を聞いているのかいないのか、イリスは固まったまま微動だにしなかった。


「……こ、この件は、…預かる。
お前とキンバリーは……下がってくれ…。」


イリスの声は震えていた。

小風は「…分かった。」とだけ短く答え、連れて来た道を男と共に戻っていった。





イリスは背後で去って行く気配を感じながら、微動だにしないまま口を開く。

「ど……どう言う事ですか…。」



その言葉に反応した男達の一人、ダーキンは人の良さそうな笑顔をイリスに向けて来た。


「その声は、セスだな。
いや…今は”イリス”って呼ばれてんのか?
ったく、何で俺達に何も言わず出て来たんだよ。」

「っ…何故、どうしてですか?
宮廷を守っているんじゃ…」


イリスは自分が何をしているのかバレた恐怖よりも、何故護衛軍の者達がこんな場所で、その様な身軽な格好をしているのか、武器を持ち出し街にいるかさっぱり分からず酷く動揺した表情を見せる。

ダーキンは困惑する帽子を被ったセスを見て少し笑い、胸のポケットから紙切れを取り出した。


「今、カスパル隊長どうなってるか知ってるか?
…知らねえよな、お前はあの日宮廷を去ったんだから。
隊長はな、今護衛軍から離されて国王専属の護衛として宮廷に残っているんだ。
皆に悪魔だの、国王の駄犬だのと戒められながらな。」

「ああ…、
そ…そんなっ…隊長…」


ダーキンの言葉に、イリスは膝から崩れ落ちた。

やはりただでは済まなかったのだ。
最悪の事態に辿り着いてしまったのだ。

崩れ落ちたイリスの身体を慌ててダーキンが腰を持ち支えた。


「俺達は隊長の手紙で宮廷を出る選択をしてきた。
だからここにいる。

…お前に会えたら見せようと思ってな。」


そう言ってダーキンは手に持っていた小さな紙切れをイリスの手に握らせた。


力の入らない手で、くしゃくしゃになった紙切れを開く。
そこには懐かしく穏やかな記憶から呼び出されたかの様に、カスパルの字が並んでいた。




”俺はこの国を心から愛しているし、お前達を心から大切に誇りに思っている。
皆の隊長ではなくなろうが、会うこともなくなろうが、私は愛する者達を護る為に全力を尽くすことを誓う。
そして誰かが罪を被る前に私の手で終わらせようと思う。

お前達もこの国に縛られず、中身のない命令に縛られず、愛する者を大切に生き続けて欲しい。
ーーもしも王都に行く時があれば、そこにいるかもしれない宮廷を去った大事な末の部下を支えてやって欲しい。”



「隊…長、っ…うぁあぁっ…!」


カスパルの字を追う毎にセスは大粒の涙が次から次へと溢れ落ち、終いには顔を掌で覆いながら息ができないほどの嗚咽を漏らした。


カスパルはセスが何かしらに関与している事に気付いていた。
しかしそれを直接責めずに見守ってくれていたのだ。

側に置き、介抱し、決して無理に探らずセスの様子を見ていた事を知り、セスはただただ帽子の中で涙を零した。







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