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愛について
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しおりを挟む正午過ぎ、シムは腰に残る違和感を堪えながら図書館まで来ていた。
母子の身体に関する本や出産に関する本をなんとか探しあて、乳母用の手解きも四苦八苦しながら読み解いていく。
「…もしかしてジェーン様が言っていた事って…。」
そのページには出産前に起こる妊婦の身体の変化について記されている。
その中で出産前に起こる前駆陣痛と言う症状についての項目があり、ジェーンが不安がっていた事はこれだったのかもしれないと感じた。
そしたら今はもう度産気づいているのではないだろうか。
途端に不安になったが、医師が側についているだろう事を思い出し、急ぎながらシムは今はジェーンの身体の状態をもう少し調べることに必死になった。
そして地図を広げ、テューリンゲンまでの道のりを頭に叩き込む事に専念した。
妊婦と乳児に関する本を必死に読み漁り、何とか文字を読み解き理解していく。
ノートも鉛筆もないので頭で記憶するしか術がなかったが、今のシムの集中力は並はずれたものがあった。
取り急ぎ本を読み漁り、急いで戻し地図のある場所へと駆け寄り大きく分厚い地形の本を開いていく。
一度シムもテューリンゲンから王都までの道のりを体験している。
鮮明に記憶しているかと言われると怪しいが、大体は延々と続く大きな森だ。
不安要素は唯一、シムを襲って身包みを剥がして来た盗賊である。
あれと再び遭遇してしまったらシムには対抗する武力がない。
カスパルに頭を下げてジェーンを逃亡させる手助けをしてもらうか。
シムがどうにか懇願出来る有力な武力と言ったらそれしか思い浮かばない。
しかし…
シムはカスパルを無駄な危険に合わせたくもない。
ましてジェーンを逃す事はシムの我が儘だ。
巻き込む事に申し訳ない気持ちもある。
「…でもそんなこと言ってられない、」
生まれたての乳児と出産直後のジェーンを危険に晒す方が避けるべきことだ。
シムはカスパルに頭を下げて協力を仰ぐ決意をした。
「確か…俺が襲われた場所は…、」
シムは最早遠い記憶となりつつある盗賊との遭遇現場を一生懸命思い出しながら大体の予想を地図上で示し合わせている時、不意に図書館の大きな木の扉が開く音がした。
カスパルさん?!
シムは慌てて地図録を閉じ目を見開いた。
カスパルの部屋を勝手に出た事がばれたのだ。
ここにいるだろうと見当をつけたカスパルが自分を怒りに来たのだ。
シムは、はぁ…と溜め息を吐き、恐る恐る後ろを振り返った。
しかしその扉の前にいたのはシムの予想した者ではなかった。
「…ッ…!」
シムは大きく心臓を跳ねさせて慌てて自分の口に手をあて、物陰に隠れる。
幸い向こうはまだシムの存在に気が付いていない様だった。
どうして、どうして…
シムは動揺した眼差しで相手を見やる。
ドクドクと全身に伝わる心臓の音はとても嫌な感じがした。
震えそうになる足を何とか動かし、より死角になりそうな場所をじりじりと探した。
扉を開けた人物、レグランド国王は長いマントを引き摺りながら目当ての場所へ迷う事なく向かい、何やら古めかしい年季の入った書物を取り出しては机に積み始めた。
「…ん?」
国王は不意に手を止め、地面に落ちている大きな地図録の存在に気付き怪しげに声を漏らした。
シムは物陰から地図録をそのままにしてしまっていた事に気付き浅い息がさらに浅くなる。
「…誰かいるのか。」
国王の硬質な声は静かな図書館に響く。
シムは勿論身動きが取れなくなった。
シムは今許可されていない時間帯に図書館の中へ侵入している事になる。
ましてや身分の低いシムが最高権力者である国王と同じ場を共にする事は、いとも簡単に重罪になる。
国王は地図録の置かれた地面を辿る様に見やり、ゆっくり近づいて地図録を手に取り机に上げた。
「誰かいるのだろう、」
国王は威嚇する様に辺りを見渡しながら巡回し始める。
「…、……」
シムは浅く息をしながら後ずさる様に国王から遠ざかる。
しかし死角へ死角へと逃げ込めば逃げ込む程、シム自身も今どの位置にいるのか把握が困難になり国王との距離を推し量り難くなっていく。
それでも逃げたい気持ちと足は止まらず、じりじりと音を立てずに後ずさる。
不意に背中を掴まれる感触に、シムの足は強張って止まった。
早すぎる心臓の鼓動と浅い息、そして絶望した眼差しで恐る恐る振り向いた。
そこには玩具を見つけたと言わんばかりに、恐ろしい微笑みでシムを見下ろす国王がいた。
「何だ、…貴様は?」
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