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出会い(1)
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深い眠りについていたアメリアだったが、朦朧とした意識の中、遠くから声が聞こえてくる。なんだか、騒がしい。だが、あまりの疲れで彼女は目覚めることが出来ない。
(ああ、わたし、深く眠ってしまって……起きられない……)
男性の声が2つ。それから女性の声。と、思った途端、体を揺さぶられ、無理矢理起こされる。
「起きろ! お前は一体誰だ!?」
「っ……」
「ヒルシュ子爵令嬢ではないだろうが。よくも面の皮厚く、眠っているものだな!?」
「あ……」
がくがくと体をゆすぶられる。なんて暴力的なのだ。そう思ったけれど、意識は未だに朦朧としてうまく覚醒出来ない。ただ、揺すられていることは不快だった。
「大体、お前たちもお前たちだ。見ればわかるだろうが。こんな貧相な輩が、子爵令嬢のわけがないだろうが」
「し、しかし、侯爵様……」
「おい、起きろ! 起きろと言っている!」
「んっ……あ……」
ようやく、深い眠りの淵から戻って来て、アメリアはゆっくり瞳を開けた。なんだか頭の奥が重たく感じるが、今はそんなことを言っている場合ではなさそうだ。見れば、大柄でいささか粗野な黒髪の男性が彼女の二の腕に手を置いて揺さぶっている。精悍な顔立ちだが、その表情は険しい。
「おい、一体何がどうして、ヒルシュ子爵令嬢と入れ替わったんだ? どこかで馬車を襲ったのか? そもそも、ここに来たのも馬車1台と聞いたぞ。子爵令嬢がそんな貧相な様子で嫁入りに来るか? お前は盗賊か何かではないのか」
矢継ぎ早の言葉に、アメリアは驚いた。二の腕を掴む彼の手の力に顔を歪め、それからなんとか「わたしがヒルシュ子爵の娘です……」と声を出す。
「侯爵様、痛がっていらっしゃいます。それぐらいで」
そうリーゼが声をかけたが、その男性の手の力は緩まない。
「どこの誰とも知らぬやつに、手加減をする必要はない」
長い前髪がアメリアの顔を隠す。それを自分でどけたいのに、彼が二の腕を強く掴んでいる痛みでうまく手が動かない。アメリアは自分の顔を覆う髪の隙間から、彼を見上げた。
「侯爵、様……でいらっしゃいますか……?」
「そうだ。わたしがこの侯爵家の当主だ。言え。一体何が目的だ。ヒルシュ子爵令嬢をどうした!」
「ですから、わたしが、ヒルシュ子爵の娘で、カミラの双子の妹、アメリアと申します」
「何だと!?」
ようやく彼の手が緩み、アメリアの体はソファに倒れた。「うっ」と声を漏らすアメリアに、ディルクとリーゼは手を貸そうかと困ったようにおろおろとする。なんとかアメリアは体を起こして立ち上がり、おずおずとカーテシーを行った。それを彼は呆然と見ている。
「双子の妹……? ヒルシュ子爵令嬢は、二人いたということか……?」
「はい。侯爵様からの求婚のお手紙はお名指しではなかったので……姉ではなく、妹のわたしが参りました。それではお困りでしょうか……」
「……はぁ……それは、本当か? 本当に?」
深いため息をつき、あからさまに嫌そうな表情を作るバルツァー侯爵。だが、アメリアは「ここで怯んではいけないわ」となんとか勇気を出して、はっきりと返事をする。
「はい。本当です」
「お前は、姉のように社交界でうまく交流が出来るか? 人脈はあるか?」
その言葉に俯くアメリア。
「……いえ……それは……ございません」
「それから、貴族としてのマナーなどはどうだ? わたしが欲しかったのは、貴族としての正当な血統と、それに即した振る舞いが出来る女性、そして、人脈だ。それが備わって、更に誰もが目を奪われるように美しいと聞いていたので、だったら金を積んでも良いと思ったのだ。お前はどうだ?」
貴族としてのマナー。それに関しては、自分もカミラもそこまでは変わらない気がした。何故なら、テーブルマナーなどはともかく、カミラは人としては「ちょっと奔放」が過ぎるからだ。が、それ以外に関しては完全に彼が言うのはカミラそのものだった。カミラは多くの男性の心を射止め、一時的にどんどん人脈を広げていった。勿論、その後にその男性を捨てるので、実際の人脈はと言うとまた別問題だったのだが……。
「残念ながら、どれもわたしには持ち合わせておりません……」
「ハッ! そうだろうな。見ればわかる」
バルツァー侯爵は両手を広げ、呆れたように声をあげた。そうか、彼はカミラの美貌だけで婚約を迫ったわけではないのだ……アメリアはそう思ったが、だからといって自分で良いわけはまったくない、いや、むしろない……そう思えば、胸の奥がずきんずきんと痛む。
(ああ、わたし、深く眠ってしまって……起きられない……)
男性の声が2つ。それから女性の声。と、思った途端、体を揺さぶられ、無理矢理起こされる。
「起きろ! お前は一体誰だ!?」
「っ……」
「ヒルシュ子爵令嬢ではないだろうが。よくも面の皮厚く、眠っているものだな!?」
「あ……」
がくがくと体をゆすぶられる。なんて暴力的なのだ。そう思ったけれど、意識は未だに朦朧としてうまく覚醒出来ない。ただ、揺すられていることは不快だった。
「大体、お前たちもお前たちだ。見ればわかるだろうが。こんな貧相な輩が、子爵令嬢のわけがないだろうが」
「し、しかし、侯爵様……」
「おい、起きろ! 起きろと言っている!」
「んっ……あ……」
ようやく、深い眠りの淵から戻って来て、アメリアはゆっくり瞳を開けた。なんだか頭の奥が重たく感じるが、今はそんなことを言っている場合ではなさそうだ。見れば、大柄でいささか粗野な黒髪の男性が彼女の二の腕に手を置いて揺さぶっている。精悍な顔立ちだが、その表情は険しい。
「おい、一体何がどうして、ヒルシュ子爵令嬢と入れ替わったんだ? どこかで馬車を襲ったのか? そもそも、ここに来たのも馬車1台と聞いたぞ。子爵令嬢がそんな貧相な様子で嫁入りに来るか? お前は盗賊か何かではないのか」
矢継ぎ早の言葉に、アメリアは驚いた。二の腕を掴む彼の手の力に顔を歪め、それからなんとか「わたしがヒルシュ子爵の娘です……」と声を出す。
「侯爵様、痛がっていらっしゃいます。それぐらいで」
そうリーゼが声をかけたが、その男性の手の力は緩まない。
「どこの誰とも知らぬやつに、手加減をする必要はない」
長い前髪がアメリアの顔を隠す。それを自分でどけたいのに、彼が二の腕を強く掴んでいる痛みでうまく手が動かない。アメリアは自分の顔を覆う髪の隙間から、彼を見上げた。
「侯爵、様……でいらっしゃいますか……?」
「そうだ。わたしがこの侯爵家の当主だ。言え。一体何が目的だ。ヒルシュ子爵令嬢をどうした!」
「ですから、わたしが、ヒルシュ子爵の娘で、カミラの双子の妹、アメリアと申します」
「何だと!?」
ようやく彼の手が緩み、アメリアの体はソファに倒れた。「うっ」と声を漏らすアメリアに、ディルクとリーゼは手を貸そうかと困ったようにおろおろとする。なんとかアメリアは体を起こして立ち上がり、おずおずとカーテシーを行った。それを彼は呆然と見ている。
「双子の妹……? ヒルシュ子爵令嬢は、二人いたということか……?」
「はい。侯爵様からの求婚のお手紙はお名指しではなかったので……姉ではなく、妹のわたしが参りました。それではお困りでしょうか……」
「……はぁ……それは、本当か? 本当に?」
深いため息をつき、あからさまに嫌そうな表情を作るバルツァー侯爵。だが、アメリアは「ここで怯んではいけないわ」となんとか勇気を出して、はっきりと返事をする。
「はい。本当です」
「お前は、姉のように社交界でうまく交流が出来るか? 人脈はあるか?」
その言葉に俯くアメリア。
「……いえ……それは……ございません」
「それから、貴族としてのマナーなどはどうだ? わたしが欲しかったのは、貴族としての正当な血統と、それに即した振る舞いが出来る女性、そして、人脈だ。それが備わって、更に誰もが目を奪われるように美しいと聞いていたので、だったら金を積んでも良いと思ったのだ。お前はどうだ?」
貴族としてのマナー。それに関しては、自分もカミラもそこまでは変わらない気がした。何故なら、テーブルマナーなどはともかく、カミラは人としては「ちょっと奔放」が過ぎるからだ。が、それ以外に関しては完全に彼が言うのはカミラそのものだった。カミラは多くの男性の心を射止め、一時的にどんどん人脈を広げていった。勿論、その後にその男性を捨てるので、実際の人脈はと言うとまた別問題だったのだが……。
「残念ながら、どれもわたしには持ち合わせておりません……」
「ハッ! そうだろうな。見ればわかる」
バルツァー侯爵は両手を広げ、呆れたように声をあげた。そうか、彼はカミラの美貌だけで婚約を迫ったわけではないのだ……アメリアはそう思ったが、だからといって自分で良いわけはまったくない、いや、むしろない……そう思えば、胸の奥がずきんずきんと痛む。
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