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22.初夜(3)
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「んっ、ふうっ……!」
彼の片手がエレインの腰を撫でれば、背が軽く反る。反ってわずかに突き出した乳房にキスをされ、それからしっとりとした舌で乳輪を軽く舐められる。エレインは頬を染めて、その様子を見ないようにと顔を逸らした。
どうしよう。交わる時にこんな風に声を簡単にあげてしまうなんて。ただ体にキスをされているだけなのに。通路に待機をしている臣下たちに自分の声が聞こえているのだろうか。どうなのだろうか。仕方がないと思っていたけれど、こんなに簡単にあられもない声が自分の口から出るなんて思ってもいなかった。
妙な意地は張りたくない。けれど、いくらなんでもこれは……と、エレインは唇を引き結ぼうとした。だが、彼の唇が彼女の乳首をとらえたのはほぼそれと同時で、彼女の我慢はまったく意味をなさなかった。
「ふうっ……」
いけない。声が出る。仕方がない、と手で口を覆えば、彼の手がその手首を掴んで離そうとする。
「声は、出してくれ」
「でも」
「きちんと、ことを行なっている証拠になる」
アルフォンスは彼女の手指、甲にも口づける。初めてではない。だが。
どうして、わたしの手に、指に、甲にキスをするんだろう。そんなところに口づけられても何も感じないのに。そして、何も感じないはずなのに、どうしてこんなに泣きたい気持ちになるんだろう。エレインは潤んだ瞳でそれを見上げた。
彼は優しくその手を下ろしてから、再び彼女の乳首を口に含んで舌を這わせた。そして、もう片方の乳首を指の腹で擦る。ああ、どうして。どうしてこんなに、体はままならないのか……熱い吐息を吐きながら、体を捩ってエレインはうわ言のように言葉を繰り返す。
「だって、こんなにっ……あっ……んっ……」
「どちらが好きだ? 舌と、指と」
「どっち、でも……」
どちらでも別に同じだ。彼から与えられる快楽は、形は違えどエレインの唇から喘ぎ声を押し出してしまうのだから。いささか投げやりに答えれば、アルフォンスは軽く乳首に歯を立てる。途端、何かが体の中を走って、彼女は無意識で腰を浮かせた。
「少し、意地が悪い方が好きか」
「!」
意地が悪い方。それで感じると彼は言ったのだろうか。嫌、と声に出来ず、エレインはアルフォンスを見た。彼は、再びエレインの乳首を口に含んで、軽く歯をたて、舌で絡めとる。ぞくぞくと背筋に何かが上がって来て、エレインの口から甘く大きい嬌声があがった。
「ふあっ……!」
もう片方の乳首も彼の指で擦られる。エレインは、彼のあの大きな手、ごつごつとした節、平らな指の腹をふわりと思い出す。
(駄目……そんなこと思い出しては……)
あの指で触れられている。そう思った途端、体の奥に火がついたように熱くなる。そうだ。今自分を抱いている男性は、あの戦場で……。
「やぁっ……嫌……」
弱弱しい声が口からこぼれた。だが、その声音は官能によって甘さを纏っている。そのことに誰よりもエレイン自身が驚いてハッとなる。
「嫌? 本当に?」
「あっ……」
彼の無骨な手が彼女の乳房を撫で、腰を撫で、するりと降りていく。その指の感触で体を震わせると、エレインは「大丈夫、です」と掠れた声をあげた。
「大丈夫……少しだけ……自分が知らない自分がいるようでっ……」
「……っ」
「怖くて、恥ずかしくて……でも……大丈夫」
彼を見上げれば、眉根を寄せて困ったような微笑みが見える。ああ、そんな顔をするのか。本当は、何も言わずに無理にでも自分を貫けば良いのに、彼はどこまで自分に優しくしてくれようとしているんだろう。そう思えば、胸の奥が満たされていく。
彼の視線を受けながら、エレインは「この人でよかった」と、ほっと軽く安堵に似た息を吐きだした。クリスティアン相手に純潔を散らさず、アルフォンスの手で自分の体が拓かれていくことは、今更ながら心底ありがたいと思う。
アルフォンスは、そっと左手でエレインの右手に指を絡めた。
「足を少し開いて」
「はい」
息を吸い込んで。一瞬止めて。それから、エレインはわずかに足を開いた。すると、彼はそっと手のひらを柔らかな毛にあて、指先全体で彼女の大切な場所を撫でる。
「あ、あ……」
「少し濡れているな」
大切な場所全体をゆっくりとこねられ、エレインは甘い息を吐き出す。やがて、彼の指二本が彼女の入口にあてられ、繰り返し円を描くように手が動く。不思議な感覚だったが、エレインは少しだけ慣れ、なすがままだ。ぴくりとつま先がシーツの上で立つが、それは無意識だった。
「鈍くて、緩やかな心地よさだろう?」
アルフォンスは人差し指を曲げた。彼の関節が、入り口ではないどこか。エレインはよくわかっていないが、彼女の陰核を刺激する。びくん、と彼女は体を震わせ、自分の口を押さえようと両手が動いた。しかし、その手はまったく間に合わず、可愛らしい声が室内に大きく響いた。
「んあっ!?」
「そうだな。ここか」
「あっ、そこっ……」
よくわからない。よくわからないが尖った刺激が生まれ、下腹部から脳天に突き刺さるようだ。気持ちがいいのだろうか、これは。ただただ強い刺激に、エレインは腰を引こうとする。それを彼は許さない。
「ここも、よく感じるな。逃げるなよ……」
彼は左手にぎゅっと力を入れた。無理やり押さえつけるような行為ではなかったが、それだけでエレインの動きは止まる。一度にあちこちで快楽を生み出されて、エレインは処理をしきれず、助けを求めるように喉を逸らした。
「んっ……はっ……」
ぬるりと彼の指が愛液をすくい、指の腹が陰核を撫でる。じわじわと大きな快楽が下腹部から上って来るのがわかる。戸惑い、ただ首を横に振るエレイン。その快楽は、これまでの人生でまったく予測もつかぬ、知らないものだ。初めての感触に恐怖が生まれる。
当然ながら彼女は男女の交わりは、男性のものを女性の中に入れるとはわかっていた。そして、その時に破瓜の痛みがあるということも。だが、そこに至るまでの快楽を、彼女は曖昧にしか知らなかった。なんとなく「湯あみの後に行われるマッサージで体が解けるようなものか」と漠然と思っていた。
だが、今、自分の体を包んでいるものがそれなのだ。こんなものには抗えない。彼の口が、指が、生み出す快感に抗えず、どうしたら良いのかもわからない。彼は手を休めず、更に彼女に覆いかぶさって再び乳首を口に含む。今は駄目だ、と思うが拒むこともエレインには出来なかった。
「あ……気持ちっ……いっ……」
口からぽろりとこぼれる言葉にハッとなる。驚きと困惑がまざった、一体何が起きたのか信じられない、という表情でアルフォンスを見れば、彼もまた、驚いた表情を見せていた。
なんてことを口に出してしまったのだろうか。そう後悔をする間もなく、彼は「そうか。それは、良いことだ」とにやりと笑って、更に彼女の大事な場所をゆっくりと擦った。ぐじゅぐじゅと愛液が迸って彼の手を濡らすが、それをエレインは気づいていなかった。
「だ、めっ……んっ……」
鼻にかかった甘い声が口から出る。自分がそんな声を出すなんて。そんな声は知らない、知らない、知らない……そう思って震えていると、彼はエレインの耳を口に含み、低い声で囁いた。まるで脳に直接話しかけられているかのように、その言葉はエレインを支配するような響きを伴う。
「体の力を抜いていろ」
「はいっ……」
「緊張しなくていい。それじゃあ、力が入ってしまう……」
そう言うと、彼はエレインの耳を嬲った。ぞわぞわと背筋を何かがはい回るような不快感と、その奥に潜む快楽が入り交じり、エレインは目をぎゅっと閉じる。彼は耳たぶを軽く食み、それから耳の中に息を吹きかけた。
「ふっ……!」
声があがる。と、それと同時に、自分の入口に彼の指がぬぷりと入って来る。その異物感にぞわりと肌が粟立つ。だが、それも一瞬のこと。すぐにそれ以上の快感が内側からせりあがってきて、エレインの瞳には涙が浮かんだ。いけない。気持ちがいい。いや、気持ちがいいなんてものではない。よくわからない。よくわからない初めての感覚なのに、言葉にすれば「気持ちが良い」というありきたりなものしかない。そのことに、エレインは怯えながら甘い声をあげた。
「あっ、あんっ、あ、あ……」
「凄いな。内壁は柔らかくなっているが、肉厚で締め付けてくる……」
そう囁かれて、腰のあたりがぞわぞわとする。彼が一体何を言っているのかエレインにはよくわからない。柔らかくなっているが締め付けている? 締め付けるということは、彼が入ってくるのを拒んでしまっている……そういう意味なのだろうか。
「だ、め、でしょうか……」
「うん?」
「わ、わたしの、体は……駄目、なんでしょうか? ごめんなさい……っ……」
「馬鹿だな。その逆だ……ああ、ここかな……?」
「あっ、待って……待って、待って……!」
彼の指が、内側で動く。抜き差しもなく、ただ入れたまま指先で内壁を擦られているだけなのに、エレインの腰はがくがくと揺れた。とん、とん、と最初はゆっくりとした刺激だったのに、どんどんその速度があがっていく。そして、それにつれてエレインの声も大きくなっていく。
「駄目っ、それっ、あっ、あっ、あっ……!」
彼の目の前で恥ずかしい場所を突き出すように、腰を浮かせて体を捩るエレイン。だが、もう彼女は自分がどうなっているのかすらよくわかっていない。これまでの人生で味わったことがない、体の奥底から湧き上がる快楽の波に混乱をしていた。
「やあっ……なに、これっ……アルフォンス様っ、わたしっ……」
やめて欲しい。もっと欲しい。やめて欲しい。もっと欲しい。そのどちらもうまく言葉に出来ず、エレインは泣きじゃくり、強く彼の手を握って縋りつくように彼の腕に顔を擦りつけた。じゅぷじゅぷと水音が室内に響く。それほどに自分が感じて愛液を垂れ流していることすら、彼女は理解していなかった。ただ、知らない快楽が自分の内側から全身に広がっては引いて、広がっては引いてを繰り返し、その波に翻弄される。
知らぬ間に彼の指はじゅぷじゅぷと挿入を繰り返し、彼女を翻弄していく。エレインは、自分の手を握る彼の腕をもう片方の腕でぎゅっと胸元に抱く。乳房に埋もれたその腕に、ほろほろと彼女の涙が飛び散ったが、もう体は快楽に支配されて何もかもわからなくなっている。
「あっ、い、いっ……!」
「そのまま、達したまえ」
「っ……!」
全身を襲う悦楽の波。それにもう逆らうことが出来ず、エレインは体を痙攣させた。何かが来る。ぎゅっと彼の片腕にしがみつきながら、彼女はつま先立ちをして背を逸らし、ひときわ高く腰を高く上げた。初めて迎えた絶頂を「これがそうなのだ」と理解をすることも出来ず、ただ免れぬ快楽と言う未知のものに怯えるだけの刹那。
こわばらせた体に広がっていく淫楽の余韻。それから、緩やかに体の力が抜け、とすん、と腰を落とす。だが、その口からは未だに抗えぬ波にさらわれ続けているような、甘い声が漏れる。
「あっ……あ、あ……」
縋りつく手からも力が抜けた。アルフォンスは彼女の爪痕がついた手で、燃えるような赤い髪を、同じく赤く染まった頬を、そっと撫でて「いい子だ」と抱きしめ、ゆっくりと彼女の中から指を引き抜いた
彼の片手がエレインの腰を撫でれば、背が軽く反る。反ってわずかに突き出した乳房にキスをされ、それからしっとりとした舌で乳輪を軽く舐められる。エレインは頬を染めて、その様子を見ないようにと顔を逸らした。
どうしよう。交わる時にこんな風に声を簡単にあげてしまうなんて。ただ体にキスをされているだけなのに。通路に待機をしている臣下たちに自分の声が聞こえているのだろうか。どうなのだろうか。仕方がないと思っていたけれど、こんなに簡単にあられもない声が自分の口から出るなんて思ってもいなかった。
妙な意地は張りたくない。けれど、いくらなんでもこれは……と、エレインは唇を引き結ぼうとした。だが、彼の唇が彼女の乳首をとらえたのはほぼそれと同時で、彼女の我慢はまったく意味をなさなかった。
「ふうっ……」
いけない。声が出る。仕方がない、と手で口を覆えば、彼の手がその手首を掴んで離そうとする。
「声は、出してくれ」
「でも」
「きちんと、ことを行なっている証拠になる」
アルフォンスは彼女の手指、甲にも口づける。初めてではない。だが。
どうして、わたしの手に、指に、甲にキスをするんだろう。そんなところに口づけられても何も感じないのに。そして、何も感じないはずなのに、どうしてこんなに泣きたい気持ちになるんだろう。エレインは潤んだ瞳でそれを見上げた。
彼は優しくその手を下ろしてから、再び彼女の乳首を口に含んで舌を這わせた。そして、もう片方の乳首を指の腹で擦る。ああ、どうして。どうしてこんなに、体はままならないのか……熱い吐息を吐きながら、体を捩ってエレインはうわ言のように言葉を繰り返す。
「だって、こんなにっ……あっ……んっ……」
「どちらが好きだ? 舌と、指と」
「どっち、でも……」
どちらでも別に同じだ。彼から与えられる快楽は、形は違えどエレインの唇から喘ぎ声を押し出してしまうのだから。いささか投げやりに答えれば、アルフォンスは軽く乳首に歯を立てる。途端、何かが体の中を走って、彼女は無意識で腰を浮かせた。
「少し、意地が悪い方が好きか」
「!」
意地が悪い方。それで感じると彼は言ったのだろうか。嫌、と声に出来ず、エレインはアルフォンスを見た。彼は、再びエレインの乳首を口に含んで、軽く歯をたて、舌で絡めとる。ぞくぞくと背筋に何かが上がって来て、エレインの口から甘く大きい嬌声があがった。
「ふあっ……!」
もう片方の乳首も彼の指で擦られる。エレインは、彼のあの大きな手、ごつごつとした節、平らな指の腹をふわりと思い出す。
(駄目……そんなこと思い出しては……)
あの指で触れられている。そう思った途端、体の奥に火がついたように熱くなる。そうだ。今自分を抱いている男性は、あの戦場で……。
「やぁっ……嫌……」
弱弱しい声が口からこぼれた。だが、その声音は官能によって甘さを纏っている。そのことに誰よりもエレイン自身が驚いてハッとなる。
「嫌? 本当に?」
「あっ……」
彼の無骨な手が彼女の乳房を撫で、腰を撫で、するりと降りていく。その指の感触で体を震わせると、エレインは「大丈夫、です」と掠れた声をあげた。
「大丈夫……少しだけ……自分が知らない自分がいるようでっ……」
「……っ」
「怖くて、恥ずかしくて……でも……大丈夫」
彼を見上げれば、眉根を寄せて困ったような微笑みが見える。ああ、そんな顔をするのか。本当は、何も言わずに無理にでも自分を貫けば良いのに、彼はどこまで自分に優しくしてくれようとしているんだろう。そう思えば、胸の奥が満たされていく。
彼の視線を受けながら、エレインは「この人でよかった」と、ほっと軽く安堵に似た息を吐きだした。クリスティアン相手に純潔を散らさず、アルフォンスの手で自分の体が拓かれていくことは、今更ながら心底ありがたいと思う。
アルフォンスは、そっと左手でエレインの右手に指を絡めた。
「足を少し開いて」
「はい」
息を吸い込んで。一瞬止めて。それから、エレインはわずかに足を開いた。すると、彼はそっと手のひらを柔らかな毛にあて、指先全体で彼女の大切な場所を撫でる。
「あ、あ……」
「少し濡れているな」
大切な場所全体をゆっくりとこねられ、エレインは甘い息を吐き出す。やがて、彼の指二本が彼女の入口にあてられ、繰り返し円を描くように手が動く。不思議な感覚だったが、エレインは少しだけ慣れ、なすがままだ。ぴくりとつま先がシーツの上で立つが、それは無意識だった。
「鈍くて、緩やかな心地よさだろう?」
アルフォンスは人差し指を曲げた。彼の関節が、入り口ではないどこか。エレインはよくわかっていないが、彼女の陰核を刺激する。びくん、と彼女は体を震わせ、自分の口を押さえようと両手が動いた。しかし、その手はまったく間に合わず、可愛らしい声が室内に大きく響いた。
「んあっ!?」
「そうだな。ここか」
「あっ、そこっ……」
よくわからない。よくわからないが尖った刺激が生まれ、下腹部から脳天に突き刺さるようだ。気持ちがいいのだろうか、これは。ただただ強い刺激に、エレインは腰を引こうとする。それを彼は許さない。
「ここも、よく感じるな。逃げるなよ……」
彼は左手にぎゅっと力を入れた。無理やり押さえつけるような行為ではなかったが、それだけでエレインの動きは止まる。一度にあちこちで快楽を生み出されて、エレインは処理をしきれず、助けを求めるように喉を逸らした。
「んっ……はっ……」
ぬるりと彼の指が愛液をすくい、指の腹が陰核を撫でる。じわじわと大きな快楽が下腹部から上って来るのがわかる。戸惑い、ただ首を横に振るエレイン。その快楽は、これまでの人生でまったく予測もつかぬ、知らないものだ。初めての感触に恐怖が生まれる。
当然ながら彼女は男女の交わりは、男性のものを女性の中に入れるとはわかっていた。そして、その時に破瓜の痛みがあるということも。だが、そこに至るまでの快楽を、彼女は曖昧にしか知らなかった。なんとなく「湯あみの後に行われるマッサージで体が解けるようなものか」と漠然と思っていた。
だが、今、自分の体を包んでいるものがそれなのだ。こんなものには抗えない。彼の口が、指が、生み出す快感に抗えず、どうしたら良いのかもわからない。彼は手を休めず、更に彼女に覆いかぶさって再び乳首を口に含む。今は駄目だ、と思うが拒むこともエレインには出来なかった。
「あ……気持ちっ……いっ……」
口からぽろりとこぼれる言葉にハッとなる。驚きと困惑がまざった、一体何が起きたのか信じられない、という表情でアルフォンスを見れば、彼もまた、驚いた表情を見せていた。
なんてことを口に出してしまったのだろうか。そう後悔をする間もなく、彼は「そうか。それは、良いことだ」とにやりと笑って、更に彼女の大事な場所をゆっくりと擦った。ぐじゅぐじゅと愛液が迸って彼の手を濡らすが、それをエレインは気づいていなかった。
「だ、めっ……んっ……」
鼻にかかった甘い声が口から出る。自分がそんな声を出すなんて。そんな声は知らない、知らない、知らない……そう思って震えていると、彼はエレインの耳を口に含み、低い声で囁いた。まるで脳に直接話しかけられているかのように、その言葉はエレインを支配するような響きを伴う。
「体の力を抜いていろ」
「はいっ……」
「緊張しなくていい。それじゃあ、力が入ってしまう……」
そう言うと、彼はエレインの耳を嬲った。ぞわぞわと背筋を何かがはい回るような不快感と、その奥に潜む快楽が入り交じり、エレインは目をぎゅっと閉じる。彼は耳たぶを軽く食み、それから耳の中に息を吹きかけた。
「ふっ……!」
声があがる。と、それと同時に、自分の入口に彼の指がぬぷりと入って来る。その異物感にぞわりと肌が粟立つ。だが、それも一瞬のこと。すぐにそれ以上の快感が内側からせりあがってきて、エレインの瞳には涙が浮かんだ。いけない。気持ちがいい。いや、気持ちがいいなんてものではない。よくわからない。よくわからない初めての感覚なのに、言葉にすれば「気持ちが良い」というありきたりなものしかない。そのことに、エレインは怯えながら甘い声をあげた。
「あっ、あんっ、あ、あ……」
「凄いな。内壁は柔らかくなっているが、肉厚で締め付けてくる……」
そう囁かれて、腰のあたりがぞわぞわとする。彼が一体何を言っているのかエレインにはよくわからない。柔らかくなっているが締め付けている? 締め付けるということは、彼が入ってくるのを拒んでしまっている……そういう意味なのだろうか。
「だ、め、でしょうか……」
「うん?」
「わ、わたしの、体は……駄目、なんでしょうか? ごめんなさい……っ……」
「馬鹿だな。その逆だ……ああ、ここかな……?」
「あっ、待って……待って、待って……!」
彼の指が、内側で動く。抜き差しもなく、ただ入れたまま指先で内壁を擦られているだけなのに、エレインの腰はがくがくと揺れた。とん、とん、と最初はゆっくりとした刺激だったのに、どんどんその速度があがっていく。そして、それにつれてエレインの声も大きくなっていく。
「駄目っ、それっ、あっ、あっ、あっ……!」
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「やあっ……なに、これっ……アルフォンス様っ、わたしっ……」
やめて欲しい。もっと欲しい。やめて欲しい。もっと欲しい。そのどちらもうまく言葉に出来ず、エレインは泣きじゃくり、強く彼の手を握って縋りつくように彼の腕に顔を擦りつけた。じゅぷじゅぷと水音が室内に響く。それほどに自分が感じて愛液を垂れ流していることすら、彼女は理解していなかった。ただ、知らない快楽が自分の内側から全身に広がっては引いて、広がっては引いてを繰り返し、その波に翻弄される。
知らぬ間に彼の指はじゅぷじゅぷと挿入を繰り返し、彼女を翻弄していく。エレインは、自分の手を握る彼の腕をもう片方の腕でぎゅっと胸元に抱く。乳房に埋もれたその腕に、ほろほろと彼女の涙が飛び散ったが、もう体は快楽に支配されて何もかもわからなくなっている。
「あっ、い、いっ……!」
「そのまま、達したまえ」
「っ……!」
全身を襲う悦楽の波。それにもう逆らうことが出来ず、エレインは体を痙攣させた。何かが来る。ぎゅっと彼の片腕にしがみつきながら、彼女はつま先立ちをして背を逸らし、ひときわ高く腰を高く上げた。初めて迎えた絶頂を「これがそうなのだ」と理解をすることも出来ず、ただ免れぬ快楽と言う未知のものに怯えるだけの刹那。
こわばらせた体に広がっていく淫楽の余韻。それから、緩やかに体の力が抜け、とすん、と腰を落とす。だが、その口からは未だに抗えぬ波にさらわれ続けているような、甘い声が漏れる。
「あっ……あ、あ……」
縋りつく手からも力が抜けた。アルフォンスは彼女の爪痕がついた手で、燃えるような赤い髪を、同じく赤く染まった頬を、そっと撫でて「いい子だ」と抱きしめ、ゆっくりと彼女の中から指を引き抜いた
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