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57.埋まりゆくピース(1)
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アルフォンスは月華の棟から離れているものの、安全を確保するために光彩の棟にある寝室に運ばれた。光彩の棟の出入り口に護衛騎士をいつもより多く配置して、そこで更に治療を行った後、彼は数時間眠っていた。王太后の天恵は強制力が強いものらしく、それに抗ったゆえの副作用のようなものらしい。手当を受けたエレインは寝室のソファで横たわり、食事も運んでもらってずっと彼の傍を離れなかった。
夕方頃、エレインはランバルトに事情聴取をされ、様々な答え合わせをすることとなった。
「痛みは大丈夫ですか」
「痛いは痛いですが、まあそう動かなければ」
エレインは脇腹を包帯などで押さえているため、腰で絞らないゆったりとした寝間着に軽く上着を羽織っている。横になるため、髪もいっさい縛らずに下ろしていた。けがをしているのだから、動かないでください!とマーシアに怒られたが、珍しく彼女はがんとしてアルフォンスについている、と我がままを言ったのだ。
ランバルトの報告はこうだった。まず、王太后は天恵持ちであること。そして、どうやら王族の血が薄い男性を操ることが出来るのだということ。そして、それは1人のみで、その1人が「死ぬ」ことで解除されるらしいこと。この辺りは推測だとランバルトは言っていたが、それならば合点がいく、とエレインは思う。
「クリスティアン前国王を殺した公爵も……」
「そうですね……侍女の証言で、王太后と面会をした履歴がありました」
「天恵封じのあのバングルは?」
「アルフォンス様の御父上がおつくりになったようです」
作った者が既に他界していたので、調査に時間がかかったのだとランバルトは言う。どうやら、天恵封じのバングルを王太后につけ、その代わり彼女を生かしていたのではないかという推測が立った。
「いや、本当にこれは先ほど知ったばかりの調査結果なんですが……ある時。どうやらバングルの鍵が壊れて、外れたのではないかと」
「外れた……?」
「はい。実は、クリスティアン前国王が即位をしてすぐ鍵の部分を直したのだと、王城御用達の商人の証言がありまして……それが、天恵封じのものだとは知らなったようですが。既に錬金術の天恵を持つものの死後だったため、鍵の部分だけを発注したようです」
なるほど。その辺りの前後はよくわからないが、多分バングルの鍵が外れたことを、王太后は内緒にしていたのだろう。そして、会いに来たアルフォンスの父親を操った。だが、アルフォンスの父親が死んだことによって、クリスティアンが王になる。クリスティアンは何をどう知ったのか、バングルの鍵の部分を直した。多分、王太后に再びそれをつけるために。
「けれど、アルフォンス様の御父上は、このブレスレットと同じものを……」
「バングルを過信して、外していたこともあったのかもしれませんね。何にせよ、その辺りはすべて推測です。ただ、これは王太后から聞いたのですが……」
王太后が操るようになってからは、わざと魔除けのブレスレットをしていたのだと言う。肌身離さず身に着けて、そして、死後はそれをつけたまま葬儀に出したらしい。それは「魔除けのブレスレットを次の誰かに使われては困る」からだ。そして、わざとそのブレスレットをつけることで、王太后以外の天恵持ちに、王太后の天恵を解除されるようなこともなくなる。彼女からすれば一石二鳥だったのではないかとランバルトは話した。
王太后は現在は王城の牢屋にいる。今はまだ半狂乱であれこれ叫んでいるが、これから先細かな話を聞かなければいけない。おおよそ、アルフォンスを使って自分の身分の確保をしたかったのではないかとランバルトはため息まじりだ。
「ランバルトの天恵は?」
「魔除けのブレスレットよりも弱いんですけどね……天恵を跳ねのける効果があるのですが、いや、申し訳ない……王太后の天恵の方が強かったといいますか……そもそもわたし自身の力を石に籠める時点で力は劣ってしまうので……」
と、エレインは「あっ」と声をあげた。
「もしかして……蛇の時……」
「ああ……はい。そうです。あのぅ、エレイン様に天恵をかけていただいた……のですが、実はあれも弾いていまして……はい……ですから、わたしはいつ攻撃されるかわからない蛇を、攻撃されても大丈夫だ、と渡されたわけで……はい……」
エレインはそれを聞いて、つい声を出して笑ってしまう。勿論、ランバルトは「笑いごとじゃないですよ!」と口を尖らせたが、笑ったエレインが「わ、脇腹が、痛い……」と言い出したので、大いに慌てた。
王太后はアルフォンスにエレインを殺させた後、彼女の血族の女性をアルフォンスに嫁がせたかったのだろう。そんなことをしなくとも、実の子供であるエリーストがあと5年も経てば王に即位をするというのに。エレインはそう思ったが、もしかしたら、それをそうだと知っても、王太后はエリーストを信用していなかったかもしれない、と思う。
(どういうわけなのかはわからないが、クリスティアンは王太后が天恵封じのバングルをつけていると知った。そして、バングルの鍵を直して、王太后に再びはめた。バングルがなかったその間、きっと男性を近寄らせないようにとか、何か処置をしたのだろう)
クリスティアン自身は王族の順当な血族だ。王太后のあの「天恵」は王族の血族には通じない……ようなことを言っていた。だから、クリスティアンは「自分は大丈夫」だと思っていたに違いない。
だが。
エレインがこの王城に来た。天恵を制御する対象がもう一人。クリスティアンは、天秤にかけた結果、エレインを選んだのだろう。王太后からバングルをとりあげて、エレインにはめた。もしかしたらそもそも王太后に天恵がないのでは、と思っていた可能性もある。そのあたりのストーリーはもう誰も知らないことだ。
夕方頃、エレインはランバルトに事情聴取をされ、様々な答え合わせをすることとなった。
「痛みは大丈夫ですか」
「痛いは痛いですが、まあそう動かなければ」
エレインは脇腹を包帯などで押さえているため、腰で絞らないゆったりとした寝間着に軽く上着を羽織っている。横になるため、髪もいっさい縛らずに下ろしていた。けがをしているのだから、動かないでください!とマーシアに怒られたが、珍しく彼女はがんとしてアルフォンスについている、と我がままを言ったのだ。
ランバルトの報告はこうだった。まず、王太后は天恵持ちであること。そして、どうやら王族の血が薄い男性を操ることが出来るのだということ。そして、それは1人のみで、その1人が「死ぬ」ことで解除されるらしいこと。この辺りは推測だとランバルトは言っていたが、それならば合点がいく、とエレインは思う。
「クリスティアン前国王を殺した公爵も……」
「そうですね……侍女の証言で、王太后と面会をした履歴がありました」
「天恵封じのあのバングルは?」
「アルフォンス様の御父上がおつくりになったようです」
作った者が既に他界していたので、調査に時間がかかったのだとランバルトは言う。どうやら、天恵封じのバングルを王太后につけ、その代わり彼女を生かしていたのではないかという推測が立った。
「いや、本当にこれは先ほど知ったばかりの調査結果なんですが……ある時。どうやらバングルの鍵が壊れて、外れたのではないかと」
「外れた……?」
「はい。実は、クリスティアン前国王が即位をしてすぐ鍵の部分を直したのだと、王城御用達の商人の証言がありまして……それが、天恵封じのものだとは知らなったようですが。既に錬金術の天恵を持つものの死後だったため、鍵の部分だけを発注したようです」
なるほど。その辺りの前後はよくわからないが、多分バングルの鍵が外れたことを、王太后は内緒にしていたのだろう。そして、会いに来たアルフォンスの父親を操った。だが、アルフォンスの父親が死んだことによって、クリスティアンが王になる。クリスティアンは何をどう知ったのか、バングルの鍵の部分を直した。多分、王太后に再びそれをつけるために。
「けれど、アルフォンス様の御父上は、このブレスレットと同じものを……」
「バングルを過信して、外していたこともあったのかもしれませんね。何にせよ、その辺りはすべて推測です。ただ、これは王太后から聞いたのですが……」
王太后が操るようになってからは、わざと魔除けのブレスレットをしていたのだと言う。肌身離さず身に着けて、そして、死後はそれをつけたまま葬儀に出したらしい。それは「魔除けのブレスレットを次の誰かに使われては困る」からだ。そして、わざとそのブレスレットをつけることで、王太后以外の天恵持ちに、王太后の天恵を解除されるようなこともなくなる。彼女からすれば一石二鳥だったのではないかとランバルトは話した。
王太后は現在は王城の牢屋にいる。今はまだ半狂乱であれこれ叫んでいるが、これから先細かな話を聞かなければいけない。おおよそ、アルフォンスを使って自分の身分の確保をしたかったのではないかとランバルトはため息まじりだ。
「ランバルトの天恵は?」
「魔除けのブレスレットよりも弱いんですけどね……天恵を跳ねのける効果があるのですが、いや、申し訳ない……王太后の天恵の方が強かったといいますか……そもそもわたし自身の力を石に籠める時点で力は劣ってしまうので……」
と、エレインは「あっ」と声をあげた。
「もしかして……蛇の時……」
「ああ……はい。そうです。あのぅ、エレイン様に天恵をかけていただいた……のですが、実はあれも弾いていまして……はい……ですから、わたしはいつ攻撃されるかわからない蛇を、攻撃されても大丈夫だ、と渡されたわけで……はい……」
エレインはそれを聞いて、つい声を出して笑ってしまう。勿論、ランバルトは「笑いごとじゃないですよ!」と口を尖らせたが、笑ったエレインが「わ、脇腹が、痛い……」と言い出したので、大いに慌てた。
王太后はアルフォンスにエレインを殺させた後、彼女の血族の女性をアルフォンスに嫁がせたかったのだろう。そんなことをしなくとも、実の子供であるエリーストがあと5年も経てば王に即位をするというのに。エレインはそう思ったが、もしかしたら、それをそうだと知っても、王太后はエリーストを信用していなかったかもしれない、と思う。
(どういうわけなのかはわからないが、クリスティアンは王太后が天恵封じのバングルをつけていると知った。そして、バングルの鍵を直して、王太后に再びはめた。バングルがなかったその間、きっと男性を近寄らせないようにとか、何か処置をしたのだろう)
クリスティアン自身は王族の順当な血族だ。王太后のあの「天恵」は王族の血族には通じない……ようなことを言っていた。だから、クリスティアンは「自分は大丈夫」だと思っていたに違いない。
だが。
エレインがこの王城に来た。天恵を制御する対象がもう一人。クリスティアンは、天秤にかけた結果、エレインを選んだのだろう。王太后からバングルをとりあげて、エレインにはめた。もしかしたらそもそも王太后に天恵がないのでは、と思っていた可能性もある。そのあたりのストーリーはもう誰も知らないことだ。
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