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44.コンスタンツェの過去
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その晩、ティアナはコンスタンツェが「はぁ~、結構休んじゃったわぁ~」と体内から出て来た時に、マリウスと話した内容を教えた。どうやら、本当に彼女は「眠っていた」ようで、ほとんど初耳だったらしい。
「はぁ~? 王妃が? 癒着? なぁに、それ」
ティアナは心の中で「あれ?」と首を傾げた。なんとなくだが、彼女の意識では、コンスタンツェは「へえ~! なるほどね!」とでも言って、またくるくる回転をして「そりゃあ、きなくさいわねぇ~」と笑ったりするのではないかと思っていたからだ。
だが、実際はどうだ。彼女は唇をへの字にして、眉根を寄せる。そんなコンスタンツェの顔を見て、しみじみとティアナは
「あなた、本当に綺麗なお顔をしているのね」
と、まるで今日初めて見たかのような感想をぽろりとこぼしてしまった。
「そうなのよ。わたし、結構顔はいい方なのよ」
それを、謙遜もせずにはっきり答えるコンスタンツェ。
「でも、あなただって綺麗よ、ティアナ。これはお世辞じゃないわ。それにねぇ、なんといってもあなたって、動いて、話して、笑ってる時、もう全部生き生きしていて、とってもチャーミングよ」
「そ、そう、かしら? ありがとう……?」
そんな褒められ方をしたことがない。だが、コンスタンツェが言うと嘘ではない気がする。なんとなくどもって礼を言うティアナだったが、気を取り直して
「ね、何を怒っているの? 王妃様のこと?」
と、コンスタンツェに尋ねた。
「そうよ。ねぇ、それ本当なの? 腹立たしいんだけど!」
「どうして? っていうか、どうしても何もないか……」
「そうよ、どうしても何もないわ! 国の王妃たるものが、なにやってんのって話でしょ!」
コンスタンツェは叫びながら、徐々に天井に向かってあがっていき、その間に両手両足をばたつかせる。まるで駄々をこねている子供みたいだな……と思いながら見上げるティアナ。彼女の感情が高ぶっているせいなのか、美しい髪はうねって広がったり、天井に向かってふわりとあがったりしている。そんな様子になるのは初めてのことで、ティアナは目を何度も瞬かせて驚いた。
「ね、コンスタンツェ。あなた、王族だったの? だから、王妃様のことそんな風に怒るんでしょ?」
むう、とむくれた様子でコンスタンツェは、今度はゆっくりと下降してくる。膝を抱えて、ティアナの前にくるくると空中で前転をしながら移動をする。その様子は少しおもしろかったが、どうやら彼女は拗ねているようで、楽しい前転というわけではなさそうだった。
「そうよ。言ったでしょ。聖女の力があったって」
「ええ。でも、わたしもマリウスも王族ではないわ。でも、あなたはそうだったんでしょ?」
「そうはいっても、わたしはほとんどお城の中も外も出歩けない身分だったの。ねぇ、話したでしょ。わたし、人の声を聞く範囲が広いって。そういう能力があったんだって」
確かにそう言っていた。頷くティアナに、コンスタンツェは衝撃的なことを告げる。
「それで、内緒で聞き取ってしまった、大事な談合のことを人に漏らしてね……国と国の大切な談合をね……子供の頃の話よ。でも、罪は罪だからって、王城の端にある離れで、魔法使いが音の防壁を作った場所で、22歳まで過ごしたの……」
「!」
「今にして思えば、そんなの、ちゃんと防音の魔法を施した部屋でやってよって話なんだけど!」
そう言って、コンスタンツェは「イーーッ」と口を真横に開いた。
「罪人と呼ばれて育ったけれど、両親も兄弟もわたしに優しかったの。だから、寂しくなかった。王族教育だってちゃーんと受けたのよ! ただ、わたしの罪を色んな人が知っていたから、誰もわたしをお嫁さんにしてくれる人はいなかったの。そりゃそうよね。どこかでこそこそ噂をしてるのを、全部聞かれたらって思ったら。常に防音魔法がある場所にいれば、それはそれで疑わしいし」
コンスタンツェは、22歳になってその「防音魔法」に囲まれた離れを出た。それは、罪を犯してから15年後。その年月を経て、彼女の罪はようやく許されたのだ。それまで彼女は防音魔法に囲まれていたため、15年を経た自分が「今はどれぐらいまで聞こえるのか」を知ることはなかった。
「外に出たらね。もう、すごいの。音の洪水で。ものすごく色んな音がまざって、遠くの音も、近くの音も、何もかもが耳に入ってくるの。能力が伸びてしまったのか、聞こえなかったせいで制御できなくなっちゃっていたのかわからないけど」
「ええっ?」
「ずっと誰かが話し続けていて気が狂いそうになってさ。それで、大慌てでもう一度防音魔法が施された離れに戻ったわ。このまま、普通に生きていくことは出来ないんだって、そりゃもう泣いて泣いて……泣いたかしら? ううん? ちょっとその辺あまり覚えてないけど……でも、泣いたんだと思う」
どうして、そんな大事なところで「覚えていない」と言うのか。ティアナが不思議そうにそれを聞けば
「言ったでしょ。色んなホロゥを取り込んで大きくなったって。わたし、混じり物だから時々色んな記憶が出てくるの。まあ、一番はっきりしている記憶は当然『コンスタンツェ』のものだけど」
と答える。なるほど、とティアナは頷いた。今まで、なんとなくコンスタンツェと話をしていても、彼女はどこかつかみどころがない、とりとめもないことを言うことが多かったが、それも影響があるのだろうと思う。
「そこから、頑張って少しずつ調整していって、やっと本当に外に出られたのが25歳の頃。そして、27歳の頃に流行り病で死んじゃったの。可哀想じゃない!?」
「ええ……それは……可哀想ね。そうか。だから、あなた、王城の中も知っていそうなのによくわからないし、色々知ってても色々知らなくて、なんだかよくわからない状態なのね。話をしていてもちょっとよくわからなかったのよね」
「そう! でもね! でもね!」
そう言うと、コンスタンツェは激昂の声をあげた。
「そんなわたしでもね! 王妃のその、何? あの、なんだっけ、マイツェンと癒着? それで、自分は綺麗に着飾っているっていうの? それは、王族にあるまじき行為よ! 王族はそりゃあ美しく着飾って、これだけこの国は豊かですよって主張をするべきものだけど、そのためだけに……はぁ~! 頭が沸騰してきたぁ~……!!」
頭を抱えて「うわあん」と叫んで再びその場でぐるぐると回転をするコンスタンツェ。
それにしても、コンスタンツェのその言葉使いは時々王族としてはいささかよろしくない。ティアナはくすりと笑って尋ねた。
「あなたの言葉使いがたまに粗暴なのって、それも他のホロゥを取り込んだから?」
すると、コンスタンツェは可愛らしく唇を突き出して
「違うわ! もともとよ! もともと!」
と言って、けろりと笑った。
「はぁ~? 王妃が? 癒着? なぁに、それ」
ティアナは心の中で「あれ?」と首を傾げた。なんとなくだが、彼女の意識では、コンスタンツェは「へえ~! なるほどね!」とでも言って、またくるくる回転をして「そりゃあ、きなくさいわねぇ~」と笑ったりするのではないかと思っていたからだ。
だが、実際はどうだ。彼女は唇をへの字にして、眉根を寄せる。そんなコンスタンツェの顔を見て、しみじみとティアナは
「あなた、本当に綺麗なお顔をしているのね」
と、まるで今日初めて見たかのような感想をぽろりとこぼしてしまった。
「そうなのよ。わたし、結構顔はいい方なのよ」
それを、謙遜もせずにはっきり答えるコンスタンツェ。
「でも、あなただって綺麗よ、ティアナ。これはお世辞じゃないわ。それにねぇ、なんといってもあなたって、動いて、話して、笑ってる時、もう全部生き生きしていて、とってもチャーミングよ」
「そ、そう、かしら? ありがとう……?」
そんな褒められ方をしたことがない。だが、コンスタンツェが言うと嘘ではない気がする。なんとなくどもって礼を言うティアナだったが、気を取り直して
「ね、何を怒っているの? 王妃様のこと?」
と、コンスタンツェに尋ねた。
「そうよ。ねぇ、それ本当なの? 腹立たしいんだけど!」
「どうして? っていうか、どうしても何もないか……」
「そうよ、どうしても何もないわ! 国の王妃たるものが、なにやってんのって話でしょ!」
コンスタンツェは叫びながら、徐々に天井に向かってあがっていき、その間に両手両足をばたつかせる。まるで駄々をこねている子供みたいだな……と思いながら見上げるティアナ。彼女の感情が高ぶっているせいなのか、美しい髪はうねって広がったり、天井に向かってふわりとあがったりしている。そんな様子になるのは初めてのことで、ティアナは目を何度も瞬かせて驚いた。
「ね、コンスタンツェ。あなた、王族だったの? だから、王妃様のことそんな風に怒るんでしょ?」
むう、とむくれた様子でコンスタンツェは、今度はゆっくりと下降してくる。膝を抱えて、ティアナの前にくるくると空中で前転をしながら移動をする。その様子は少しおもしろかったが、どうやら彼女は拗ねているようで、楽しい前転というわけではなさそうだった。
「そうよ。言ったでしょ。聖女の力があったって」
「ええ。でも、わたしもマリウスも王族ではないわ。でも、あなたはそうだったんでしょ?」
「そうはいっても、わたしはほとんどお城の中も外も出歩けない身分だったの。ねぇ、話したでしょ。わたし、人の声を聞く範囲が広いって。そういう能力があったんだって」
確かにそう言っていた。頷くティアナに、コンスタンツェは衝撃的なことを告げる。
「それで、内緒で聞き取ってしまった、大事な談合のことを人に漏らしてね……国と国の大切な談合をね……子供の頃の話よ。でも、罪は罪だからって、王城の端にある離れで、魔法使いが音の防壁を作った場所で、22歳まで過ごしたの……」
「!」
「今にして思えば、そんなの、ちゃんと防音の魔法を施した部屋でやってよって話なんだけど!」
そう言って、コンスタンツェは「イーーッ」と口を真横に開いた。
「罪人と呼ばれて育ったけれど、両親も兄弟もわたしに優しかったの。だから、寂しくなかった。王族教育だってちゃーんと受けたのよ! ただ、わたしの罪を色んな人が知っていたから、誰もわたしをお嫁さんにしてくれる人はいなかったの。そりゃそうよね。どこかでこそこそ噂をしてるのを、全部聞かれたらって思ったら。常に防音魔法がある場所にいれば、それはそれで疑わしいし」
コンスタンツェは、22歳になってその「防音魔法」に囲まれた離れを出た。それは、罪を犯してから15年後。その年月を経て、彼女の罪はようやく許されたのだ。それまで彼女は防音魔法に囲まれていたため、15年を経た自分が「今はどれぐらいまで聞こえるのか」を知ることはなかった。
「外に出たらね。もう、すごいの。音の洪水で。ものすごく色んな音がまざって、遠くの音も、近くの音も、何もかもが耳に入ってくるの。能力が伸びてしまったのか、聞こえなかったせいで制御できなくなっちゃっていたのかわからないけど」
「ええっ?」
「ずっと誰かが話し続けていて気が狂いそうになってさ。それで、大慌てでもう一度防音魔法が施された離れに戻ったわ。このまま、普通に生きていくことは出来ないんだって、そりゃもう泣いて泣いて……泣いたかしら? ううん? ちょっとその辺あまり覚えてないけど……でも、泣いたんだと思う」
どうして、そんな大事なところで「覚えていない」と言うのか。ティアナが不思議そうにそれを聞けば
「言ったでしょ。色んなホロゥを取り込んで大きくなったって。わたし、混じり物だから時々色んな記憶が出てくるの。まあ、一番はっきりしている記憶は当然『コンスタンツェ』のものだけど」
と答える。なるほど、とティアナは頷いた。今まで、なんとなくコンスタンツェと話をしていても、彼女はどこかつかみどころがない、とりとめもないことを言うことが多かったが、それも影響があるのだろうと思う。
「そこから、頑張って少しずつ調整していって、やっと本当に外に出られたのが25歳の頃。そして、27歳の頃に流行り病で死んじゃったの。可哀想じゃない!?」
「ええ……それは……可哀想ね。そうか。だから、あなた、王城の中も知っていそうなのによくわからないし、色々知ってても色々知らなくて、なんだかよくわからない状態なのね。話をしていてもちょっとよくわからなかったのよね」
「そう! でもね! でもね!」
そう言うと、コンスタンツェは激昂の声をあげた。
「そんなわたしでもね! 王妃のその、何? あの、なんだっけ、マイツェンと癒着? それで、自分は綺麗に着飾っているっていうの? それは、王族にあるまじき行為よ! 王族はそりゃあ美しく着飾って、これだけこの国は豊かですよって主張をするべきものだけど、そのためだけに……はぁ~! 頭が沸騰してきたぁ~……!!」
頭を抱えて「うわあん」と叫んで再びその場でぐるぐると回転をするコンスタンツェ。
それにしても、コンスタンツェのその言葉使いは時々王族としてはいささかよろしくない。ティアナはくすりと笑って尋ねた。
「あなたの言葉使いがたまに粗暴なのって、それも他のホロゥを取り込んだから?」
すると、コンスタンツェは可愛らしく唇を突き出して
「違うわ! もともとよ! もともと!」
と言って、けろりと笑った。
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