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1-2.始まりの日(2)
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「いい加減にして! 人のお金を勝手に持ち出して!」
バネッサは豊かに流れる長い茶髪を振り乱し、義父に向かって叫んだ。時刻はまだ夕方前で、弟と妹は不在。だが、義父は既に酒臭い。
「バネッサ、落ち着いて」
厨房から出て来た母親がおろおろと言うが、バネッサは青色の瞳に怒りの色を浮かべ、眉をつり上げ「落ち着いていられるわけがないでしょう!」と叫ぶ。
「毎月送られているだけじゃ足りないっていうの!? だったらそう言えばいいじゃない、どうして勝手に……」
義父は酒のグラスを片手に、にやにやと笑いながら答える。
「いやあ、違うんだよ。エルヴィラの体が弱くてな。医者にかかる金が必要だったんだ。お前に相談しなかったのは悪かったが、お前はこの家の長女だし、許してくれるだろう? 可愛い妹のためだ」
馬鹿なことを言う、とバネッサは下唇を噛んだ。見れば、変わらずみすぼらしい家。そして、そこにはみすぼらしい格好をした両親がいる。そこまでは今も昔も変わらない。
だが、それとは裏腹に、テーブルの上に並べられている料理は豪華だ。こんな、昼酒を飲む男のために、そんなものを並べる必要があるのか。こんな大きな肉を買える財力がこの家にあったというのか。何が医者にかかる金が必要だった、だと? そう叫びたい気持ちを抑えて、静かに告げる。
「わかったわ。でも、これっきりね。女主人にも金庫番にも話は通しておくわ。二度とわたしの家族に『預け』から金は渡しませんようにって言うからね」
「おいおい、バネッサ、困った時はお互い様だろう?」
「お互い様だったことなんて今までなかったけど?」
ぎろりと義父を睨むと、義父は「何だと!?」とガタンと椅子から立ち上がる。
「いい気になりやがって。体に教えなきゃいけねぇな……!」
バネッサを睨みながら、拳をわずかにあげる義父。しかし、舌打ちをして「くそ、駄目だ駄目だ」と言いながら、彼は再び座った。明らかに苛立っており、足をがたがたと揺らす。
「ったくよぉ~……自分の職業に感謝するんだな! くっそ、うかつに体に傷をつけるわけにゃいかねぇ」
そう言いながら、次は片足で床を踏み鳴らして落ち着きがない。かなり気が立っている様子だが、バネッサはそれに何も言わない。義父はもう一度「くそっ!」と叫ぶと、今度はテーブルの上を指先でトントンと叩き始めた。母親はその様子をおろおろと見ている。
「おい、そろそろ夜になるだろう。お前、仕事に行かなきゃいけないんじゃないのか」
義父はそう言って、早くバネッサに家を出るようにと促した。彼女は心の中で「うるさいわね。今日はあんたたちのせいで休みをとってここに来てるのよ。ふざけないで」と悪態をついたが、それを口にはしなかった。
「はいはい、もう帰るし、もう二度とここには戻って来ないわ。さようなら」
と言って肩をすくめる。母親に視線を送ることもなく、バネッサはドアを開いて外に出ると、バン!と大きな音を立ててドアを閉めた。
ドアが閉まる直前に「バネッサ」と母親の声が聞こえたようだったが、彼女は決して背後を振り向かなかった。ひたすら、早足で家から離れようとする。
(振り返っちゃ駄目。立ち止まっても駄目。だって、そんなことをしたら)
多分、泣いてしまうから。彼女は沸き上がる涙をぐっとこらえながら、夕暮れ時の町はずれを歩いた。
バネッサは豊かに流れる長い茶髪を振り乱し、義父に向かって叫んだ。時刻はまだ夕方前で、弟と妹は不在。だが、義父は既に酒臭い。
「バネッサ、落ち着いて」
厨房から出て来た母親がおろおろと言うが、バネッサは青色の瞳に怒りの色を浮かべ、眉をつり上げ「落ち着いていられるわけがないでしょう!」と叫ぶ。
「毎月送られているだけじゃ足りないっていうの!? だったらそう言えばいいじゃない、どうして勝手に……」
義父は酒のグラスを片手に、にやにやと笑いながら答える。
「いやあ、違うんだよ。エルヴィラの体が弱くてな。医者にかかる金が必要だったんだ。お前に相談しなかったのは悪かったが、お前はこの家の長女だし、許してくれるだろう? 可愛い妹のためだ」
馬鹿なことを言う、とバネッサは下唇を噛んだ。見れば、変わらずみすぼらしい家。そして、そこにはみすぼらしい格好をした両親がいる。そこまでは今も昔も変わらない。
だが、それとは裏腹に、テーブルの上に並べられている料理は豪華だ。こんな、昼酒を飲む男のために、そんなものを並べる必要があるのか。こんな大きな肉を買える財力がこの家にあったというのか。何が医者にかかる金が必要だった、だと? そう叫びたい気持ちを抑えて、静かに告げる。
「わかったわ。でも、これっきりね。女主人にも金庫番にも話は通しておくわ。二度とわたしの家族に『預け』から金は渡しませんようにって言うからね」
「おいおい、バネッサ、困った時はお互い様だろう?」
「お互い様だったことなんて今までなかったけど?」
ぎろりと義父を睨むと、義父は「何だと!?」とガタンと椅子から立ち上がる。
「いい気になりやがって。体に教えなきゃいけねぇな……!」
バネッサを睨みながら、拳をわずかにあげる義父。しかし、舌打ちをして「くそ、駄目だ駄目だ」と言いながら、彼は再び座った。明らかに苛立っており、足をがたがたと揺らす。
「ったくよぉ~……自分の職業に感謝するんだな! くっそ、うかつに体に傷をつけるわけにゃいかねぇ」
そう言いながら、次は片足で床を踏み鳴らして落ち着きがない。かなり気が立っている様子だが、バネッサはそれに何も言わない。義父はもう一度「くそっ!」と叫ぶと、今度はテーブルの上を指先でトントンと叩き始めた。母親はその様子をおろおろと見ている。
「おい、そろそろ夜になるだろう。お前、仕事に行かなきゃいけないんじゃないのか」
義父はそう言って、早くバネッサに家を出るようにと促した。彼女は心の中で「うるさいわね。今日はあんたたちのせいで休みをとってここに来てるのよ。ふざけないで」と悪態をついたが、それを口にはしなかった。
「はいはい、もう帰るし、もう二度とここには戻って来ないわ。さようなら」
と言って肩をすくめる。母親に視線を送ることもなく、バネッサはドアを開いて外に出ると、バン!と大きな音を立ててドアを閉めた。
ドアが閉まる直前に「バネッサ」と母親の声が聞こえたようだったが、彼女は決して背後を振り向かなかった。ひたすら、早足で家から離れようとする。
(振り返っちゃ駄目。立ち止まっても駄目。だって、そんなことをしたら)
多分、泣いてしまうから。彼女は沸き上がる涙をぐっとこらえながら、夕暮れ時の町はずれを歩いた。
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